劇場版 きのう何食べた?
中江和仁監督作品、西島秀俊氏、内野聖陽氏主演映画「劇場版 きのう何食べた?」を見た。
今作は、もともとテレビ東京で放送されていた同名ドラマの映画化。
ドラマ版でも監督をしていた中江監督がそのまま映画の監督を務め、史朗さんや賢二を始め、お馴染みのキャストがスクリーンに帰ってきた。
ドラマ版はレギュラーもスペシャルも全部見てて、劇場版ではあの松村北斗が出ているのだから、これはもう見ないわけにはいかない。
そう思って、再生ボタンを押す。
あらすじ
以下ネタバレあり感想
ドラマからのほっこりムード続く
ドラマの時から賢二と史朗さんの仲睦まじい幸せそうな姿に、終始ほっこりとした気持ちを抱いていた。
この作品は、ゲイカップルを題材にはしているけど、肉体が生々しく絡むシーンもなければ、キスすらない。
仲良く元気にイチャイチャご飯を食べてる2人を、鑑賞者は心ゆくまで堪能できる。
それは映画でもそう。
スケールが大きかったのは最初の京都旅行くらいで、あとの舞台は馴染みの2人のマンションと、史朗と賢二の職場と商店街。
出てくるメンツもほぼ変わらない。
雰囲気もドラマの時の雰囲気そのままできてるから、多少重い内容になったとしても、そこまで緊迫感はなく、穏やかなムードが流れている。
あまりにも穏やかなシーンが続くので、映画ということを忘れそうになる。
映画館だとちょっと退屈だったかも。
そのくらいドラマの系譜を受け継いでいるので、ドラマ版が好きだった人は絶対に好きな作品になっている。
食欲と料理欲をそそられる映像
この作品ほど、ご飯が食べたくなり、料理をしたくなる映像はない。
この作品の特徴として、料理をする人物は皆んな、ご丁寧にレシピを説明しながら料理を作ってくれるし、そんなに手数が多かったり、作るのが難しいものもほとんどないから、鑑賞者が真似をしやすい。
しかも出てくる料理が全部美味しそうだから、「あ、これ作ってみよう!」とか、「これ食べてみたい!」という思いが次々に湧き出てくる。
食欲をそそる綺麗な映像に、癒されつつもお腹が鳴る。
口の悪い田渕くん
映画版で初登場の田渕くんは、原作の同名漫画にも出てきてるらしい。
イケメンだけど、口が悪くデリカシーがない。
ちょっとKYで、人の不幸は蜜の味と言わんばかりのその性格の悪さがチャームポイントの田渕くん。
イケメンしか取り柄のない彼。
実際にいたら絶対相容れないタイプの彼。
嫌いで嫌いで、仕方なかったであろう彼。
でも、いいキャラだった。
松村北斗が演じたからってわけじゃなくーーいや、それも多少はあるけどーー自分の思ったことや、言いたいことをズバズバ言えて、自分は何言われても気にしない。
自分という軸をしっかり持っていて、実は優しさもきちんと持ち合わせている。
相手を大切に思ってるがゆえの、不器用な愛情表現がすごく可愛らしくて、いじらしかった。
登場シーンはそんなに多いわけじゃないけど、どこか存在感がある。
それに、松村北斗の初々しい演技が、田渕くんの新入社員としてのフレッシュさとマッチしていたのも、映画版ならではのいいアクセントになっていた。
田渕くんと賢二との相合傘のシーンが好きすぎて、しばらくリピートして先に進めなかったのは、また別の話。
ただのほっこり系映画じゃない
この映画、ただのほっこり映画じゃない。
冒頭でほっこりしたムードが味わえると、私は確かに書いたけど、今作をただのほっこり映画としかみないのは少々もったいない。
史朗が賢二を普段行かない旅行に連れて行ったのは、ただ賢二が誕生日だからではない。
正月に賢二を連れて行ってから両親の具合が悪くなり(特にお母さんは寝込んでしまうぐらいこたえてしまって)賢二にもう来ないでほしいと言われたことに対しての罪滅ぼしの側面がある。
また、賢二のお父さんが亡くなった際、久しぶりに実家に帰った時も、彼は実母に店を継がないか持ちかけられる。
「一緒に住んでいる人がいるから」と、曖昧な態度をとる賢二に母は「その人はずっと一緒にいてくれるの?」「1人で生きていくのは寂しがりやのあんたには向いてない」とバッサリ言い切ってしまう。
息子がゲイであることをなかなか受け入れられない親がいて、その一方、受け入れてるからこその心配をしてしまう親がいる。
他にも航くんと、富永さんとのちょっとした気まずい展開にも、こっそりとある議題が隠れている。
この作品はもちろんフィクションであり、作り物ではあるけれど、実際に性的マイノリティと言われている人たちは、こういう世間との壁や生きづらさを感じているのかなと、想像することができる。
解像度の高いリアリティと、この物語の思いがけない物語の深さを感じる場面が多々あった。
愛する人と平和な日々を過ごしている幸せ者でも、実は自分がゲイだからという理由で常にこんな不安を感じているのかと、ハッとさせられたこのセリフ。
もうずいぶん受け入れられてきた性的マイノリティ。
それでもやっぱりマイノリティって言われてるから同じような人が少ないのは事実。
だからこそ、今目の前にいる愛する人が本当に大切な人なんだなと、1番グッときた場面が、この小日向さんの場面だった。
今作はドラマとはちょっぴり違う、映画ならではのメッセージ性を秘めていて、気を抜いてると鑑賞者はそのメッセージを受け取り損ねるのでご注意を。
最後に
この映画は、鑑賞者の見方一つでいろんな顔を見せてくれる作品だと私は思う。
美味しそうな料理と、幸せそうな2人に癒されるほっこりヒューマンドラマでもあるし、ゲイカップル、果ては性的マイノリティの人たちが直面する周りの人との壁や、生き辛さについて考えさせられる深いメッセージ性もこっそり持ち合わせている。
様々な見方ができるのも、本作の大きな魅力の一つ。
それに、どんな見方をしても結局穏やかな気持ちになれることは間違いない。
週末は、ゆっくり映画でも見ようと思っている貴方に是非。
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