見出し画像

ちひろさん

今泉力哉監督作品、有村架純氏主演「ちひろさん」を見た。

こちらネットフリックスオリジナル映画。
安田弘之氏の同名漫画を原作とし、とある海辺の田舎町で暮らす“ちひろさん“が、町の人とゆるやかに交流していく、とても穏やかな作品。

有村架純の可愛さに惹かれて鑑賞スタート。

あらすじ

元風俗嬢のちひろさんは、とある海辺の小さな町の小さなお弁当屋さん“のこのこ弁当“で、看板娘として働いていた。
風俗嬢であった過去を隠しもせず、飄々と働くちひろさんは、自由気ままに街での生活を楽しむ。
そんなちひろさんの元には、さまざまな悩みや苦しみを抱えた孤独な人々が集まってくる。
彼らはちひろさんとの交流を通して癒やされていくけれど、ちひろさんはーー。

海の水面に
キラキラ光が反射するかの如く

まず言っておく。
この映画好き。
結構好き。

何が良いって、綺麗な田舎町ののどかな感じとか、ちひろさんのキャラクターと、それぞれの登場人物との絡み方とか、穏やかな雰囲気とか、もう見てるだけで心が浄化されていく感じ。

“ちひろさん“を見ている2時間ちょっとは、本当に心が落ち着いていて、海の水面に太陽の光がキラキラ反射しているような、そんな楽しい気持ちで過ごせた。

ここが見たかったよ
“ちひろさん“

だけども、いやだからこそ。
ここを観ることができれば、もっと良かったというポイントがいくつかあったので、そのことについてまず書いていこう。

あ、ちなみにネタバレありなんで嫌な人はここでお別れ。


①風俗嬢になった経緯をもっと知りたい

ちひろさんがなぜ風俗嬢になったのか、そこをもう少しきちんと描いて欲しかった。
私は原作未読だから、もしかしたら原作の方には描いてあるのかもしれないけれど、どうして普通の地味な女の子が風俗嬢として生きていくことを決めたのかいまいち分からなかった。

子供の頃に出会ったちひろさんが水商売の人で、その人に憧れていたから?
でもだとしたら、なぜ最初から風俗嬢にならなかったの?

ちひろさんがどうして風俗嬢として生きていくことを選び、どのくらい風俗嬢としてやってきて、なぜ突然辞めてしまったのか、その辺をもっと掘り下げてくれると、ちひろさんにもっと感情移入出来たのに、と思った。

②ちひろさんの過去についてもっと知りたい

①にも繋がることだけど、この映画を見るだけでは、ちひろさんの過去について風俗嬢をやってましたってこと以外ほとんど分からない。

ところどころ家族との描写があって、どうやら母親(もしかしたら両親)と折り合いが悪いらしい。
弟の電話も何回かに1回やっと出るみたいな感じで、どうしてそんなに家族と距離をとってるのかなーと気になっていた。
小さい頃のちひろさんが、1人で夜巻き寿司を作って食べてたのは、どうしてだったんだろう?
どんな環境でちひろさんは育ったんだろう?
すごく気になる。

あと、ちひろさん背中ぶすりと刺されてる。
多分お客さんに刺されたのだと思うけど、もしかしてそれが原因で風俗嬢辞めちゃったとか?
めちゃくちゃ知りたい。
スピンオフでいいから見たい。

③ちひろさんの葛藤や苦悩をもっと知りたい


風俗嬢って結構大変な仕事だと思う。
いや、どん仕事も大変なんだけど。

風俗嬢って、私が想像する何倍も何十倍も過酷で大変な世界じゃないかと思う。
肉体的にも、精神的にも。

これは全然関係ないけど、前に風俗嬢をやっていた女の子の恋愛を描いたショート映画を見た時に、主役の女の子の心がどんどん死んでいく様子がリアルで、心が締め付けられたのを覚えている。
(気になる方は、是非下のリンクから。こちらもオススメなので、今度感想を書きます)

また、この間見たエゴイストに出てくる龍太も自分の気持ちを押し殺して売りをしていた。

私は創作物でしかその世界を知らないけれど、やはり、過酷な世界であることには変わりはないはず。

だとすればちひろさんも、きっと過酷な世界に身を置いていたと思う。

好きでもない人をずっと相手にして、心を無に、
ただ仕事として行為を終わらせていく。

そんな過酷で淡白な経験が、あの飄々として明るく、でもどこか掴みどころのないちひろさんという像を作り出していったと思うのだけど、その部分についての掘り下げをもっと見てみたかった。

ここからはお楽しみタイム

さて、ここまではちょっとした願望を言ってきたけど、ここからは「ちひろさん」のおすすめポイントを語っていく。

穏やかな空気が流れる時間

これずっと言ってるけど、本当にこの映画は最初から最後までずっと穏やかな時間が流れていて、見てるとゆるやかな気持ちになっていく。

ただ穏やかというだけで、平和なわけじゃない。
例えば、ある日虐められているホームレスを助けて仲良くなるけど、ある日そのホームレスが死んでいるところを見つけて、その遺体を山の中に埋めてたり。

鳥の死体をみつけて、埋めてみたり。
そしてそのあと平気でラーメン食べてみたり。

所々不穏は漂っている。

だけど、その不穏さにゾクゾクすることは何故かなく、ぼーっと暖かい気持ちになっていく。
この「ちひろさん」の中の穏やかで澄んだ空気感に、心癒され、リラックスしたような感覚に包まれた。

なんでだろ?
不思議。
本当に不思議。
どうしてか分からないけど、この映画を見ている時間はずっーと穏やかで、プカーと海に浮かんでいた。

理想の年上のお姉さん

「月の満ち欠け」という映画をこの間見たのだけど、有村架純は本当に理想の年上のお姉さん感が抜群。

あんな綺麗なお姉さんがお弁当売ってたり、猫と戯れてたら私だって盗撮するし、あわよくば仲良くなりたいと思う。

だからおかじは、悪くない。
自然の摂理。

元風俗嬢ってことを開けっぴろげにしてるから、あんなに綺麗なのに敷居は高くないし、ちょっと下ネタいっても明るく返してくれる安心感、お行儀もちょっとだけ悪くて、口も悪いことによる親近感。
それにちひろさんから醸し出される絶妙なエロティシズム。
そんなに露出の多い格好をしてるわけではなく、むしろパーカーとか、お弁当屋さんの制服とか、普通エロを感じない格好してても、どことなく色気を感じる。

ちひろさんは、理想の“年上のお姉さん“そのもの。

私もこんな綺麗なお姉さんに甘やかされたかったし、そうなりたかった。

それを見事に演じることができる有村架純が天才。

孤独を愛し、孤独に愛される

映画の本当終盤、とある建物の屋上でちひろさんとその愉快な仲間たちはお団子パーティをしていた。
みんな楽しい時を過ごしていたのに、ちひろさんは突然ふらっと姿を消してしまう。

そのことに気づいたお弁当屋さんの主人の奥さん、タエさんからひろさんに電話がかかってくる。

「寂しい気配がスッて消えちゃったんだもん」
「ちひろさん」/タエさんのセリフ

このタエさん、目が見えない。
目が見えないからこそ、このちひろさんの気配を感じ取ったんだと思うのだけど、私はここでやっと気づいた。
ちひろさんのどこか掴みどころのない感じってきっとずっと寂しかっただからなんだと。

そしてタエさんからまた一言。

「もういいんじゃない。どこにも行かなくても。貴方なら、どこいっても孤独を手放さずにいられるわ」
「ちひろさん」/タエさんのセリフ

最初、私はこのセリフの意味が分からなかった。
「もう貴方は孤独じゃないわよ」と言われたら納得できるものを「孤独を手放さずにいられる」って何?

でも、ラストシーン。
ちひろさんが牧場にいたところで、あーちひろさんって1人でいたいんだな。
誰にも干渉せず、そしてされず。
寂しさを抱えながら、生きていくのが好きなんだな。
それがちひろさんのアイデンティティなんだ。
それを分かっていたからタエさんは孤独を手放さずに、なんて言ったんだな。
と気づいた。

はぁ、下手な自己啓発本より私の心に突き刺さるよ、ちひろさん。

最後に

語りたいことが沢山あるので個別で言いたいことは今後別の記事で書いていくとして、この「ちひろさん」は私の精神安定剤となった。

目で見るSSRI。副作用なし。

見てる間、悲しい場面なんてないのになぜかポロポロ涙が出てきて、それで見終わった後にはなぜかスッキリとしてる。

どこか心の拠り所を探している貴方に、是非。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?