すずめの戸締り
新海誠監督作品、原菜乃華氏、松村北斗氏ダブル主演の「すずめの戸締り」を見てきた。
この作品去年の11月公開で、早朝一本の上映だけとはいえども現在4月12日(鑑賞当時)。
半年ほど上映されてるロングラン作品である。
それで遅ばせながら私も鑑賞してきた。
何で今更?
もっと早く見に行けば、早起きしなくてもよかったのに。
そう、本当にそう。
何でけど、私新海誠監督の作品はちょっと苦手意識がある。
2016年に大ヒットとなった「君の名は。」は良かったのだけど、前作の「天気の子」の展開がちょっと苦手だったので(とは言いつつちゃんとパンフレットは買ってるのだけど)見るのを躊躇していた。
でも松村北斗を知って、「これは見るしかない……!」と思い、苦手な早起きを頑張って、それも休みの日に、眠い目擦りながら電車に乗った。
あらすじ
以下ネタバレあり感想
※敬称略注意
新海誠らしい絵の綺麗さと作品の展開
個人の見解だけど、新海誠監督作品と言えばと思うところが二つある。
一つは、緻密で繊細な絵の描写。
これは新海誠作品全てに言える。
「君の名は。」の彗星の描写とか、「天気の子」の雨と水の描写は最高だった。
今回の映画も、冒頭のすずめの幼い頃の記憶や扉の向こうの世界の綺麗だけどなんか不気味な感じとか全部美しかった。
もう一つは、主人公にやたら都合がいい展開。
今回もそうだった。
主人公が宮崎を飛び出して愛媛に着いた時も、ミミズのとこまでその日あったばかりのチカが送ってくれるし(ヘルメットは当然2つあるし)、愛媛から神戸にいくのもたまたま通りかかったルミさんが送ってくれて挙句面倒まで見てくれるし、東京から宮城まで行くのも芹沢がほぼ文句も言わずにすんなり乗せてくれる。
映画だから全部の展開に時間を割けない!でも自分の語りたいことはたくさんある!詰め込みまくりの展開のおかげで、よく言えばテンポがサクサクしていて飽きない、でも本音は「登場人物みんな人を疑う心持ってないの?」と、私の中のブラックな心が芽生えてしまった。
監督は性善説論者?
なんて思ってしまったけど、でもまぁそれを凌駕するほど強いメッセージ性と感動が待っていたので、そんなブラックな気持ちはいつの間にか飛んでいくのだけど。
松村北斗の声を聞けるなら
仕事の日でさえ、出社する30分前にしか起きず、休みの日にわざわざ早起きなんてありえない私が、なんで8:40なんて超早い時間帯の本映画を今回見にいったか。
その理由の98%くらいはこれ。
「松村北斗の声を聞きにいこう!」
theミーハーオタク!
でも、やっぱり好きな人が出ている作品は見たいと思うのがオタク心というもの。
アカデミー賞の話題賞にもあがっていたし、例え内容が私に合わなくても、松村北斗の声が聞けるだけで1200円の価値はある。
そう思っていた。
それで聞いてみた結果、うん。分かってた。
良すぎる!
てか椅子可愛すぎる!
人間の時も良かったけど!
椅子に変わってコミカルにな演技、的確なツッコミ、すずめに対しての優しさ、石に変わっていくときの絶望と覚悟、もちろん閉じ師としての台詞も全てが良かった。
映画を見る前から、上映中きっとオタクムーブをかますであろうと予測していた私は、どんな場面が来てもその良さを全身で体現しないように、もししてしまったとしても、なるべく周りに迷惑がかからないように、劇場の1番後ろの席で前後左右誰もいない席を選んだ。
それで正解。
松村北斗の声に頭を抱え、優しさに小さくも悶絶し、最後の演技に号泣し続けた。
そんな人が隣にいたらとてもとても集中なんて出来やしない。
それぐらい声だけでも、松村北斗の演技力というものに私はずっと感動していた。
災害と向き合い続けた新海監督
「君の名は。」は隕石衝突、「天気の子」は洪水、そして今回の「すずめの戸締り」は地震とここ数年の新海誠監督の長編映画は日本の災害をテーマに描かれている。
日本は災害大国で有名だ。
ふと何でだろう?と思い、少し調べてみると興味深いことがわかった。
まず台風や洪水について
そして地震と津波について
つまり日本という国は、その立地と土地の形状上、どうしても災害の影響を受けやすい。
しかし、これは悪いことばかりではない。
日本が温帯に位置しているおかげで私たちは、春夏秋冬の移り変わりに心煌めき、豊かな水資源を得られ、美味しい食物に恵まれ、温泉で心身を癒すことができる。
新海監督の根底には自然の美しさと恵に対しての感謝があると私は思っている。
燦々と輝く太陽の光、木々の力強さと細やかな枝葉、その木漏れ日、幻想的な星空と彗星の軌道、透き通り躍動感ある雨、突然はじまる雷雨、まるで生きてるように蠢く大地ーー。
全ての自然の描写がとにかく綺麗。
それが人間にとって不都合な出来事であったとしても、見惚れてしまうほど美しく描かれている。
それは新海誠の「日本人は、我が国の自然の豊かさと驚異と、うまく共存していかなければいけない」という暗に隠されたメッセージではないだろうか。
宮崎、愛媛、神戸、東京、宮城の移動
この物語は、主人公と草太がダイジンを追って日本の各地を移動する。
最初の宮崎は九州、愛媛は四国、神戸は関西、東京は関東、そして宮城は東北。
どれも過去に大きな災害の被害にあった場所、もしくはこれから起こると予想されている大災害で甚大な被害を被るとされている場所。
どこにいても、いつか突然にその当たり前は失わられてしまう。
どこか一ヶ所に留まるのではなく、そのような多くの土地を訪れることで、災害への恐怖が他人事ではなく、より身近なものに感じる。
ずずめが各地の後ろ戸を締めていく上で、その土地に残ったかつての人々の思いと、災害によって一瞬で失われた命と風景がかつての輝きを一瞬取り戻す情景に一種のカタルシスのようなものを感じた。
ただの青春映画じゃない
これはただの恋愛映画じゃない。
というか、恋愛映画じゃない。
ボーイミーツガールな作品であるし、キラキラ輝く青春の甘酸っぱさも勿論あるにはある。
すずめも草太に惚れていた。
だけど恋愛映画ではない。
これはすずめの成長の物語。
震災を経験し、大切な人を失ったすずめ。
彼女は、どこか寂しげな雰囲気を持ちつつ、若さ故自分の限界を疑うことのない無謀な行動力と、溢れ出る感情の豊かさも持ち合わせている。
そんな彼女が、日本各地を旅し、このかけがえのない経験を通して、少しずつ成長していく姿と、誰かのために自分を犠牲にしてでも必死に走り続けるという彼女の姿勢に、感動の涙を流さずにはいられなかった。
最後に
この映画昔の懐メロを流すシーンがあるのだけど、それがまたいい。
特にすずめが宮城の実家に帰る時に、芹沢の車で流れた「ルージュの伝言」
「ルージュの伝言」といえば「魔女の宅急便」。わたしも大好きなジブリ作品だ。
「魔女の宅急便」は少女が自分の地元から遠く離れた土地に降り立ちそこで成長していく作品だけど、この「すずめの戸締り」はその逆。
地元を離れた少女が、過去の大切なもののために地元に帰る作品。
この対比で流れる「ルージュの伝言」が個人的には凄くグッときた。
この作品は災害国日本に生きる人間として、凄く心に残った。
「当たり前にくる明日は、決して当たり前ではない」
本数は少ないけれど、まだ上映されているので是非観てみてほしい。
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