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わたしはあなたの知ってるあの子じゃない

あなたはあの子に似てるね、って言われると、むっとした顔になってしまう。え、普通に嫌じゃない?誰々と似てるとか他の人に例えられるのすきじゃないし、それが自分の知らない相手だったらなおさら、だからなんですか?の気持ちになる。全然いい気持ちしない。人を自分の知ってるものですぐに分類するの、やめた方がいいよ。と心の中でいじわるなことを言ってみる。なんでも分類してわかった気になっていて、ばかみたいだなあ、と思いながらハイボールをぐびぐび飲んで適当な相槌を打つ。

昔よくライブに行っていたバンドのバンドマンと初めて2人で飲みに行った。3年前のわたしが知ったら死ぬほどびっくりすると思う。というか、1週間前のわたしが知ってもびっくりすると思う。
偶然街中で声をかけられて、とんとん拍子に誘われてその日が来た。正直行きたくなかったけど、誘われた時のメッセージの上手な断り方がわからない。当たり障りのない受け答えをしていても、それは緩やかに誘導されていて、そこにまんまと導かれてしまう。

めちゃくちゃ安い居酒屋に連れて行かれた。別にお酒が飲めればいいから、値段はまあ気にしないけど、席に座ってお酒を飲み始めた途端、そう言う話ばかりになって正直びっくりしたし引いた。
前の恋人のどこがすきだったか
どんな人だったか
どんな経緯で付き合ったか
付き合う前に体の関係は必要か 
付き合うまでにどんな過程を踏むか
デートはどこにいくか
結婚願望はあるか
どんなふうに相手を愛するか愛を示すか
とか、なんか、そういう話ばかりでうんざりしてしまった。仕事の話とか大切にしている言葉とかすきな音楽とかそういうなんでもない、でもその人自身の話がしたかった。
過去にどんな恋愛をしたとか体の関係が先か恋人という契りが先かとか朝何時までお酒を飲んで夜を明かしたとかそんな話はどうでもよくて。その人を知りたいからする質問ではなくて、ただのセックスに辿り着くための答え合わせみたいな時間。ただただ退屈で面白くもないけど笑ってみる。ワンチャンを狙われてる匂いがぷんぷんして、わたしってそんな安い女かなとすこしだけ悲しくなる。相手は永遠に自分の過去の恋愛の話とか昔の武勇伝(ともなんとも言えないオチもない話)を語っていて、話を聞けば聞くほど恋愛観がどクズなバンドマンそのもので笑ってしまいそうだった。きっと、本当に誰かを愛したことなんかなくて、誰かに好かれてる自分がすきで、でも本当はずっと寂しくてその寂しさを埋める一時的な埋め合わせがほしいひとなんだろうなあ、と思いながらお酒を飲んだ。ほんとはもっとおいしいアテでお酒を飲みたかったな、なんならこの間の会社の飲み会の方が楽しかったな、、あまりにも過去の恋愛をぺらぺらと話すから、このひとは昔のわたしだ、と思った。弱さを曝け出せば繋がれると思っている。でも、それは、幻想なんだよ。

飲んでいる途中で何度も、あなたは本心が見えないと言われた。まあ、それは、見せないようにしてたからね。見せても意味ないし見せる理由もないし。
変に期待されても、変に恨まれても怖いから、真実半分、嘘半分でその場をやり過ごす。自分でもびっくりするくらい表情作りも完璧で、女優さながらだと思える。

2軒目は映画の名前でカクテルを作ってくれるバーに連れて行かれた。あまりにもその流れが自然すぎて、この流れで何人もの女の子をホテルに連れて行ってるんだろうなあと伺えた。ご飯を食べている時はすぐに無くなりそうな飲み物に気がついて、声をかけてくれる。傘を刺すときは傘からはみ出ないように気遣いながらさしてくれる。おしゃれなバーに連れて行ってくれる。でも、その行為のひとつひとつに過去の女性の影がちらつく。所詮過去の女性が作り上げた作品にすぎないのか、と思うと一気に酔いが覚める。

バーでは水色のなんとかって言う(1ミリも覚えていない)お酒を飲んだ。相変わらず話の内容は過去の恋愛とか、それぞれの恋愛観とかの話。今日何時に帰る?と聞かれて終電までには帰ります、と言う。そしたら、今日どんなつもりで来たの?って聞かれた。あからさますぎて笑っちゃった。逆にどういうつもりで誘った?って聞きたかったけど聞いたら終わる気がして聞かずに終わらせた。
自分からは決して誘わない、けど誘われたら拒まないで全て受け入れる、みたいな、必要とされる自分でいたい、みたいな少しのプライドを感じた。それって悲しいな、と思ってしまう。誰かに愛されていたいという欲求が見え隠れしていて、それはいちばんの孤独なんじゃないかと思える。

終電前に、わたしは次の日も仕事だから、と言って駅で別れた。今度は俺の最寄りで会おう、とかわたしの兄弟と一緒に飲みたい、とか俺の家は〇〇のバス停降りた目の前で、とかそんな話も冷たい風と一緒にわたしの隣を通り抜けていく。
もう会わないけれど、わたしもあなたも幸せになれるといいね。寂しさを飼い慣らせるといいね。

わたしは誰かに、あなたはあの子に似てるねなんて言わない。そんなこと言われたら、あなたのことはもうわかったからこれ以上知らなくていい、と線引きされた気持ちになる。生きてきた世界も環境も聴いてきた音楽も見てきた景色も体験してきた絶望も感じてきた幸福もなにもかも違うんだから、そんな考え方愚かだなあとわたしは思っている。

そんななんでもない少しだけ非日常の夜の話。
わたしはほんとうに昔からいらない縁ばかり重ねられてきた。神さまがもしいるなら、わたしの人生はおもちゃじゃないよ、こんなチープな映画みたいな展開いらないよ、って伝えたい。
バーで飲んだ真っ青に透き通るカクテルの色を思い出す。海よりは浅く、空よりは深い青色。わたしはそれを飲み干してまたひとり、雨色に染まった夜の街を歩き始めた。

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