連載小説 魂の織りなす旅路#54/境目に在る魂⑴
【境目に在る魂⑴】
「気づいたかや。」
男は皮袋の水筒を差し出しながら、赤土の上に横たわる僕に向かって言った。
「思い出したんやねぇ。あっちのことを。」
僕は起き上がりながら皮袋の水筒を受け取り、ぐいと勢いよく水を飲んだ。
「でも、僕にはわからないんだ。どうやら僕は、あちらとこちらの両方にいるようだ。同時にね。」
「そうやねぇ。そういうもんやねぇ。」
男がさも当たり前のように言うので、僕は少し苛立って声高になる。
「そういうもんだって? 同時に2箇所に存在するだなんてあり得ないじゃないか。」
男はじっと僕を見つめた。
「あり得ない? いやいや、普通のことさね。そら体は物質やからねぇ、同時に2箇所にはおられんよ。でも、俺らにとっては何でもないことさね。」
「俺らって、あんたも俺もちゃんとこうして体があるじゃないか。僕はあっちでは少年、こっちでは大人の男性の体だ。あんたはじいさんの体をしている。」
男は少し困ったような顔つきになり、首を左右に振った。
「まだ気づかないんさねぇ。よっぽど物質世界の影響を受けているんやねぇ。もうここは境目やのになぁ。まぁ仕方ないやね。物質世界で生まれた魂は、物質の影響を強く受けるもんさね。仕方がない、仕方がない。」
僕は混乱して、男の顔から目が離せなくなった。魂? 物質世界の影響? 言葉を失った僕を見て、男は話を続ける。
「でもやねぇ、あんたという魂がここに生まれてこられたってことはやねぇ、あと少しで、この境目の先に辿り着けるってことさぁね。」
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