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【書評】ダークファンタジーの女王が贈る”本物の姉”を探し求めるミステリー『豆の上で眠る』

後半の畳みかけが秀逸すぎて、一気に読んでしまったが、後味が悪い。今、夜中の3時で誰もいない部屋に自分一人だと気づくと、今生きている世界が本物の世界だろうか?と疑うような薄気味悪さを感じる。

湊かなえさんの作品にとって「後味が悪い」というのは、ほめ言葉ではないだろうか。

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湊かなえ作の『豆の上で眠る』は、一度は失踪し、戻ってきた姉が本物かを模索するミステリー。

タイトルの「豆の上で眠る」は、アンデルセン童話の『エンドウ豆の上に寝たお姫さま』から。『エンドウ豆…』は、王子様が「本物のお姫様は、エンドウ豆の上に何枚布団を敷いたとしても、布団の下にエンドウ豆があることに気が付くほど繊細」という信条を基に、「本当のお姫様」を探す。

本作ではその童話から着想を得ている。主人公・結衣子の姉・万佑子(小学三年生)が、ある日突然失踪してしまう。二年後に戻ってきた万佑子が「本当の万佑子か」という争点を展開。

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万佑子がいなくなったのは、神社から歩いて家に帰るまでの数百メートル。近所の人や警察が懸命に探すも、有力な手掛かりはつかめない。
そんな中、隣町で万佑子と類似した条件で失踪した女の子が保護されたというニュースが。女の子は、自宅から半径一キロメートルも離れていない民家で、無職の男に裸で犬用のゲージに入れられ、監禁されていた。死んだ犬の代わりにしていたようで、ドッグフードを与えられていたという。
それを聞いた母は、「警察なんて信じていられない」と、近所の変態探しを始める。そして周りに怪しまれた母は、妹・結衣子をだまし、変態探しを手伝わせるように。そこで結衣子は思う。「もしも失踪したのが自分だったら、母は万佑子に同じことをさせないだろう」

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そして事件からちょうど二年後、万佑子が保護される。二年間の記憶はなく言葉も発さないが、DNA鑑定結果も万佑子だと言う。しかし結衣子の目には全くの別人に映り、「本当に万佑子なのか?」カマを掛けた質問を繰り返す。果たして、その真相は……?

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全体を通して、暗い雰囲気が漂う。姉が急にいなくなって、学校では気を遣われ、今度はいじめられて、変態探しをさせられ、姉ではないと思われる人は帰って来て……。楽しかったあの頃をいくら思っても戻れない……。

ダークファンタジーは湊かなえさんのお得意なところで、その展開にグイグイ引き込まれる。

そして、〝変態探し〟や〝お茶の水女子大学を目指しているしっかりした女の子・なっちゃん〟など、クスッと笑ってしまうキーワードが散りばめられているところも実はポイント。

最後の真相が明らかになる章は圧巻。ものすごい勢いで真実が語られていく。腰が痛いなぁと思ったら、2時間近く同じ姿勢で読み続けていた。

ぜひ、身近な人が「本物なのか」疑いながら読んで頂きたい。


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