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夜に駆けた話

あれは高校2年の夏のことだった…

深夜1時半ごろだったと思う。

とてもお腹が減った。

私はサッカー部で、翌日には練習試合の予定がある。すでにこんな時間まで起きていることが間違いなのかもしれない。

しかし腹が減っては寝れぬ私は、おもむろに冷蔵庫を漁った。

母親は食料をよくダンボールで箱買いするタイプの人なので、いつもなら食材で賑わっているはずの冷蔵庫の中は、こういう時に限ってスカスカしている。

しけてやがる。

そんなことを思いながら冷蔵庫の扉を閉めかけたその時。私の目にあるものが映った。

ベーコンである。

とにかく腹が減っていた私は、ベーコンを焼くことなく、あの布団を掃除機を使って真空にする奴みたいになっているベーコンを引っ剥がしてすぐさま口に放り込んだ。

幸せが口内を駆け巡る。

私の手は止まることなく、全てのベーコンを口へと放り込んだ。

うまい。その時の私には旨すぎたのだ。

暫くして歯を磨き、沈むように溶けていくようにベッドで横になった。

その瞬間とてつもない痒みが私の全身を襲ったのだ。

経験したこともないような痒みに驚き、慌てふためいた私は隣の部屋で眠る父親を起こした。

「おとん!なんか身体がめっちゃ痒い!色んなことどうしよう!」

普段からおちゃらけていて優しい父親も一緒にパニックになって慌てふためいた頃、私は全身におびただしい数の蕁麻疹ができた。

その時、私の脳裏にあのベーコンが浮かんだ。

夜中にいきなりさ、いつか封を切ってたベーコン。君とは、もう3日ぐらい消費期限が切れてるよ。

別に君を求めてないけど、横(冷蔵庫)にあると食べたなる、君の消費期限切れのベーコンのせいだよ。

トゥールトゥットゥットゥットゥットゥットゥールトゥットゥットゥッ。



そして私は翌日のサッカーの練習試合を辞退し、父親と2人でチャリンコで、真夏の深夜2時半頃。

忘れてしまいたくて閉じ込めたベーコンに
差し伸べてくれた父の手を取る
涼しい風が空を泳ぐように今吹き抜けていく
(チャリンコを)掴んだ手を離さないでよ
二人今、夜(病院)に駆け出していく。


ps.消費期限切れのベーコンは火を通さないで食べると蕁麻疹出ちゃうからちゃんと火は通した方がいいお。



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