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23-「見える化する」人と「みる」人のセッションに必要なコト

ファシリテーターにとって、必要スキルとして「場をみる力」「場を見える化する力」「場を転じる力」と紹介する中で、「場をみる」とは一体何か、何に気をつけなければいけないか、それを支える対人関係のスキルは何か。「場の見える化」についても、様々な手法の特徴紹介から、なんのためにやるのかといった目的、見える化以前の大前提を述べてきたが、「場をみる」ことと「場をみえる化」することを一人で手がけるのは相当に難しい。もちろん訓練や経験豊富なファシリテーターは二役を同時に手がけることができるが、可能ならば見える化を担う人(グラフィッカー)とみる人(ファシリテーター)は分けて、ともに現場に向かうことをお勧めしたい。とは言え、習熟度も考え方も得意なことも違う他人同士が、動的判断が求められる場において、いかに場をホールドし、セッションのように促進していくか。そこで求められるポイントを今回は述べていきたい。

・理想の座組み

そもそも、ファシリテーター一人で、全部をやってしまおうと思わないことが大前提だ。ファシリテーターも一人の人間である。参加者との相性やタイミングにおいて、ファシリテーターがハマらない場面はきっと訪れる。その時、志を共にしつつ違う立場の人が発言するだけで、びっくりするほどスムーズに受け入れられることもよくある。

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理想を言えば、クライアント(コーディネーター)側にもワークショップやファシリテーションのリテラシーがあり(ないしは、その可能性を理解しており)、グラフィッカー、ファシリテーターが組んでいて、なおかつ、参加者側にも運営側の狙いを理解してくれているサイドワーカーがいてくれていると磐石であろう。

サイドワーカーというのは簡単に言えば「良き参加者」であり、穿った言い方をすれば「裏ファシリテーションをする人」でもある。参加者側だが、運営側のことも理解しており、場面場面で良いパス出しをするような役割をしてくれる人のことである。ただ、あくまで「良き参加者」なので「サクラ」とは違う。運営側の人が参加者として参加することがあるが、時にわざとらしさも出るため、サイドワーカーの位置付けは実は難しい。むしろ別の現場ではファシリテーションをする人が、たまたま今回は参加者としていてた、という方がサイドワーカーの力は存分に発揮されたりする。

サブグラフィッカー、テーブルファシリテーターは、参加者数が多いとき、グループワークをする際、その場でのファシリテーター役を担ってくれる存在のことである。広義のサイドワーカーではあるが、運営側の役回りのため、むしろファシリテーター・グラフィッカーの位置付けである。グループサイズが小さいからやりやすい、ということではないため、求められるスキルも同様に求められる。

とは言え、あくまでも目的は当日の場をいかに共創的なものにすることが目的であるのだから、無駄に座組みを多くする必要はない。座組みが多くなればなるほど、関わる全員とのビジョンの共有が重要になってくるし、セッションできる難易度も高くなる。

とは言え、最低限にあらかじめ共有しておきたいことは、クライアント(コーディネーター)側とのすり合わせ(「参加者の見立て」「目的の確認」「評価方法」「条件の確認」「会場の下見」)だろう。これは「FA11-コミュニケーションのデザイン(環境編-準備ver)」で記述しているため、それを参考にしてほしい。

そしてクライアント(コーディネーター)側とのすり合わせが行われたなら、今度はその場をどう作り上げていくか、グラフィッカーとファシリテーター同士の「あうんの呼吸」のポイントを共有することが求められる。

最近ではコーディネーター側がグラフィッカーを手配してくれることが増えてきており、その日限りのセッションをこなすことが求められるため(本当はグラフィッカーもこちらでコーディネートしたいのだが、そんな状況ばかりではないので)、自分なりに確認しているポイントを説明していきたい。

大きく言えば

「いつもどこに注意して聴いていますか?」
「今回はどう描こうと思っていますか?」
「収束はどうしましょうか?」

この3点である。

・いつもどこに注意して聴いていますか?

グラフィッカーとファシリテーターが別の場合、ファシリテーターとして一番気になるところは、グラフィッカーに”書(描)いてほしい発言を書(描)いてもらえるか”ということだ。ファシリテーターとして場をホールドするにあたり一番恐ろしいのは、議論や流れを見失う(ロストする)こと。グラフィッカーがキャッチする発言とファシリテーターがキャッチする発言にズレがあると、役割分担した意味がない。

そこでグラフィッカーが書(描)くにあたり、何に注意をして聴いて、その上で書(描)いているのか、というキャッチの基準を教えてもらうことにしている。

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もちろん、グラフィッカーもファシリテーターも全ての発言をキャッチする、という理想を持ちつつも、自分の主観(フィルター)で選別していることは否めないだろう(私は中立公平は理想論であり、不可能であると考えている)。

ただ自分の主観だけで書(描)くものを決める、というものではないのがグラフィッカーという役割。必ず参加者や場へのまなざしがあり、そこから出てくる様々な合図を何にしているかを把握することで、こちらが書(描)いてほしい時のリアクションや応じ方をすり合わせることができる。

ファシリテーターとグラフィッカーのすり合わせの最初の一歩は、「場をみるに当たって、何をキャッチしている?」ということへの確認だ。

・今回はどう描こうと思っていますか?

お互いのキャッチする合図なりをすり合わせたら、今度は「案件への理解や見立て感」のすり合わせである。書(描)くといっても、スペースや模造紙の枚数は限られている。その中でどれくらいのペースでどれくらいの量をどれくらいの大きさで書(描)こうと思っているか、というのは案件の理解や展開への予測がないと考えられない。

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場の展開もファシリテーターとグラフィッカーでお互いの”見立て”を話し合っておかなければ、これもまた書(描)いて欲しいようなカタチから変わってしまうし、ファシリテーターの進行がグラフィッカーの見立てと違うのであれば、混乱を招いてしまう。

特にデザイナーからグラフィッカーも手がけるような人は、事前に構造的に捉えすぎている傾向があるため、案件の動的判断ポイントを事前に伝えておくことで、変化する幅を共有し、それにどう合わせられるかのすり合わせが必要だ。

場をみることは、目の前の反応ばかりでなく、「この山を登るにはどんなルートがいけそうか」という”見立て”も重要になる。「今日の案件をどう解釈しています?そして、どんな展開になりそうですかねえ」といったすり合わせの意味を込めて「今回はどう描こうと思っています?」という質問となる。

・収束はどうしましょうか?

グラフィッカーと「何をみてる?」「どう見立ててる?」を共有できれば、次は落とし所への工夫を話し合いたい。現在、世の中に流通している「見える化」の技術たちは、どちらかと言えば発散に優れている。議論が可視化され、発言者も嬉しいし、参加者もその意見を見ながら発言もできる。

もちろん、「見える化」は発散ばかりでなく、合意や決断をしていく収束の状況でも書(描)いてあるからこそ、立ち戻りながら絞り込むことがたやすくなるのはもちろんなのだが、収束するにはどんな時も転換点で「問いの立て方」「収束の軸の立て方」といった何かしらの仕掛けが必要となる。

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「収束はどうしましょうか?」という問いかけは、案件の理解、見立てばかりでなく「どう着地していこうか、具体的な策はありますか?考えているアイデアありますか?」を伺うこととなる。

実際のところ、グラフィッカーは自身の技術の一番の理解者なわけだから、自分の得意技というものを持っている。それを把握しておくことで、ファシリテーターも収束への引き出し数が増えるし、グラフィックへの新しい活用の仕方や理解が深まるため、ここはぜひ聞いておきたいところ。

またファシリテーターとしても収束の展開パターンを伝えておくことで、グラフィッカーがそれに応じた書(描)き方を提案してくれたりする。

・セッションを楽しむ

「場を一人でなんとかしない。チームでできるならチームで」と冒頭にも述べたが、それは場への責任もあるが、何より異なる流儀・流派・専門性の人たちと、一定以上のリテラシーを持ち、共有した上で現場を体験することは、非常に大きな刺激になるとともに、自己完結になってしまいがちなファシリテーションという技術や経験に関して、フィードバックしあえるからである。

実は多くのファシリテーター/グラフィッカーは孤独なのである。現場では大抵自分が一番知っている立場が多い。場に応じて、自身も色々と幅を持たなければならないのに、次第に得意の型に当てはめがちになることもあるだろう。ファシリテーター/グラフィッカーは自身に揺れを内包するためにも、今回のようにセッションを積極的にすべきだと思っている。それが実のところ、上達の近道でもある。

「いつもどこに注意して聴いていますか?」
「今回はどう描こうと思っていますか?」
「収束はどうしましょうか?」

ともすれば、グラフィッカーの実力を測るような質問にも聞こえるかもしれない。しかしながら、これはグラフィッカーもファシリテーターに尋ねるべき項目でもある。

「いつもどこに注意して聴いていますか?見ています?」
「今回はどんな風に描かれたらやりやすいですか?」
「収束はどうしましょうか?どんな感じを想定されていますか?」

ここから出てくる言葉からグラフィッカーもファシリテーターとすり合わせを行い、ファシリテーションセッションが生まれることを期待したい。

さて、「見える化」に関するコラムに加えて、「場を見る」人と「見える化」する人とのセッションに際する注意事項を述べてきた

ここまでこれば実は「場」というのは、収束も含めて「場をいかに転じるか」ということが何よりも重要なことが徐々にわかっていただけてきたと思う。

それでは次回以降、いよいよファシリテーターに求められる基礎スキルの最後にして最重要項目「場を展示させる力」について語っていきたい。


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