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「ゴダール/映画誌」山田宏一


さらばゴダール、さらば映画 ――幸福な映画と不幸な映画(「キネマ旬報」2022年12月上旬号)

 映画史の飛躍的発展は、伝説をまじえて大雑把に要約すれば、D・W・グリフィスによるクローズアップの発見、セルゲイ・M・エイゼンシュテインよるモンタージュの組織化、オーソン・ウェルズによる パンフォーカスの実践、そしてジャン=リュック・ゴダールによるジャンプ・カットの発明という四つの 映画技法の成果であった。作品で言えば、『散り行く花』(1919)、『戦艦ポチョムキン』(1925)、「市民ケーン』(1941) 、そして『勝手にしやがれ』が、映画史の重要な節目になっているということである。(10頁)

 こうして築かれた映画史の大きな節目でもあるクローズアップ、モンタージュ、パンフォーカス、ジャンプ・カットという映画的な、あまりに映画的な技法は、いまではすでにごく一般的に、通俗的に、映画用語/映像用語として辞書にも載っているくらいである。国語辞典、たとえば「広辞苑」第六版(岩波書店)には、クローズ・アップ(英語 close-up) は「(クロース・アップの訛)写真、映画、テレビ撮影などで、対象の一部を大写しにする技法」、モンタージュ(montage) は「(フランス語で組立ての意から)映画で、各ショットのつなぎ方で、単に足したもの以上の新しい意味を作り出す技法」、バン・フォーカス(和製語 pan-focus)は「短焦点レンズや小さな絞りを用いて、近景から遠景までピント(フォーカス)の合った画面を作る撮影技法」、そしてジャンプ・カット(jump cut) は用語としては出ていないものの、「ジャンプ(jump)」の項に「映画で、フィルム編集の手違いから場面の接続が違うこと」という的確かつ適切な解説が付されている。(11頁)


ゴダールもまた死す――息切れの友情の果てに(「ユリイカ」、2023年1月臨時増刊号/総特集ジャン=リュック・ゴダール――1930-2022)

「わたしは従来の古めかしい映画をつくりつづけ、ゴダールは別の新しい映画をつくる。1968年5月以後、彼はもう誰も従来の古めかしい映画をつくるなんてことはできないし、つくってはならないと感じ、相変わらず従来の古めかしい映画をつくりつづけているわたしのような人間を呪い、憎悪していた。」(「ル・ヌーヴェル・オブセルヴァトゥール」(1970年3月2日号)のトリュフォーのインタビューより)(35頁)

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