漫才台本「子供・今と昔」
正司玲児「淡路島の津名町へ参りました」
正司敏江「私は島が大好きでしてね」
れ「というのは、敏江ちゃんは淡路島の近くの小豆島の生まれなんです」
と「そやから、子供の頃は小豆島から淡路島まで、よう泳いで遊びに来ました」
れ「泳げるかい!近くや言うても、淡路島と小豆島は何キロも離れとんねや」
と「言うても、同じヘソナイカイやないかい」
れ「瀬戸内海と言え!……実は私も島とは縁が深いんですわ」
と「玲児さんの先祖、みんな八丈島へ流されてますねん」
れ「……ほなうちの先祖はみな罪人かい!そやなくて、私が島と縁が深いという話ですよ」
と「心がヨコシマですねん」
れ「やかましいわ!」
と「ほな、なんで玲児さんと島とが縁が深い言うの?」
れ「うちの今の嫁はん。島田陽子に似てまんねん。クックックッ」
と「ふんふん、ほんで、前の嫁はんが岩下志麻に似てる言いたいのやろ」
れ「……前の嫁はん言うたらお前やないかい!?」
と「さっきも岩下志麻と間違われまして」
れ「ウソいうな」
と「どっちにしても、島はよろしいね。子供の頃を思い出すねん」
れ「敏江ちゃんは、子供の頃は小豆島でどんな遊びをしていた?」
と「魚釣りをよくしてましたね」
れ「海がすぐそばやったから」
と「今と違ごて、魚も沢山いましてね」
れ「昔は魚は沢山おったねぇ」
と「『ほらほらアジが泳いでる!』」
れ「『ほんまほんま、ほらほらイワシイワシ』」
と「『ほらほら、岩下志麻岩下志麻……なんや、私の顔が水に映ってたんかい』」
れ「岩下志麻はもうええねん」
と「『ほらサバやサバや!』」
れ「『水面にトビウオ、トビウオ!』」
と「『底にオコゼオコゼ!』」
れ「『モリでついたろ』」
と「『なんや、オコゼや思たら、お前とこの嫁はんが沈んどんねや』」
れ「……なんでうちの嫁はんが、海の底に沈まないかんねん!」
と「昔は魚が沢山いたから、ご飯粒で魚が釣れたもんですよ」
れ「そう言えば、私も昔ご飯粒を餌に魚を飼ったことありますわ」
と「ほんでお前、フグ鍋を餌に私を釣ったな」
れ「……フグ鍋を餌にて……そら確かに、敏江ちゃんと知り合うた頃に、フグ鍋食べに誘たことはあったよ」
と「『ヒレ酒がうまいから飲め飲め』言うて、無理に飲ましたわな」
れ「……確かに飲ましたけど、私も飲み過ぎて、先にひっくり返ってしもたでしょ」
と「しょうがないから、私のアパートへ連れて帰って、そのまま結婚したな」
れ「……結局、釣られたんは私の方と違うんかい!」
と「釣られたけど、慰謝料も払わんと逃げたやないか」
れ「……その話はええねんもう!……それにしても、昔の子供の遊びと、今の子供の遊びは随分と違いますね」
と「本当やね、昔は外で遊ぶことが多かったがな」
れ「魚釣り、それにかくれんぼなんかも外でようしたがな」
と「かくれんぼで鍛えたおかげやで」
れ「なにが?」
と「お前が、借金取りから隠れるのがうまなったんは」
れ「そうかもしれんな……鬼ごっこなんかもようしましたわ」
と「これも鬼ごっこで鍛えたおかげやで」
れ「なにが?」
と「飲み屋の取り立てから逃げるのうまなったんは」
れ「そうかもしれんね……オシクラマンジュウなんかもよくやりましたね」
と「オシクラマンジュウのおかげやで」
れ「なにが」
と「満員電車の中でチカンするのがうまなったんは」
れ「ええ加減にせい!それから、釘差しなんて言う遊びも昔はよくやりました」
と「やりました。五寸釘を投げまして」
れ「そうそう」
と「相手のオデコに刺さったら勝ち」
れ「恐ろしいな!釘差し言うたら、地面に釘を刺して、陣地の取り合いをする遊びやないか」
と「そやったかいな」
れ「それにビー玉遊びもやりました」
と「そうそう、いろんな色のビー玉がありまして」
れ「そうそう」
と「それを飲み込んで、好きな色のビー玉を吐き出す遊び」
れ「そら人間ポンプじゃ!そんなこと特殊な人間しかやれるかい!」
と「私なんかゴム飛びなんかをよくやりましたね」
れ「女の子がようやってましたね」
と「横をよそのオッサンが通りかかった時に飛んで、わざとパンツをチラッとみせんねん」
れ「わざとパンツを見せて?」
と「『オッチャン見たな、千円出せ』」
れ「なんちゅう子供や!まあしかし今の子供は外で遊びませんね」
と「遊びいうとテレビゲームや」
れ「テレビゲームで育つと、大人になってから、ゲーム感覚で悪いことをしたりするそうですね」
と「その点、玲児さんは偉いですわ。ゲーム感覚で悪いことはしません」
れ「外で遊んでましたからね」
と「悪いことをするのは生活に困った時だけ」
れ「……それが余計やねん!それに、昔の子供は童謡を大声で唄ってましたけど、今の子供は童謡を全然唄わんでしょう」
と「本当やね、そういえば、娘のまどかが小さい頃は、お前もまどかに童謡をよう歌ってやってくれたね」
れ「そうそう、娘と一緒にお風呂へ入りながら、童謡を歌ってやりました」
と「それがいつの間にか、娘と風呂に入らんようになって、他の女と一緒に風呂に入りまして」
れ「……それはええねん!」
と「娘と風呂で ♪カラス、なぜ鳴くの♪ てやってたんが、他の女と風呂に入りくさって ♪カラス、なぜ鳴くの まつげが濡れてる 好きになったの もっと抱いて♪ 殺したろかほんま」
れ「……過去のことは。それ以上もう言うな!それより、敏江ちゃんも子供の頃は童謡を歌てたやろ」
と「歌てましたよ。そやから、童謡を聞くと、子供の頃のことを思い出しますね」
れ「♪ミカンの花が 咲いている♪」
と「それやそれや思い出すな!うちの家のすぐそばにもミカンの木がありましてね、ようミカン食べたがな」
れ「♪大きな栗の木の下で あなたと私♪」
と「思い出すがな。栗の木もありまして、よう栗の実を食べました」
れ「♪メダカの学校は 川の中♪」
と「思い出すね、うちの前の川でメダカがようけ泳いでましてね、すくって食べてました」
れ「メダカを食べてたてかい!?」
と「食べ物のない時代やないの。カルシウム不足には、メダカの踊り食いが一番やないの」
れ「♪夕焼け小焼けの 赤トンボ♪」
と「思い出す思い出す!」
れ「……赤トンボも踊り食いしたんやないやろな!?」
と「アホな事言いな。赤トンボはから揚げがうまいねん」
れ「アホな! ♪静かな静かな 里の秋♪」
と「ええ歌やこれ」
れ「♪おせどに木の実の♪」
と「ええ歌やけど、わからんのがそこやそこや」
れ「わからんのて?」
と「おせどに木の実のてあるやろ、おせどとは一体何?」
れ「おせど……ねえ」
と「子供の頃からずっとおせどて何やろと思いながら、わからんまま歌てたのよ、おせどてなに……知ってたら、おせど(教えろ)」
れ「……おせどいうたら、おせどやないかい。ねえ皆さん、おせどぐらいみんな知ってはりますわな」
と「知ってたら言わんかい」
れ「おせどいうたら、白と黒のゲームの一つで」
と「そらオセロや!」
れ「……昔の東京のこと」
と「そらお江戸や!」
れ「今のは冗談。おせどというのは後ろのこと」
と「後ろのこと?」(玲児の尻あたりをながめながら)「ここは、おせどと違ごておいどやないか」
れ「……私の後ろと違ごて、つまりおせどというのは家の裏口、裏門の事や」
と「なんやウラモンのことかいな、それやったら、食べ物の無いころよう食べたがな」
れ「食えるかい!そやけど、敏江ちゃんが疑問に思たように、童謡には確かに、わからん言葉やわからん表現が時々あるね」
と「あるある ♪やっとこやっとこ くりだした♪ いう歌あるやろ」
れ「ありますけど?」
と「ヤットコから栗が出たりするか?」
れ「……あのな」
と「♪ドングリコロコロ どんぶりこ♪ いうのもあるわな」
れ「ありますよ」
と「ドングリのどんぶりが喰えるんかい」
れ「そのどんぶりと意味が違うねや!どんぶりいうのは、池にはまる音の事や」
と「♪ずいずいずっころばし ごまみそずい ちゃつぼにおわれて とっぴんしゃん♪ 一体これなんや?」
れ「……そやから、童謡には訳の分からんのがある意うたがな」
と「けど、味がありますねえ」
れ「そやから、由紀さおりさんと安田祥子さんの姉妹なんかの童謡を聞くと、胸にジーンとくるがな」
と「紅白歌合戦にも出てはりましたね」
れ「あの二人、無茶苦茶声が美しいですね」
と「顔はとっぴんしゃんやねえ」
れ「お前よりマシじゃ!どや、私らも漫才の合い間に童謡を歌とて、今の子供たちに、童謡の良さを知ってもらわへんか」
と「ええがな、由紀さおりさんとこの姉妹みたいに、敏江・玲児もどつき漫才やめて童謡漫才にするわけやね」
れ「♪うさぎおいし かの山♪」
と「♪小ブナ釣りし かの川♪」
れ「そうそう、そういう感じで唄うと二人で唄う良さが出るねや」
と「なるほど、まかせといて」
れ「♪お手てつないで♪」
と「♪ホテルへ行けば♪」
れ「ホテルへ行ってどないするねん!」
と「昔はよう行ったがな!」
れ「やかましいわ!♪わたしの人形は 良い人形♪」
と「♪目はばっちりと色白で 正司敏江にそっくりよ♪」
れ「全然違う違う!♪今は山中、今は浜♪」
と「♪今は♪……ちょっと待った」
れ「なんや?」
と「二人がまだ一緒に暮らしてた頃を思い出したんや」
れ「なんで今は山中今は浜でそんな事思い出すの?」
と「確かお前が浮気した二人の女は、山中いう名字の女と、浜いう名字の女と違ごたか?」
れ「……話を変えましょ♪赤い靴はいてた女の子♪」
と「……あれ、どっちの女が赤い靴を履いてたかなあ」
れ「もうええわ!」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?