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漫才台本「海外旅行を十倍楽しむ方法」

西川きよし「最近は正月の迎え方も、昔とはずいぶん変わってきましたね」
横山やすし「変わりましたね」
き「おせち料理作るの面倒やから、温泉のホテルでゆっくり正月を祝うのも増えてます」
や「そうかと思うと、海外で正月を祝う人も多いがな」
き「それそれ、私のある友達の家なんか、年末から家の中で石油ストーブ10個炊いて、家族全員が水着着て寝そべってるがな」
や「なんやそれ?」
き「ハワイで正月迎えたつもり」
や「せこいなあ!……つもりにならんでも、実際にハワイへ行きゃええやないか」
き「そう言うけど、家族でハワイ行こ思たら、飛行機代だけでもかなりの出費ですよ」
や「私の飛行機貸したるやないか、ハワイでもヨーロッパでも行かんかい」
き「あんたの飛行機が海外まで飛ぶんかい、この前、大阪から名古屋まで飛んだ時でも、途中で三回プロペラはずれかけたやないか」
や「どんな飛行機や!」
き「しかし、海外旅行が増えているということはいいことやね」
や「そう、海外旅行をすることによって、視野が広くなる」
き(目をむき)「私は前から視野は広いですけどね」
や「そやないがな」
き「君は昔から目の前しか見えん男や、眼鏡を外したら、その目の前も見えん」(やすしのメガネを上げる)
や(うろうろしてメガネメガネ)「アホなことすな!」
き「私らが初めて海外旅行へ行ったんは、もう十年以上前になります」
や「ハワイからアメリカ大陸のコースを二人で行ったがな」
き「飛行機が赤道の上を通過するとき、やすし君が大騒ぎしましてね」
や「私が?」
き「『地球儀嘘つきや!赤道の上の海、何にも赤い線あれへんがな!』いうて」
や「初めての海外旅行の時には、そんなミスもあるわいな」
き「ハワイへ着くと現地の娘さんらがフラダンスで歓迎してくれまして」
や「そうそう、十人くらいの娘さんが」(フラダンスをする)「おいでまっせ、ハワイへ」
き「ハワイの人が『おいでまっせ』なんて言うんか」
や「雰囲気がそういう感じだった言うねん」
き「早速その中の一人の女性と、やすし君が話してまんねん、何言うてるんかなと聞いてると『なんぼだしたら 、その腰ミノ外すの』や」
や「……お嫌いですか」
き「お好きです……でも、あのハワイでは、さすが横山やすしはスケールの大きい男やと思たね」
や「ホー、どういうことで?」
き「ハワイには火山がありまっしゃろ、その火山に登って火口へタバコの火つけに行きまんねん」
や「行くかい!そんなもんタバコに火つく前に、体に火つくわ!」
き「アメリカ大陸では、ナイアガラの滝なんか行きましてね」
や「あの滝はスケールが大きいがな」
き「あそこで君言うたね」
や「何を?」
き「『このナイアガラの滝で、流しそうめん屋やったら、よう儲かるやろなあ』て」
や「アホな!流れてきたそうめん、どないしてつかむねん」
き「ニューヨークではマンハッタンなんかに行きまして」
や「あんた、マンハッタンへ行かはったん?」
き「……しょうもないシャレ言うな!君も超高層ビルがいったやないか」
や「そらあの超高層ビルの高さはすごいもんだ」
き「私がビル街を指差して『これが有名な摩天楼や』言うたら、君どう言うたか覚えてるか」
や「どない言うた?」
き「『マテンロウ?……なんやこのでっかいビル牢屋かいな』言うたんやで」
や「初めての海外旅行やないか、いろいろミスはあるわい」
き「あれ以来ですわ、この人が牢屋と縁が深くなったのは」
や「いらんこと言うな!」
き「しかし 、あの旅行以来、仕事とか遊びで、二人はそれぞれによく海外旅行へ行くようになりまして」
や「海外旅行なんて、近所の散髪屋へ行くようなもんだ」
き「皆さん、もしアメリカへ行くようなことがあれば『私は西川きよしの知り合いです』と一言ホテルの人に言ってみてください」
や「『西川きよしの知り合いです』言うたら?」
き「『オウ、キヨシ・ニシカワ 、ヒップドッキング?』言うて、ホテル代いくらかまけてくれます」
や「ヒップドッキングて何や?」
き「シリ(ヒップ)アイやないか」
や「そんなアホな英語あるかい!」
き「間違っても『横山やすしの知り合い』とだけは言わはんなや。即FBIの狙撃隊がホテルを囲みますよ」
や「なんでやねん!」
き「向こうでも悪いことし倒してますからね」
や「そうか、わしもいよいよFBIを敵に回さないかんか」
き「威張ってどないすんねん。しかし皆さん、海外旅行されることで、注意しておきたいことがあるんです」
や「どんなことや?」
き「海外の大都市というのは、東京、大阪、名古屋なんかの、日本の大都市と比べると、極端に治安が悪い」
や「好きやなぁ治安の悪いの」
き「……ホテルの金庫に財布なんか入れても、鍵だけはかけたらいけまへんで」
や「鍵をかけたらいかん?どういうこっちゃ?」
き「鍵かけてなかったら、中の財布だけ盗みよるけど、鍵かけといたら、金庫ごと持って行かれる」
や「なるほど、向こうはやることが派手やからね」
き「私もいろんなとこ行きましたけど、なんといっても印象に残ってるのが、北欧やね」
や「北欧というと、ノルウェーとかフィンランド」
き「あそこは白夜がありましてね」
や「白夜というと、夜じゅう昼だらけのあれ」
き「……もうちょっと違う言い方ないんかい」
や「夜が昼みたいに明るいのがどこがええねん。日本がそんなんやったら、うちの弟なんか仕事あがったりやないか、夜は暗い程ええねん」
き「君とこの弟さん、泥棒さん?」
や「……ネオンのセールスやってんねや」
き「北欧では白夜の他に、美しいオーロラが見られましてね」
や「オーロラ、これはまさしく、便秘!」
き「……便秘と違ごて、神秘と違うか」
や「……そうそう、よう似たもんや」
き「どこが似てんねん!北欧の観光業者いうのは、このオーロラをものすごく有難がってましてね」
や「そら有り難いがな、オーロラみたさに来る観光客も多いねや」
き「そやから、観光バスガイドさんなんかも、バスを誘導する時『オーロラ、オーロラ』やで」
や「嘘つけ!私は北欧よりもアラブの方へ行った時の印象が深いね」
き「砂漠の国のかいな」
や「砂漠いうても、日本の国がスポッと入るぐらいのスケールや」
き「すごいらしいね」
や「そら砂漠じゅう砂だらけでっせ」
き「……当たり前やないか、砂だらけやから砂漠や。水だらけやったら水バクやないか」
や「水だらけやったら、湖や!」
き「しかし、砂漠の国というのは暑いでしょ」
や「確かに昼は暑い。ところが夜になると寒いぐらいや」
き「気温の差が激しいわけや」
や「昼間汗をたらたらかくわな。そのまま放っておいたらその汗が、夜には体の周りで凍りつきよる」
き「ホー」
や「それを溶かすのにカナヅチで、カチンーー!」
き「嘘をつけ!それほど温度が変わるわけないやろ」
や「しかし、広々とした砂漠の上に寝ころんで星空でも眺めてみなはれ、そら世の中の嫌なこと、みんな忘れてしまいまっせ」
き「わかるなぁ」
や「借金なんかすぐ忘れまっせ」
き「砂漠に寝転ばんでも、君は借金をすぐに忘れる体質やないか」
や「遠くに見えるピラミッドを見ながら、物思いにふける。これはもう最高やね」
き「ピラミッドを見ながら、どんな物思いにふけるの?」
や「『ストリッパーのバタフライというのは、もしかしたらピラミッドをヒントに三角になったんと違うやろか』とかな」
き「そんなこと、アラブの砂漠で考えないかんことか!」
や「私はありきたりの観光コースよりも、人のあまり行かんとこへ、これからも行ってみたいね」
き「気持ちはわかるねぇ」
や「クイズ番組のレポーターで、ニューギニアの未開地へ行ったことあるんやけど、すごかったね」
き「ニューギニアの未開地」
や「人がまだ一回も入ったことないとこへも行ったことあるねや」
き「ほー、なんでそこ人が一回も入ったことないてわかった?」
や「ちゃんと看板が立っていたやないか『ここはまだ誰も人が来てません』いうて」
き「ほなその看板誰が立てたんや、人が来たから立てたんやろ」
や「ええやないか、私は川口浩のファンなんやから」
き「どういう意味や……私もある取材で、アフリカの原始生活そのままの村を訪ねたことあるがな」
や「原始生活そのままの村やて、何でわかったんや?」
き「村長さんがマイクで何回も説明してたがな」(マイクを持つ格好)「『皆さん、ここの村はみんな原始時代そのままの生活です』て」
や「原始時代そのままの生活の者がマイク使うたんかい!」
き「川口浩の世界でんなあ」
や「アホな!」
き「これから海外旅行を楽しもうという方に、あと一言アドバイスをしておきたいと思います」
や「どんなアドバイスや?」
き「外国へ行っての一番の壁は言葉です。だから、目的地の言葉は、ある程度マスターしておきましょう」
や「そんな必要あるかいな。言葉ちゅうのは各国で違うけど、身振り手振りいうのは、だいたい共通やねん」
き「すると、身振り手振りがうまかったら、不便はないいうんか」
や「そうや、私なんか言葉は知らなんでもジェスチャーでみんな相手に通じるからね」
き「ほな、外国へ行った時『あなたはどこから来ましたか?』言われた時、身振り手振りでどうするの?」
や(自分を指差す…指を二本立てる…歩く)「これでええねん」
き「というと?」
や(繰り返しながら)「私は…日本から…来ました」
き「指二本で日本てわかるんかい!」
や「わからんのは放っときゃええねん」
き「『あなたの名前は?』と聞かれたら?」
や(自分を指差す…首を横に…両手で山の形を作る…バナナの叩き売りの格好)
き「なんやそれ?」
や(繰り返しながら)「私は…横…山…やすしです」
き「なんでこれがやすしや」(バナナの叩き売りの格好)
や「叩き売りは、やすし!」
き「……ほな『あなたは日本ではどういう人ですか?』と聞かれて『私は世間の嫌われ者です』と答える時は?」
や(自分を指差す)「私は」(体を石けんで洗う格好)「セッケンの」
き「セッケンで世間かいな」
や(鼻をつまむ)「嫌われ者です……なんで私がそんなこと言わなあかんねん!」
き「しかし、身振り手振りというのは参考になるわ。よし、今度私が海外旅行して『あなたは何をする人ですか』て聞かれたらこう答えたろ」
や「どう?」
き(自分を指差す…呼び出し…川の流れを手で…おいでおいで…二本の指…ゴホンゴホン…偉そうな格好)
や「どういうとんねや」
き「私は…ニシィー」
や「相撲の呼び出しかい」
き「川…きよし…日本では…ゴホンゴホン、カンボウ長官をしています」
や「なんでやねん!君が官房長官やったら、私は外務大臣せないかんやないか」
き「……あんたが外務大臣なんかになったら、即戦争やないか」
や「そら言える」
き「しかし、身振り手振りだけでは、通じんことでてくるで」
や「そんなことないて……向こうでカニが食べたい思たら」(両手をチョキチョキさせて横歩き)「……これで通じんねやで」
き「……そらカニは通じるか知らんけど」
や「ふぐが食べたい思たら」(フグの泳ぐ格好)「これでええねん」
き「そらそやけど」
や「エビが食べたかったらこれや」(エビの足を両手で表現する格好)
き「わかりやすいのばっかりやっとるやないか!そんなんやと通じへんやろ」
や「どう通じへん言うねん!」
き「例えば、外国で品物買う時は、値切る交渉が大切やろ」
や「そうや、外国は日本以上、値切り交渉次第で値段下げよる」
き「その時の交渉、身振り手振りだけでやれるか?」
や「何言ってるねん、私がアメリカで飛行機買うた時、身振り手振りと、単語をちょっと並べただけやで」
き「ホー」
や(飛行機の根切り交渉を面白おかしくオーバーに)
き「ようそこまでやったなぁ!しかし皆さん、外国では値切ることも大切ですが、未開地の方へ旅行する時は、どんなガラクタでもいいですから、向こうへ持っていくのが大切です」
や「ガラクタを持っていく?」
き「日本ではガラクタでも、向こうでは珍しがられる時あるねん」
や「なるほど、ほな、このガラクタを意外な品物と交換してもらえることがあるわけやな」
き「そうや……アナタニホンカラキタヒトネ」
や「そう、日本からきましたんや」
き「ワタシ、ヒスイの原石モッテマス。アナタナニモッテマスカ?」
や「ビールの王冠や」
き「ビールノオウカン?」
や「これは日本でもちょっとやそっとで手に入る品物やおまへんで、ヒスイの原石、十キログラムぐらいの値打ちあるやろなぁ」
き「……お前無茶苦茶いうなぁ、ビールの王冠なんか、道にいっぱい落ちてるやないか」
や「それがむこうではわからへんから、十分にヒスイの原石と変わるねん」
き「……ソレカラ、ワタシダイヤモッテマス。アナタコレト、ナニをコウカンシマスカ?」
や「ダイヤ……ほなこっちは、これだ。自転車のタイヤだ。このタイヤというのはダイヤより字に濁りをいれん分だけ値打ちがある。ダイヤなんか指輪にしても指にしかはまらんけど、タイヤは体にスポットはまりよる。これはどう考えてもお換え得でっせ。換えるなら今。あとで換えてほしいと言われても、品切れしてまっしゃろなあ」
き「君、昔、悪徳セールスマンやってたやろ」
や「こういう方法で、私が消しゴム一個と交換してきた女いてまんねん」
き「消しゴム一個と外国の女性」
や「その女が、今、この男の嫁はんになってますわ」
き「もうええわ!」

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