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漫才台本「これはお買い得」

おかけんた「我々は今年で、芸能生活〇年になりまして」
おかゆうた「早いもんやねぇ」
け「そやけど、私ら二人共、人から芸能人やからどうのこうのと、特別扱いされるのが嫌な方でね」
ゆ「嫌やね、今日もNHKの玄関前で、私、おばちゃん連中に特別扱いされまして」
け「ホー、どんなふうに?」
ゆ「『奥さんちょっと見てみて、あれ、おかゆうた違う?』『ほんまや、おかゆうたや、やっぱり芸能人は違うわ、アカヌケしてはるわ』」
け「……お前、アカヌケしてるか?」
ゆ「してへんか?」
け「アカだらけやないか」
ゆ「アカだらけて!」
け「それから『ちょっと奥さん、おかけんたて真面目そうな顔してるけど、ほんまはええ加減な生活おくってるのやろね』『そらそうですやん、芸能人やから』……こういう先入観はやめて下さいね」
ゆ「『ちょっと奥さん、おかゆうたが道歩いてまっせ』『ほんまやね、芸能人やからでっせ』……こんなんやめて下さいね」
け「……そんなん言う奥さんおるんか!」
ゆ「でも、昔は警察なんかも、芸能人いうだけで、大目に見てくれることなんかもあったらしいですけどね、昔の芸人さんに聞くと、昔は大目に見てもらえたらしいですね」
け「らしいね」
ゆ「人でも、二、三人までなら、殺しても見逃してもらえたんです」
け「見逃すかい!」
ゆ「この前、私、スピード違反をしてしもた時は、『大目に見たる』て言うてもらいましたけどね」
け「ほんまかいな、今の警察、芸能人やから言うて、大目に見てくれる訳ないやろ」
ゆ「大目に見てくれたがな『ピーピーピー、そこの車!二十キロオーバー!なんや、あんた、漫才師のおかゆうたさんでんがな、オオメに見て三十キロオーバー』」
け「オオメ違いや!それから『芸能人やから、ようけお金を儲けはる』と思てはる人も多いですけど、それは違いますよ」
ゆ「そら確かに、無茶苦茶儲けてる芸能人もいてますよ」
け「でも」(自分を指し)「ピンと」(ゆうたを指し)「キリがありまんねん」
ゆ「……同じように漫才してて、ピンキリに分かれる訳ないやろ!」
け「でも、芸能界へ入った頃に比べると、ちょっとは君も生活は変わって来たやろ」
ゆ「そら食べ物かて豪華になったわいな、昔は即席ラーメンばっかり食べてたがな」
け「今は?」
ゆ「上に、生卵とメンマを乗せれるようになったがな」
け「あまり変わらへんがな!」
ゆ「住むとこが違う、住むとこが、今はゴージャスになったがな」
け「というと、今住んでる家は?」
ゆ「昔と違ごて、家の中で傘ささんでもようなったがな」
け「それだけでゴージャスかい!昔どんなとこに住んどったんや」
ゆ「うちと違ごて、けんた君とこは、昔からイタリア風の家に住んでましたから、うらやましかった」
け「うちがイタリア風の家いうと?」
ゆ「ピサの斜塔風の家でして」
け「傾いとんのかい!……芸能人や言うて特別扱いされるのは嫌やけど、芸能人やいうことで、ものを安く売ってもらえたりすると、特別扱いもええもんやなぁ、と思うことも実はおまんねや」
ゆ「そういうこと、たまにおまんねや」
け「私この前、パソコンを買いましてん」
ゆ「パソコンを」
け「『おかゆうたさんですがな!特別に安うしときまっせ。芸能人さんやから』言うてもらいまして」
ゆ「そういう時は嬉しいわな」
け「この男、この前たこ焼き買いに行きまして」
ゆ「……たこ焼き、好きでんねや」
け「ほな『おかゆうたさんでんがな!特別安うしときまっせ……ひもじい思いしてはるやろから』」
ゆ「芸能人やからと違うんかい!」
け「私とこ、家にサンルームを付けましたんや」
ゆ「サンルームを」
け「その時も『安うでつけさせてもらいまっせ……芸能人やから』や」
ゆ「嬉しいね」
け「この前、この男、サンマ買いに行きましてん」
ゆ「好きでんねん、サンマ」
け「『ゆうたさんやがな、安うさせてもらいまっせ……最近ちょっと痩せはりましたもんな』」
ゆ「芸能人やからと言うてくれ!」
け「私、この前、自家用車を買いましてん」
ゆ「自家用車を」
け「やっぱりその時も『特別に安うしときまっせ、芸能人やから』や」
ゆ「得したなぁ」
け「この男、この前、地下足袋買いに行きましてん」
ゆ「待て!お前が買ったんは、パソコンとサンルームと自家用車で、わしはたこ焼きとサンマと地下足袋かい!わしにも、もうちょっとましなもん買わしてくれ」
け「この前、この男、土地を百坪買いに行きましてん」
ゆ「買いに行きましたがな、土地百坪!」
け「『おかゆうたさんですがな、特別に安うに売りまっせ……北海道の湿原の二束三文の土地やから』」
ゆ「……なんでそんな土地、私が買わないかんねん!」
け「物を安く買えるのは有難いですけど、安い買い物をしたと思ていても、後でその買い物は失敗やったと、気がつくこともよくあるね」
ゆ「あるある。これは後悔するね」
け「私、セーターを買いまして」
ゆ「セーターを」
け「『安い買い物をした』と思てたんやけど、一回洗ろただけで色移りしてもうたがな、失敗でした」
ゆ「私、エビを買うたことあるねん」
け「エビを」
ゆ「あとで、失敗やと後悔したねぇ」
け「どうして?」
ゆ「一回煮ただけで色変わりしたんや」
け「エビは煮たら色変わりするねん!」
ゆ「ハマグリを買うたこともあるんやけど、これもあとで失敗やと思いましたね」
け「どうして?」
ゆ「そのハマグリを寄せ鍋の中へ入れたんですけど、皆なフタがあかへんねや」
け「そらあかんわ、文句言わなあかんね」
ゆ「文句は言いましたよ」
け「どう言うて?」
ゆ「『こらハマグリ!お前はアホか、フタを開けてくれんことには食えへんやないか』」
け「ハマグリに文句言うてどないするねん。ハマグリを売った店に文句言わないかんねや」
ゆ「文句言いに行きましたよ」
け「どう言うて?」
ゆ「おい、おっさん!」
け「おい、おっさん!」
ゆ「そこに落ちてたハマグリ持って帰ったけど、フタあかへんやないか」
け「落ちてたやつを、拾ろて持って帰ったんかい」
ゆ「落ちてたんは一個や、あとのは皆な買うたハマグリや」
け「そやったら言うたれ言うたれ」
ゆ「おい、おっさん!おっさんとこで買うたハマグリ、全然フタあかへんやないか」
け「フタあかへんやないか」
ゆ「フタのあかんハマグリなんか売ったら、”あかん”ぞ」
け「……」
ゆ「無理やりフタあけたら、中、砂だらけや、そんなことスナー!」
け「シャレ言いながら、文句言うてる場合やないやろ」
ゆ「おい、おっさん!わしはな、金を返してほしさに、こうやって文句言いに来たんやないねや」
け「金返してほしさに、文句言いに来たんやないぞ」
ゆ「そら確かに、わずかな金でも、うちにとっては大事や、子供の給食代もいる……嫁はん内職しとる」
け「金返してほしさやないか!」
ゆ「おい、おっさん!ハマグリいうもんは、煮たら、自然にフタがあかんといかんねや」
け「そうや、ハマグリは自然にフタがあかんといかんねや」
ゆ「カンオケが自然にフタがあいたら恐いぞ」
け「いらんこと言わんでええねや!」
ゆ「おい、おっさん!ハマグリの砂で、寄せ鍋が皆な台無しやないか」
け「ここの家が、なんで、寄せ鍋をしたのか知っとんのかい、子供の入学式と嫁はんの誕生日が重なったからやぞ」
ゆ「……うちは、祝い事が重ならな寄せ鍋出来んのかい!?」
け「言うたれ言うたれ」
ゆ「おい、おっさん!反省しとんのかい……なんや、包丁なんか手に持ちやがって」(けんたを前面に押し出し)「刺すんやったらこいつを刺せ!」
け「なんで私が包丁で刺されないかんねん!」
ゆ「おい、おっさん!どないしてくれるねんこの責任は」
け「なんやて……物さえ持ってきたら、寄せ鍋の材料全て弁償させてもらうやてかい……おい、おっさんこんなこと言うとるけど、どないする?」
ゆ「おい、おっさん!そんなもん今頃あるかい」
け「そらそうや、もう皆な捨てたわな」
ゆ「皆な食べてしもたわい」
け「食べたんやったら文句言いに行くな!」
ゆ「そやけど、あのハマグリだけは、あとで失敗やと思いましたよ」
け「こういうことは、他にもいくらでもあるからね」
ゆ「他にもと言うと?」
け「家族で日光へ旅行に行った時、私、嫁はんに帽子を買うてやりましたんや」
ゆ「嫁はんに帽子を?」
け「嫁はん喜んでくれて『ええ買い物をした』と思てたけど、あとで『しもたー!』と思たがな」
ゆ「どうして?」
け「日光猿軍団を見た時、嫁はんと同じ帽子を猿が被ってまんねん」
ゆ「そんなこと、わしもあるある」
け「というと?」
ゆ「嫁はんに洋服を買ってやったことあるねん、私が選んで」
け「ホー、君が選んだ洋服を?」
ゆ「その洋服を着て、嫁はんが劇場へ漫才見に来たんや、『しもたー!』思たね」
け「どうして?」
ゆ「舞台に出てた、今くるよさんの衣装と、嫁はんの着てきた洋服が全く同じや」
け「……お前、派手な洋服を選んだもんやなぁ!」
ゆ「嫁はん思わず客席で、くるよちゃんに合わせて」(今くるよのギャグの格好)
け「ほんまかいな!……テレビショッピングなんかでも、品物が届いてから、『しもたー!申し込むんやなかった』て思うことあるね」
ゆ「あるある、この前、外国製の美容器具を申し込んだことあるねん」
け「フンフン、外国人の美人でスタイル抜群の女性が器具を使こてる場面が出てくるやつやろ」
ゆ「器具が届いてから、『しもたー!』と思たね」
け「どうして?」
ゆ「女性も一緒に届くもんやと思てたのに、届かへんねん」
け「届くかいそんなもん!私の場合は、この前、羽毛布団セットを申し込みまして」
ゆ「羽毛布団セットを?」
け「届いてから、やっぱり、『しもたー!』と思いました」
ゆ「なんで?」
け「うち家族三人やのに、この三年間に羽毛布団十セット買うてるねん」十
ゆ「アホと違うか」
け「そやけど、宣伝が上手いから、いくら家にあっても、また申し込みたなってきまんねや
ゆ「そう言えば、豪華な応接セットを申し込んだことありまんねや」
け「応接セットを」
ゆ「届いてから、『しもたー!』と思た」
け「なんでや?」
ゆ「部屋より応接セットの方が大きいねん」
け「お前の方がアホやろ!」
ゆ「一回塗ると、半年間塗らずに済むいうカーワックスを申し込んだことあるねん」
け「便利なカーワックスやねぇ」
ゆ「あー、これは便利やと思て申し込んだけど、届いてから、やっぱり、『しもたー!』と思いました」
け「どうしてや?」
ゆ「よう考えたら、うち、車あれへんねや」
け「もうええわ!」

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