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漫才台本「友達がほしい」

平川幸男「奈良県の吉野町へ参りました」
佐藤武志「吉野町には、美味しい食べ物が多いですね」
ひ「と言うと?」
さ「まず頭にぱっと浮かぶのが柿やね」
ひ「吉野のカキは旨いねえ。生で食べて良し、フライにして良し、鍋で食べても良し」
さ「……あのな、吉野の柿は海のカキと違ごて、木になる柿やで」
ひ「そやったな」
さ「その柿の葉っぱで作る柿の葉寿司が、またおいしいがな」
ひ「柿の葉寿司は絶品やね。柿の葉いうても、細かく刻んであるから食べやすい」
さ「刻んでないねん。寿司が柿の葉で包んであるねん」
ひ「そやったそやった」
さ「それから、クズがおいしいがな。吉野のクズは最高ですよ。」
ひ「そのクズという言葉。僕の前で言わんといてくれるか。つらいねん」
さ「なんでクズて言うたらあかんの?」
ひ「いつも嫁さんに言われてるねん」
さ「どう?」
ひ「『あんたは人間のクズや』て」
さ「……嫁さんにそんなこと言われるということは、君とこの夫婦仲はうまくいってないな?」
ひ「今のうちの夫婦仲は、南極の冷蔵庫やがな」
さ「南極の冷蔵庫?」
ひ「冷え切ってるねん」
さ「無茶苦茶冷えきってるがな!」
ひ「うちの夫婦に比べると、君とこの夫婦はマツタケしいね」
さ「なんやそのマツタケしいて」
ひ「マツタケ違うわ。君の田舎ではマツタケはどこで採れる?」
さ「裏山で採れるがな」
ひ「君とこの夫婦はウラヤマしいね」
さ「うらやましいを言うのに、マツタケしいから入らないかんのかい!」
ひ「『ちょっと聞いたあ?』」
さ「それはええねん!」
ひ「結婚して何年にもなるのに、いまだにここの夫婦、レンコン気分ですよ」
さ「それ新婚気分やろ」
ひ「そやったそやった」
さ「よう間違う男やなあ」
ひ「ほんとうにうらやましい」
さ「反対に僕が君をうらやましいと思うことかてあるんですよ」
ひ「どんなことで?」
さ「僕は親しい友達が少ないけど、君は友達が多いやろ。いつもうらやましいと思てるねん」
ひ「確かに僕は友達が多いね。毎年友達からくる年賀状でも、三メートルくらいはあるかなあ」
さ「へー、積み上げて三メートルも?」
ひ「いや、縦に並べてやけどな」
さ「なんじゃい!……でも本当うらやましいね。山本さんも君と親しい友達やしね」
ひ「山本君はキュウユウでしてね」
さ「級友というと、学生時代の友達や」
ひ「そのキュウユウと違うねん」
さ「と言うと?」
ひ「ガソリンスタンドの給油所でアルバイトをしてた時の友達や」
さ「給油所の友達でキュウユウかいな!」
ひ「田中君はジョユウでしてね」
さ「なんでやねん。田中君いうたら男やろ、それがなんで女優やねん」
ひ「その女優と違ごて、トラックの助手席でアルバイトをしてた時代の友達やから、ジョユウやがな」
さ「ようアルバイトしてたんやなあ……橋本さんはどういう友達や?」
ひ「橋本君は、ショウユウやないか」
さ「ショウユウて、醬油屋でアルバイトしてた時の友達かい」
ひ「いや、将棋友達でショウユウやないか」
さ「ああ、将棋友達でショウユウかいな」
ひ「しょうゆうこっちゃ……『ちょっと聞いたあ?』」
さ「それはええねん!……それにしても友達の多い君がうらやましいね。僕なんか、親しい友達いうたら、君ぐらいしかおらんねや」
ひ「君ぐらい言われても、僕は君のことを友達やと思てへんで」
さ「それは無いやろ。漫才かて長いこと一緒にしてるのに」
ひ「仕事やから一緒に漫才してきただけのことやがな」
さ「ほな君は、これまでずっと僕のことをどう思てきたんや?」
ひ「腐りかけのあんぱんみたいなやつやなと思てきたがな」
さ「……腐りかけのあんぱんて!」
ひ「なるほど、君と嫁さんの相性が合うのようわかるわ」
さ「なんで?」
ひ「君が腐りかけのあんぱんなら、嫁さんは腐りきったあんこみたいな女やないか」
さ「……無茶苦茶言いよるなあ」
ひ「君に友達ができない理由がわかりました」
さ「その原因とは?」
ひ「君は人が嫌がることを言い過ぎる」
さ「それ君やないか!」
ひ「友達を作ろと思たら、相手の嫌がることを言わずに、相手を褒めることが一番や」
さ「相手を褒めたら友達になってくれるわけや」
ひ「例えば、君がゴルフをしに行くとするわな、その時一緒にコースを廻った人のプレーを褒めたたえるねん。そうすると、そのあと君とその人とはゴルフ友達や」
さ「なるほど。ほなちょっと君が一緒にコースを廻る人をやってくれるか」
ひ「ボギーにだけはしたないなあ。ここは決めたいなあ」(クラブでグリーン上のボールを打つ姿)「入れ入れ……オー入ったー!」
さ「パー!ナイスパ―!パー!」
ひ「誰がパーやねん!あんた嫌なこと言いまんな」
さ「パーやからパーやと」
ひ「パーなんて言われた勘違いしますやろ『うまい!』の一言でよろしいねや」
さ「すみません」
ひ「次はうちの家内が打つ番やなあ」
さ「奥さん頑張って!」
ひ「そうそうそう、うまいこと転がってるぞ、おー、入ったー!」
さ「奥さんナイスパット!……奥さんええパットしてはりますなあ」
ひ「あんた嫌なこと言いはりまんなあ」
さ「なにが?」
ひ「そらうちの家内はおっぱいが小さいからパット入れてまっせ。そやけどこんなとこで『ナイスパット』とか『ええパットしてはりますなあ』て言わんでもええやろ」
さ「そういうつもりで言うたんと違うんやけどなあ」
ひ「そういうように聞こえまんがな」
さ「すみません」
ひ「私たちとゴルフ友達になりたかったら、家内を褒めてやってくださいよ」
さ「奥さんのクラブはええクラブでんなあ。高いクラブでしょ。ほんまにええクラブや」
ひ「……あんたね、こんな場所でうちの家内がクラブのホステスをしてること言わんでよろしいやろ。ほんま嫌なこと言いまんなあ」
さ「もうええわ!」
ひ「君にはゴルフ場で友達を見つけるのは無理やね」
さ「ほな、どこで見つけたらええねや?」
ひ「君スナックへよく飲みに行くやろ」
さ「友達がおらんから、一人寂しく飲んでるけどな」
ひ「そのスナックに、君のほかに一人で飲んでる男がいたら、その人にカラオケのデュエットを申し込んでみ、ほなカラオケ友達になれるで」
さ「デュエットいうたら、男と女が唄うもんと違うか?」
ひ「別に男同士が唄とてもええがな。ほな僕が一人で飲んでる男の役をしてるからね」
さ「もしもし、すみませんがデュエットをしてくれませんか?」
ひ「あんた嫌なこと言いまんなあ」
さ「はあ?」
ひ「そら私は太ってまっせ。そやけどあんたから『ダイエットしてくれませんか』とは言われたないわ!」
さ「ダイエットと違いますねん。デュエット一緒に唄ってほしいねん」
ひ「男同士ででっか?」
さ「男同士ではどうしても嫌ですか?」
ひ「それ男同士とドウシてものシャレのつもりかいな」
さ「『ちょっと聞いたあ?』」
ひ「それはわしが言うねん!」
さ「デュエットしてくれませんか」
ひ「してもよろしいけど、どんな歌をデュエットしまんねや」
さ「銀恋はどうですか。銀恋知ってはりますやろ」
ひ「知ってます知ってます。銀恋いうたら銀バエ恋唄でっしゃろ」
さ「銀バエ恋唄て、そんな歌あるんかいな!銀恋いうたら銀座の恋の物語でんがな」
ひ「唄いましょう!」
さ「ほな私が男の部分を唄いますから、あんた女の唄う部分を唄ってくださいね」
ひ「わかりました。……♪心の底まで しびれるような♪」
さ(調子の外れた歌声で)「♪吐息に切ない ささやかだから♪」
ひ「……♪涙が思わず わいてきて♪」
さ(棒読みで)「泣きたくなるのさ この俺も」
二人(佐藤が音程を外して)「東京で一つ 銀座で一つ 若い二人が 初めて会った」
ひ「やめじゃ!お前となんかと唄とてられるか!」
さ「すみません」
ひ「君はカラオケ友達を作るのも無理やね」
さ「ほな、なんで友達作ったらええやろ」
ひ「きみは魚釣りが好きやろ」
さ「魚釣りなら、船釣りもするし、波止場釣りもするし、投げ釣りもするね」
ひ「たまに首つりもするらしいな」
さ「するかい!」
ひ「その釣り場でほかの釣り人と魚のシャレの言い合いをしてみ。ほなその人と友達になれるがな」
さ「魚のシャレの言い合いというと?」
ひ「君が釣り人に『何が釣れましたか?』と聞くやろ。その人が『サヨリが釣れました』と答えると、君がそのサヨリを見て『きれいなサヨリですねえ。まるで女優の吉永サヨリでんなあ』とシャレを言うねん。ほな、相手は君に心を許して友達になれるねん」
さ「『何が釣れましたか?』と聞いたときに『イワシです』と言われた時はどういうの?」
ひ「『きれいなイワシですねえ。まるで女優のイワシタ志摩でんなあ』
さ「なるほど」
ひ「ほな、僕が釣り人をするから、君が声をかけて来なあかんで」
さ「ちょっと。何か釣れましたか?」
ひ「ほら、こんなキンメダイですわ」
さ「きれいなキンメダイですねえ。まるで女優の菅井キンメダイですね」
ひ「菅井キンメダイて……そんなん誰もきれいやと思いませんやろ。失礼な人でんな。そんなこと言われたら、私はブリブリとオコッゼ」
さ「ブリとオコゼのシャレですか。うまいこと言いまんなあ」
ひ「感心してたらあかんねん。そこで君も魚のシャレで返さなあかんねん」
さ「なるほど……ブリブリと怒らずにもっとサバサバとしてくださいよ」
ひ「サバサバと……あんたもなかなかシャレのヒラメキがタイしたもんですなあ」
さ「ヒラメとタイが入ってるがな……誉めていただいて、アジがとうございます」
ひ「それ、ありがとうございますやろ!……しかしあんた不細工な顔してまんなあ。私はあんたにドジョウしまっせ」
さ「ドジョウて!」
ひ「マスマスシャレに乗ってきましたなあ」
さ「……私のことを不細工て言わはりましたけど、これでも私はアナゴにもてまんねん」
ひ「オナコやろ!……あんたがオナゴにもてるて、そんなボラ吹かれたら、ハタハタ迷惑でんな」
さ「ボラとハタハタかいな。私の言うたことがボラや言われたら、私ほんまに腹がタチウオ」
ひ「腹がタチウオて……あんたの腹の中なんて、マッグロでっしゃろ」
さ「マッグロ!?」
ひ「真っ黒のシャレでんがな……『ちょっと聞いたあ?』」
さ「それはええねん!」
ひ「しかし、あんたのどこが良うておなごにもてまんねや?」
さ「この目がかわいいて言うてくれマスねん」
ひ「エーッ。これ、メダッカ!?メダカ?」
さ「メダカのシャレかい!」
ひ「私は、シジミが二個並んでるのやと思いました」
さ「シジミて!そんなことイワナいで、アホンタラ」
ひ「イワナとタラかいな」
さ「それに、私の男らしいとこがアナゴにもてまんねや」
ひ「そう言えば、あんた見たとこ男らしいでんな」
さ「アジがとう」
ひ「それ言うたわい!……あんたの男らしいとこは、あのナマズの次郎長みたいでんな」
さ「それ清水の次郎長やろ!……ナマズとシミズでは違いすぎひんか?」
ひ「ああしんど」
さ「こうやってシャレを言い合ってたら、二人は仲良くなって、友達になれるわけやね」
ひ「残念やけど二人は仲悪なるね」
さ「なんでや?」
ひ「魚のシャレだけに、フナかになるねん。フナかに」
さ「もうええわ!」

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