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漫才台本「こんな名前はいかがです」

前田五郎「滋賀県の豊郷町へ参りました」
坂田利夫「いい町ですね」
ま「町もええけど、豊郷という町の名前もよろしいね」
さ「ほんまやね、豊郷の豊は、ゆかたと書きまんねん」
ま「ゆかたと違ごて、ゆたかや!」
さ「郷はごうと書きまんねん」
ま「郷ひろみのごうですわ」
さ「なんやと?」
ま「郷ひろみのごう」
さ「わしとそっくりさんの名前を、呼び捨てにすな!」
ま「……お前のどこが郷ひろみにそっくりやねん。ゴミ捨て場みたいな顔して」
さ「ゴミ捨て場て!」
ま「この男が楽屋で寝てまっしゃろ、顔にようハエがたかりまんねん。そのハエが顔にとまったら、皮膚から出るネバネバで、ハエがくっついて逃げられまへんねん」
さ「わしの顔はハエ取り紙か!」
ま「まぁしかし、豊郷町に限らず、町の名前というのは、『ああでもない、こうでもない』といろいろ苦心の末付けられたんやろね」
さ「そうでもないの違うか。町の名前なんか、単純に付けられまんねん」
ま「単純と言うと?」
さ「例えば、京都なんか、昔は京の都と言われてたのを、”の”を取り除いて京都になったんやからね」
ま「単純やねぇ、ほな大阪はどうやってつけられたんや」
さ「名前を付ける役の人が『なにわの町を何という名前にしよかな』と考えながら歩いてる時に、前から女装をした男がやって来たんや」
ま「女装をした男が?」
さ「それを見て『なんや、女や思たら、おっさんか』と思た瞬間、そやこの町の名前、おっさんかにしよと思たんや」
ま「おっさんか!?」
さ「そのおっさんかをいろいろ手直しして、最後は大阪になったんや」
ま「ほんまかいな!ほな、滋賀県の大津はどうやって付けられたんや?」
さ「名前を付ける役の人が、『風呂でも入りながら考えよか』と、湯の中へ足を入れたとたん、湯が無茶苦茶に熱かったから叫んだんや」
ま「どう?」
さ「オッツー!、オー、ツー!……そこで『そや、オーツにしよ』と思いついたんや」
ま「……町の名前の付けられ片て、ほんま単純やな」
さ「日本だけと違ごて、外国の町の名前でも単純ですよ」
ま「外国の名前と言うと?」
さ「例えば、ドイツの首都なんかでも、名前を付ける役の人が、考えてる時に、電話のベルがリンと鳴ったんや、その時に『そや、ベルリンにしよ』と考え付いたんや」
ま「……ベルリンて、そういういきさつで付いたんかいな」
さ「中国の首都でもよう似たもんや」
ま「中国の首都」
さ「名前を付ける役の人が、鉛筆で『ああでもないこうでもない』と、いろんな名前を紙に書いてる時に、鉛筆の芯が折れたんや」
ま「鉛筆の芯が折れた?」
さ「ペキンとな……その時に『そや、ペキンにしよ』と決めたんや」
ま「ほんまかいな!ほな、イギリスの首都のロンドンは、どうやって付けられたんや?」
さ「これは一般募集ですよ」
ま「一般募集?」
さ「イギリスの首都の名前は何が良いかを一般募集したんや」
ま「なるほど」
さ「ほな『こんな名前はどうか』というハガキが、ロンドンと集ったんや、ロンドンと。ロンドンと集ったんを見て、責任者が『そや、ロンドンにしよ』と決めたんや」
ま「……デンマークの首都はどうして付けられたかわかりました」
さ「デンマークの首都?」
ま「名前を付ける人が、君と同じような頭をしてましたんや」
さ「豊かな髪の毛をしとったんやな」
ま「正反対や!……その人が自分の顔を鏡で見た途端、思いついたんや、『そや、コペンハーゲンにしよ』と」
さ「……なかなか勉強してますねぇ」
ま「……ただ思い付きを言うただけやけどな」
さ「町の名前だけと違ごて、物の名前でも、単純に付けられてるんですよ」
ま「物の名前言うと?」
さ「例えば、魚の名前でも、付けられた理由は単純ですからね」
ま「魚の名前ね」
さ「例えばアジなんか、『この魚ええ味してるやないか、ほな名前アジにしよか』やで」
ま「単純やなぁ」
さ「ニシンなんかでも『おい、この魚の腹の中、カズノコが入ってるで、ということはニンシンしてたんやな、ほなこの魚の名前ニシンにしよか』てなもんや」
ま「ほな聞くけど、イワシはどういう理由でイワシと付いたんや?」
さ「『おい、この魚キラキラと輝いてきれいやな、女優で言うたら、岩下志麻みたいやないか、ほな名前イワシにしよか』や」
ま「……サヨリは?」
さ「『この魚もキラキラと奇麗やな、女優で言うたら吉永サヨリやな、ほなサヨリにしよか』や」
ま「吉永”サユリ”やろ!」
さ「とにかく単純」
ま「ほな、オコゼの名前が付いた理由は何や?」
さ「『おい、この魚、ブサイクな魚やのう、前田五郎の嫁はんの顔みたいな魚やないか』『そんなこと言うたら、前田五郎おこっぜ』『ほなこの魚の名前、おこぜにしよか』こうや」
ま「……そこまで言われたらわしも言うたるわ、昔、ブサイクな汚い魚がおったんや、その時に『なんやこのヌルヌルした汚い魚、坂田利夫にそっくりやないか、アホの坂田にそっくりとは気の毒な魚やのう、”ドウジョウ”するで、そや、この魚の名前ドジョウにしよ』とこうなったんや、ハッハッハッハッ、な」
さ「……君、勉強してますねぇ」
ま「怒らんのかい!」
さ「いろいろと、名前の話が出ましたが、実を言うと、私の先祖と言うのは代々、名前を付ける役職に就いておりましてね」
ま「代々というと、いつの時代から名前を付ける役職やったんや?」
さ「平安時代の、坂田金時の時代からやないか」
ま「えっ、あの坂田金時て、君の先祖やったんかいな?」
さ「そうや、坂田金時と言えば、赤い色した豆を、金時豆と名付けたんで有名やろ」
ま「それは知らんけど、源頼光の家来の四天王の一人として、大江山の鬼退治をしたんで有名やないか」
さ「鬼退治をしましたよ」
ま「先祖が鬼退治をしてるのに、なんで子孫の君が、ゴキブリ退治も出来へんのや?」
さ「ほっとけ!」
ま「坂田金時と言えば、子供の頃は金太郎と呼ばれて、足柄山で熊と相撲をとっていた人やで」
さ「そやからうちには、金太郎の股掛けが、家宝として残ってるがな」
ま「金太郎の股掛けいうと、大きな丸が書かれて、丸の中にアホと書かれてるやつやで」
さ「金と書かれてるんや!アホて書く訳無いやろ」
ま「しかしようそんな、平安時代の股掛けが残ってたなぁ」
さ「そら、絹とか木綿の股掛けやったら、虫に食われて、とっくに跡形も無くなっとるわい」
ま「ほな、その股掛け、何で出来とるんや?」
さ「ポリエステル百パーセント」
ま「アホな!平安時代にポリエステルとか有る訳ないやろ」
さ「うちの先祖は、坂田金時以来、代々京都に住んで、名前を付ける役職に就いてきた訳や」
ま「そういう立派な先祖とは知りませんでした。おみそれしました」
さ「そやから、京都のお寺の名前は、殆ど私の先祖が付けましたからね」
ま「京都のお寺の名前をかいな」
さ「あるお寺から、名前を付けてくれと頼まれた先祖は、トイレの中で一生懸命考えたんや」
ま「トイレの中でかい」
さ「うちは先祖代々、物を考える時はトイレの中や」
ま「それで、先祖がトイレの中で考えたお寺の名前は?」
さ「キンカクシ」
ま「金閣寺やろ!」
さ「ものすごくたくさんのお金を出されて『うちの寺の名前を付けてくれ』と頼まれたこともありまして」
ま「そんなにお金をもろたら、えらい得やなぁ」
さ「そら得ですよ、先祖大喜びや」
ま「……付けた名前は?」
さ「大徳寺」
ま「……今日の漫才シャレが多いなぁ!」
さ「京都の大奥にある寺から、三千円だすから、名前を付けてくれと頼まれたこともあるねん」
ま「三千円て安いなぁ」
さ「で、付けた名前が」
ま「三千院やろ」
さ「先に言うな!」
ま「そんなん誰にでもわかるやないか」
さ「先祖は違う寺からも、名前を付けてくれと頼まれて、その寺を見に行った時にコケたんや、そして付けた名前が」
ま「苔寺やろ」
さ「先に言うな言うてるやろ!」
ま「先に言われた無かったら、悟られんように持っていけ」
さ「先祖は別の寺からも名前を付けてくれと頼まれてね、その寺というのは、近くに清い水が流れてたんや」
ま「……清い水。付けた寺の名前わかるけど、黙ってたろ」
さ「付けた名前が知恩院や」
ま「……清水寺と違うんかい!ほな、清い水の意味はなんやったんや!?」
さ「意味なんかあるかい、悟られんように持って行っただけじゃ」
ま「アホな!……君がそういう由緒ある家業の人間なら、一つ頼みたいことがあるんですよ」
さ「頼みたいことと言うと?」
ま「実は先日、うちの息子に男の子が産まれたんや」
さ「息子の子ということは、君の話やないか」
ま「そう、初孫でして」
さ「なに」
ま「ウイマゴやと言うてるねん」
さ「酒に酔うて産まれて来たんか?」
ま「そうやなくて、ウイマゴと言うのは初めての孫のことや」
さ「可愛いやろ」
ま「可愛いねぇ、その孫の名前を私に付けてくれと、息子から頼まれたんやけど、なかなかこれという名前が見つからん、そこで君に名前を付けてもらいたい訳や」
さ「任せてください、うちは代々名前を付ける専門家ですからね」
ま「孫の名前、どんな名前がええやろ?」
さ「君の名前の五郎をもろて、前田五郎兵衛いうのはどうや」
ま「……そんな名前、孫が可哀相やろ」
さ「君は将来孫にどんな人になってもらいたいのや?」
ま「出来る事なら、ハンカチ王子のような、甲子園で活躍できる野球選手になってもらいたいね」
さ「ほなハンカチ王子の斎藤佑樹の佑樹をもろて、前田祐樹というのはどや」
ま「前田祐樹ねぇ、ちょっと物足らんわ」
さ「ほな、斎藤ももろて、前田斎藤佑樹いうのはどうや」
ま「そこまではいらんねん!実は息子は孫をプロゴルファーにしたがっとんねや」
さ「前田タイガーウッズはどうや」
ま「前田タイガーウッズ!?」
さ「前田ハニカミ王子にするか?」
ま「……真面目に考えとんのかい?」
さ「真面目に考えてますよ、名前の良い悪いで、その人の人生が変わるんですからね」
ま「ほな、君の坂田利夫いう名前も変えて、君のみすぼらしい人生も変えたらどうや」
さ「ええこと言うてくれたなぁ、私、明日から名前変えますわ」
ま「何という名前に変えるの?」
さ「坂田とよさと」
ま「豊郷町へのベンチャラが丸見えやないか」
さ「坂田もこみちはどうやろ」
ま「坂田もこみち?」
さ「速水もこみちはイケメンで有名やろ?私もイケメンにあやかって、もこみちを貰うねん
ま「しかし、君はどう見てもイケメンというよりは、ツケメンという顔やからなぁ」
さ「ツケメンてどんな顔やねん!」
ま「わかった。もこみちの一部をもろた、君らしい名前がある」
さ「もこみちの一部をもらうの?」
ま「よし、君は明日からはこの名前や」
さ「明日からの私の名前は?」
ま「坂田でこぼこみち」
さ「もうええわ!」

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