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漫才台本「ファンサービスが一番」

前田五郎「コメディNo.1です」
坂田利夫「皆さん。私ら芸能人いうのは、いろいろと気苦労が多いんですよ
ま「気苦労と言いますと?
さ「道歩いている時なんかでも、普段は声をかけて頂くのは嬉しいんですが、たまにはそっとしていて欲しい時もありまんねん
ま「考え事してる時なんかそうやね、そんなときは私、前田五郎てわからんようにサングラスかけますねん
さ「ところが私は、サングラスをかけてもあきまへんねや
ま「この顔と、辺りをただようアホの臭いで、すぐに坂田利夫てわかってしまいますねん
さ「……アホの臭いてあるんかい!?」
ま「あるさかいによう言うやないか」
さ「どう?」
ま「アホクサー!いうて」
さ「……前列の皆さん、私からアホクサイ臭いしますか?」
ま「するから、あの人さっきから鼻をつまんではるやないか」
さ「アホな!」
ま「サングラスだけでは、ほんと、坂田利夫やてすぐにわかってしまいまんねや」
さ「それがつらいんですわ」
ま「そやからこの男、道歩く時、頭からすっぽりとパンティーストッキングをかぶって歩くことが多いんですわ」
さ「パンティーストッキング!?」
ま「それも、お母がはき古した奴」
さ「アホなこと言うな!私が道歩く時に、パンティーストッキングをかぶるわけが無いやろ」
ま「そうか」
さ「かぶる時は、銀行へ通帳代わりに包丁持って行く時だけじゃ」
ま「アホな!銀行強盗してどないするねん」
さ「ほんま、芸能人はいろいろ苦労がおましてねぇ」
ま「私らなんかサングラスで済みますが、超人気スターなんか、自分をわからんようにする為に、もっともっと苦労してますよ」
さ「この前、パンダのぬいぐるみを着た奴が、テレビ局へ入ってきよったから『誰やろか?』と、脱ぎよる時に見たら、キムタクでんねん」
ま「……そうかと思うと、オートバイに乗って、月光仮面がテレビ局へやってきよった思て、よう見たらその月光仮面、織田裕二でんねや、苦労してますよ」
さ「そうかと思うと、この前、テレビ局へ棺桶が運ばれましたんや、何事があったんやろと見てたら、棺桶の中から出てきたん、飯島直子でんねん」
ま「ほんまかいな!」
さ「苦労してまっせ」
ま「この前、テレビ局から大きなゴミバケツが外へ運び出されたことありますねん」
さ「外へ運び出されたてかい?」
ま「ほな、その中から、生ゴミと一緒に出て来たん、坂田利夫でんねん」
さ「……わしゃ生ゴミ扱いかい!」
ま「けど、スターがなんぼ苦労して身を隠しても、強烈なファンというのは、それを見つけて追いかけますから凄いですよ」
さ「その強烈なファン心理というは、私にはよくわかりまんねん」
ま「というと、君にも大好きなスターがいるわけやね」
さ「二人いてまんねや」
ま「その二人とは」
さ「一人は吉永小百合さん」
ま「君ぐらいのトシの男には、サユリストは多いねや」
さ「この前、東京のテレビ局で、偶然に吉永小百合さんに出会いまして」
ま「いてはったね」
さ「その時はもう大感激でして、しかも向こうは、私のことを知ってくれてはったんですよ、わたしゃ涙が出ましたよ」
ま「小百合さん君に言ってはったね『あなた、バカの坂田さんでしょ』」
さ「……しゃあないねん。大阪でアホのことは東京ではバカ言うから」
ま「ほんま、感激しとったねぇ」
さ「握手してもらいましてね」
ま「ギューッと手握っとったがな」
さ「その後、私、ひそかに姿を隠しましたやろ」
ま「おらんようなったけど、どこへ行っとったんや?」
さ「更衣室の中で、握手してもろた手をなめとったんや」
ま「……あのな」
さ「強烈なファン心理いうのは、こんなもんでっせ。その後私、三日間その手を洗いませんでしたからね」
ま「小百合さんなんかみてみい、君と握手した後、すぐに手洗い所に駆け込んで、クレゾールで一生懸命に手を洗いながら言うてはったで」
さ「何を?」
ま「『ゴム手袋をはめて握手すれば良かった』て」
さ「わしはバイ菌のかたまりか!」
ま「吉永小百合さんの他のもう一人のファンというのは誰や」
さ「安室奈美恵ちゃん」
ま「安室奈美恵!?」
さ「そう、私、サユリストでもあり、そして、アムラーよ」
ま「君勘違いしてるね、サユリストいうのは、吉永小百合ファンのことやけど、アムラーいうのは、安室奈美恵みたいな姿をした人のことを言うのやで」
さ「なんや、安室奈美恵みたいな姿をした人のことが、アムラーかい」
ま「そう、そして、坂田利夫みたいな姿をした人が、アホラー」
さ「アホラーて!」
ま「しかし、吉永小百合と安室奈美恵とは、年令もタイプも全然違うのに、面白い選び方やな」
さ「そんなん好き好きやがな、それはそうと、奈美恵ちゃん、この前、長い髪の毛をバッサリ切ったやろ」
ま「みんながびっくりしてるがな」
さ「私もファンとして、後を追わなあかん思て、髪の毛バッサリ切りまして」
ま「お前のは切ったんと違ごて、ハゲてんのや」
さ「わたしゃ、この前、奈美恵ちゃんにファンレターを出しましたよ」
ま「ええトシしたオッサンがファンレターをかいな」
さ「トシのことはほっといてくれ」
ま「どんなこと書いて送ったんや?」
さ「『奈美恵ちゃん、お願い、切り落とした髪の毛、手元に残っていたら、このおっちゃんの頭にくれまへんやろか』」
ま「……そんなんファンレターと違ごて、只の髪の毛のおねだりや!」
さ「ほしかったんだモーン!」
ま「……しかし、スターいうのは、だいたい皆さんファンを大切にしてますが、時々ファンを大切にせんスターもおりますね」
さ「大切にせんいうと?」
ま「後をついてきたファンに『ついて来るなと言っているだろう、帰れ!』と怒鳴ってるスターを見たことありますねん。あれはいかんねぇ、ファンあってのスターやいうのを忘れてますよ」
さ「反省しております」
ま「と言うと、君もついてきたファンを、追い返したことあるの?」
さ「あまりひつこいから、ついカーッとなって、帰れ!シーッ!言うて」
ま「いかんなぁ、で、ついてきたファンてどんなファンや」
さ「色の白い鼻の黒いやつや、しっぽ振ってついてきまんねや」
ま「やっぱり犬かい!お前のファンいうたら、犬と猫とイグアナだけやないか」
さ「イグアナて!」
ま「私らコメディNo.1にも、ファンの方はいてくれはるんですが、強烈さ加減というのが、スマップとかTOKIOのファンとは、全然違うね」
さ「スマップもすごいけど、TOKIOのファンもすごいね」
ま「TOKIO、ごっつい人気や」
さ「私、と・し・お、でんねん」
ま「一字違いで大違いですわ」
さ「TOKIOのショーなんか、若い女の子のファンの『トモヤー!』『タツヤー!』言う声援が凄いらしいでんな」
ま「名前をを呼びよるからね」
さ「私にも時々声援がかかるんですが、必ず『アホー!』ですわ」
ま「声をかけてくれはるだけでも、ありがたいと思わないかん」
さ「そやから私、これからはもっともっと、私のファンを大切にしよと思いましてね」
ま「ええこっちゃないかい」
さ「来年の春に『坂田利夫ファンの集い』いうのを聞こ思うねん」
ま「『坂田利夫ファンの集い』」
さ「ホテルを借りてやろ思うのやけど、費用は全て、私のポケットモンキーだ」
ま「……それを言うなら、ポケットマネーやろ!」
さ「そう、そのマネーですわ。それが、せめてものファンへ私からのオウム返しですわ」
ま「恩返しや!それにしても大胆な計画を立ててるけど、ほんまに費用大丈夫かいな」
さ「大丈夫。それまでには、前田五郎にかけた生命保険が、私にも入ってきまんねん」
ま「わしを殺すな!」
さ「どれぐらいのファンの方が集ってくれるか、今から楽しみやね」
ま「司会進行は私が努めよやないか」
さ「頼みますよ」
ま(司会風に)「皆様、本日は『坂田利夫ファンの集い』に集って頂き、本当にありがとうございます。さぞや、故人も草葉の陰で喜んでいることと思います」
さ「今度はワシを殺すんかい!」
ま「これほど大勢の方にお集まり頂けるとは、私は全く想像しておりませんでした」
さ「タダやからみんな来まんねん」
ま「すみません。今日の『上方演芸会』のお客さんのことを言うてるの違いますから、誤解のないように」
さ「……そないして断ったら、余計に言うてるように聞こえるやないか」
ま「えー、先程、係りの者に調べさせたところ、本日の『坂田利夫ファンの集い』に集まっていただいたお方が、なんと、七百八十三名に達したそうです」
さ「すごいなぁ、七百八十三名もかい」
ま「うち、シェパードが三十名、秋田県が二十八名」
さ「犬の数まで入れとんのかい!」
ま「名古屋コーチンが十二名」
さ「ニワトリやないかい!」
ま「結局、七百八十三名のうち、人類は二百六十名ということでした」
さ「人類は三分の一かい!」
ま「それでも、わざわざ君の為に二百六十名も集ってくれはったんや、凄いやないか」
さ「ファンの皆さんありがとうございます」
ま「実は、昨日もこの会場で、ある若手漫才師のファンの集いがございまして、その時は千四十名が集まったそうです」
さ「……私へのイヤミかい」
ま「しかし、この会は負けてはおりません。人数は四分の一でも、昨日の会よりも、年令の合計では上をいっております」
さ「……年寄りばっかりやいうことやないか!」
ま「あっ、ただいま報告が入りましたので訂正させて頂きます。この会の出席者の数が減ることになりました」
さ「なんでや?」
ま「先ほど控室で、一人老衰で静かにお亡くなりになったそうです」
さ「アホな!」
ま「さっ、それでは、本日の主役、アホの坂田のご挨拶です。拍手でお迎えいたしましょう。」
さ「……えー、本日は、この私のファンの集いへようこそ」
ま「言い忘れましたが、会場の出入り口に募金箱が置いてあります。坂田利夫にカツラを作ってやろうという趣旨の募金箱です。よかったら入れてやってください。……どうぞ」
さ「エー、本日はこの私の……」
ま「言い忘れましたが、おトイレはあちらの方でございます。……どうぞ」
さ「エー、本日は」
ま「言い忘れましたが」
さ「言い忘れはもうええから、私に喋らせたれや」
ま「どうぞ」
さ「エー、本日は私の為に、こんなに沢山の方に集っていただいて感激しております。このあと、皆様一人一人に、ぜひ握手をして回りたいと思っております」
ま「その際には、テーブルにゴム手袋を用意しているのでお使いください」
さ「……粗末なものではございますが、お食事、お飲み物も用意しておりますので、皆様どうか存分にお召し上がりくださいませ、会費は一万円となっておりますので、途中で弟子が集めに参りますから、よろしくお願いいたします」
ま「ちょっと待て待て!費用は全てタダで、君のポケットマネーで払うことになっとったんと違うんか?」
さ「それは客寄せの為や、来てしもたらこっちのもんやないか」
ま「もうええわ!」


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