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漫才台本「こらいけま!」

夢路いとし「この前、あるうどん屋さんで、きつねうどんを食べたんです」
喜味こいし「きつねうどんを?」
い「そのうまいことうまいこと」
こ「そんなにうまかったん?」
い「うまいはずや、麺は最高の昆布とカツオを使こてるし、ダシは手打ちで腰があるし」
こ「麺とダシがアベコベや!」
い「あまりの旨さに、私は思わず大声で『こらいけま!』と叫んだね」
こ「誉められて店の主人、喜んだやろ?」
い「『誉めてくれておおきに、お客さんには、この四百円のきつねうどん、三百円にしときますわ』や」
こ「主人もよっぽど嬉しかったんやね」
い「それ聞いて私は『こらいけま!こらいけま!こらいけま!』と、あと三回叫んだね」
こ「……なんでや?」
い「四百円のきつねうどんが、一回の『こらいけま!』で三百円やで。あと三回言ったらタダになる思て」
こ「なるかい!」
い「翌日、別の店で天ぷらうどんを食べたんやけど、そのまずいこと」
こ「今度はまずかったんかい」
い「思わず私『まけいらこ!』と叫んだね」
こ「……なんやその『まけいらこ』て」
い「『こらいけま』の逆さまや。こ・ら・い・け・ま。ま・け・い・ら・こ」
こ「しょうもないこと叫ぶな!相手にはさっぱりわからへんねや。しかし、客に『こらいけま』と言われると、店の主人も本望やろね」
い「ところが、私サラダを食べて『こらいけま!』と言うたけど、主人の反応無しの店あったで」
こ「客に『こらいけま』と言われて反応無しでは、そら失礼やないか」
い「失礼ですよ」
こ「そのサラダどこで食べたんや」
い「ロンドンへ旅行した時ですけど」
こ「……言葉の意味が相手にわからへんねや!」
い「そう思たから『こらいけま』を英語に直して私は『オゥ!レッツゴー!』と言うたがな」
こ「『こらいけま』が『オゥ!レッツゴー!』?」
い「ニュアンスが似てるやろ」
こ「で、君が『オゥ!レッツゴー!』言うたら、主人どんな反応した?」
い「私が食い逃げするんや思て、私に食らいついて来よったがな」
こ「アホな!」
い「店はともかく、うちの嫁はんだけは『こらいけま』というような料理、あまり作りよらんね」
こ「ほな怒ったらんかい『たまには、こらいけまと言えるような料理を作れ』言うて」
い「それを言うと、嫁はんが言うねん」
こ「なにを?」
い「『その前に、こらいけまと言えるだけの金を家に入れんか』と」
こ「……入れたれや!自分だけで使わんと」
い「でも、三か月前の事ですわ。嫁はんが手作りの塩こぶを作りよってね、その時は初めて『こらいけま』と言うたね」
こ「ホー、嫁はんの手作りの塩こぶに、君は『こらいけま』と初めて言うたか」
い「言いました」
こ「お互い良かったやないか」
い「それがええことないねん」
こ「なんでや?」
い「それを言うたばかりに、それ以来、私のおかずその塩こぶばっかりや」
こ「あかんわ!」

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