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佐月が通して通り、石原が通せず通れなかった4s

今年から個人戦となったfuzzカップのベスト64D卓が面白かった。自主的に観戦記を書きたくなるレベルで。

入会1年目で雀竜位決定戦に進出し、第18期新人王を戴冠、このfuzzカップは2次予選シードから危なげなく勝ち上がってきたヨンス。第14期・第19期女流雀王、第26期マスターズ、今や押しも押されもせぬ協会を代表するトッププロ佐月麻理子。佐月については、最近読んだ下の記事に詳しい。

連盟の藤井すみれプロは、マスターズの会場で同卓した佐月に「友達になりたいので、連絡先を教えてください」と言ったそうだ。同性はいいよなぁ。筆者が同じことをしたらセクハラで訴えられちゃう。

この両者に対し、20期前期入会の宍戸涼、石原いつきが挑む構図。20期後期、21期前期とイキのいい後輩たちも入会してきて、2人としてもいつまでもルーキーを装っているわけにはいかない。

宍戸は第18回日本オープンで準決勝を首位通過し決勝卓3位。筆者が協会公式の仕事として同期の観戦記を書いたのは、この時の宍戸が初めてだった。雀王戦も、初参加の20期前期こそ苦戦したものの、続く20期後期では危なげなく昇級すると、続く21期前期ではE2リーグを首位で2段階昇級。新設された特昇リーグでも現在リアルタイムで活躍中の実力者だ。そういえば日本オープンの時にLINEで簡単な取材をさせてもらったのが懐かしい。

石原は宍戸に遅れること半期、21期前期にE3リーグからE2リーグへの昇級を決めたばかり。fuzzカップは、本戦シード争奪戦で93票を集め、1次予選を免除されると、2次予選を勝ち上がってこの放送対局を射止めた。

fuzzカップは2半荘を行い、そのトータルポイント上位2名が通過、下位2名が脱落というルールになっている。見る方としては分かりやすいのかもしれないが、プレイヤーは条件計算が難しく、筆者は研修で悪戦苦闘した苦い思い出がある。宍戸と石原も同じ研修を受けたのだけど、今回改めて「なぜ研修でトーナメント問題をあんなにたくさんやらされたのか」が身にしみたのではないか。

この観戦記は、筆者が放送を見ていて、石原の1回戦南4局オーラスの押し引きに疑問を持ってLINEで質問したことに端を発する。

中島→石原

1回戦南4局オーラス、まずは点棒状況から見てもらいたい。

東家・石原37500
南家・宍戸△400
西家・佐月19000
北家・ヨンス43900

ここで南家ラス目の宍戸から立直を受けて、親の2着目石原は現物を抜いた。トップ目のヨンスまでわずか6400差は、2000オールもあれば十分で、一方下を見れば宍戸に倍満を放銃しても着順は変わらず。降りる理由がなさそうに見えたのだ。

実を言うと、宍戸の立直はドラの辺3mで、なおかつ筆者はこの対局の結末を先にTwitterで知っていたので、上のLINEは「この時なんとかならなかったのかよオイ」という意味合いを多分に含んでいた。

石原を降ろした宍戸は、悠々と15巡目まで和了り抽選を受け続け、山の奥深くに眠っていた2000/4000をゲット。素点の回復に成功する。

件のLINEだが、急な連絡にも関わらず、わずか8分後には返信が来ていた。

つまり石原は、1回戦の2着を受け入れ、1回戦の最中に2回戦のことをシミュレートしていたわけだ。この記事では分かりやすく、1回戦終了後の図を使って見ていこう。

1着ヨンスと4着宍戸が2回戦も同じ着順だったと仮定する。石原はこの時の条件を緩和したかったということで、確かにこうなってみると石原と佐月のポイント差は36.5ptあり、2回戦佐月2着(+10pt)石原3着(△10pt)だったとして、さらに素点で16500点リードしていることになる。

ネタバレになってしまい恐縮だが、石原が【敗着】と悔いたのは2回戦東3局親番中でのことだった。石原は2巡目に絶好の嵌3mを引き入れると、打4sより先に打7mとした。

筆者は赤5m引きと立直した際の8m釣り出しくらいしか思い浮かばなかったが、石原は赤5s引きに備える意味合いもあったと舌を出した。しかしこの構想はわずか3巡後に崩壊することになる。

ライバル佐月からの立直。麻雀は「ポン」「チー」「ロン」など競技に関する発声以外は静かなテーブルゲームだけど、【そこにだけは打てない。】という石原の叫びが聞こえてくるようだ。

1回戦の宍戸の辺3mもそうだが、筆者には佐月の立直が25pだと分かっていたので、なおさらこの4sは押してほしかったと思った。いや、押してくれと願った。しかし石原は大事に降りて、この局を佐月の1人聴牌とする。

石原にしてみれば、こういう時のために1回戦の南4局オーラスを降りたわけで、言ってみれば想定の範囲内だったのだろうか。しかし、2回戦の南4局オーラスついに恐れていたことが現実になった。冷たい数字が、クッキリと形を表した。

東家・佐月32600
南家・宍戸7600
西家・ヨンス30300
北家・石原29500

佐月がトップ目に立ったのだ。25000点持ち30000点返しでトップに20000点(20pt)のオカがある、いわゆる協会ルールはトップが大きい。このまま全員ノーテンで終局した場合のトータルポイントを計算すると、

ヨンス・1回戦61.9+2回戦10.3=+72.2
佐月・1回戦△23.0+2回戦52.6=+29.6
石原・1回戦13.5+2回戦△10.5=+3.0
宍戸・1回戦△52.4+2回戦△52.4=△104.8

となり、石原は敗退だ。

ではこの南4局オーラス石原はどうすればいいのかというと…

ここで満を持して佐月からのLINEを引用しよう。この観戦記における「伝家の宝刀」と表現しても差し支えない。

当然ですが掲載許可は取ってます

石原は、ヨンスをまくっても焼け石に水で、とにかく佐月をかわさなければならない。もっと正確に言うと、佐月がトップではない状態でこのゲームを終えたい。だから、例えば宍戸が佐月から2000は2600を和了ってくれればそれだけで通過となる。宍戸がそれを目指すかどうかは別として、だけど。

そんな条件の中、ついに石原にベスト32進出聴牌が入った。

「絶対ライバルを直撃」より「どこから出ても勝ち」を目指すのが人情だ。また、宍戸やヨンスから立直棒が出ることも期待できる。石原はギリギリまでドラの8sを引っ張り、上から打9sとして2000は2600の佐月直撃条件つき聴牌となった。7sはドラ表示牌に1枚、そして…

タンヤオ仕掛けだった佐月の雀頭なのだが、ここに来て最後の1枚がやって来た。つまり山にはあったのだ。運命の針が振れる。

佐月か、石原か。

石原か、佐月か。

ちなみに、佐月と石原の点差は3100点なので、ヨンスと宍戸の動向次第ではあるものの、石原聴牌・佐月ノーテンでもほぼ石原の勝ち。石原の剣先は、確かに佐月の喉元をとらえていた。

前出の佐月のLINEには続きがある。

佐月は前巡3sチー打4sの時に腹を括っていたのだ。両面なら、47sが本命だ、と。しかし、このLINEにはさらに続きがあった。

【佐月からのLINE(内容を変えない程度で一部表現を変更しています)】

7sを持ってきて思ったこと
・5mが自分の目から4枚見えていて36m47mが当たらないので、両面で当たる筋の本数がすごく減った。
・石原さんにいろんな牌が通って待ちが絞れてしまって愚形率が上がっている。
・最終手出しが9sで関連牌の可能性が極めて高い。(条件的にもドラを使えるといいから残してそうだよね)

こうして決着はついた。佐月は歯を食いしばって打赤5mとし、和了れはしなかったものの、石原に放銃することなく聴牌を取り切った。読みも読んだり、佐月渾身の4m単騎。

麻雀のことを「運ゲー」だと揶揄する人は少なくない。しかし、2回戦南4局オーラスのあの緊迫した場面で、4sを押す勇気と7sを止める繊細さを併せ持つ佐月が運悪く敗れるところを、筆者は想像ができない。

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石原さん、宍戸さん、ドンマイ。条件計算的にも、押し引き的にも、勉強になる素晴らしい対局でした。21期後期研修の教材にしてもいいくらいの。

佐月さん、ヨンスさん、お疲れ様でした。次も楽しみにしています。

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