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シンダーエラ山本亜衣が舞踏会で魅せたラストダンス

シンデレラファイト、シンデレラファイト、と盛り上がる麻雀界だが、ここで本物の童話シンデレラについて少し掘り下げてみたい。

【シンデレラ】は和訳すると【灰かぶり姫】となる。主人公の名前を翻訳すると【エラ】なのだが、継母や意地悪な姉たちに汚されてしまい、【灰まみれのエラ=シンダーエラ】とからかわれたことに由来している。シンダーエラ→シンデーレラ→シンデレラという具合に変化したのだ。

そのことを知ってか知らずか、ここ最近の山本亜衣は灰にまみれていた。

公式発表ではないものの、誰よりも多くシンデレラファイトについてツイートし、誰よりも多く自分の放送対局を自身で見直した山本。しかし、Twitter投票ポイントが、ただの1ポイントも入らなかった。(※投票自体はたくさんありましたし、ボクも投票しました。他の選手への投票がもっとあったんですね。)

Twitter民にすこぶる評判が良くなかった主催者ポイントを獲得し、命からがら敗者復活戦の舞台にたどり着いた山本に対し、風当たりは強かった。

◆主催者ポイントって何だよ
◆俺たち(Twitter民)が投票しても敗者復活戦で推しが見られないのかよ
◆てか山本亜衣って誰だよ

これがシンデレラでなくて何がシンデレラなのだろう。図らずも、山本はこの敗者復活戦の舞台に進む過程で、自らシンデレラを体現してしまった。

しかも、主催者ポイントは入ったものの、山本はその主催者からも意地悪をされる始末。というのも、合計ポイントが3位だった山本は、合計ポイントが2位だった高島芽衣と8000点差、1位だった梶田琴理とは何と16000点ものビハインドを背負ってのゲームスタートとなったのだ。ゲームスタート時の点棒状況は以下の通り。

東家・梶田琴理(ポイント1位)49000
南家・高島芽衣(ポイント2位)41000
西家・山本亜衣(ポイント3位)33000
北家・篠原冴美(ポイント4位)25000

かくして、変則マッチの幕が上がった。

筆者はあまりこういった変則マッチについて明るくないが、トップにしか意味のない1戦限定で、しかもトップ目と24000差でスタートとなれば、立直をツモって裏ドラを乗せ、高打点を目指す他ないだろう。東2局4着目の篠原からさっそく5巡目立直がかかった。待ちは58sだ。

3着目の山本とて簡単に引き下がるわけには行かない。待ちは嵌3sと愚形ながらも聴牌にこぎつけ、蛮勇を奮って追いかけ立直を打った。3sは先行立直篠原の宣言牌なのに、誰も合わせていない牌だ。山にあるという手応えはあっただろう。

しかし、山本はよりによって赤5sをつかみ篠原に放銃となってしまう。何というバッドエンド。赤5sが来ると分かっていれば、そして篠原の立直が58sだと分かっていれば、いったんダマに構えてここで打2s立直だったものを。

しかし、シンダーエラ山本はこの3900で心が折れるような人間じゃない。むしろ「赤5sで放銃したのに3900!」と喜んでさえいたのだ。そんな山本に、麻雀の神様が微笑まずにいられようか。

これが親番の配牌だというから驚く。タンヤオ・平和・一盃口に赤ドラが1つのまごうことなき一向聴だ。

山本は、自分で2枚使っていて薄い6sを引き入れてこの手を仕上げると、淀みないフォームで3pを横に曲げ「立直。」と発声した。まだ4巡目の出来事だ。

これに捕まったのは、東2局で山本からの赤5sをとらえた篠原。下の手形から見た山本の立直の河が

これでは、祈るような気持ちでポツンと離れた2pに手をかけるしかなかった。

立直・一発・タンヤオ・平和・一盃口・赤ドラ・裏ドラで1本余りの跳満18000は18600。ついに山本が梶田との16000点差を逆転し、トップ目に立った。

しかし、このシンデレラファイトの前身であるシンデレラリーグから出場している篠原には、シンデレラとしても協会の先輩としても意地がある。南3局1本場では注文通り嵌5pを引き入れ立直すると、高めの4mをツモって裏ドラを乗せ、立直・タンヤオ・平和・ツモ・表ドラ・裏ドラの3000/6000は3100/6100を決め、南4局自身の親番に一縷いちるの望みを託す。

山本はこの親被りで梶田との点差を3000点詰められてしまい、3300点差で南4局を迎えることになった。親番の篠原は連荘があるとしても、23300点持ちの高島には出和了りなら役満しか条件がなく、山本としては自力で決着をつけに行かざるをえない。

そこで麻雀の神様から、いや舞踏会を主催する王子様から受け取った配牌がこれなんだけど、さすがにこれは何とかならないものか。

筆者が山本の配牌に絶望している間にも、必死に手を組んでいる選手がいた。親番ラス目の篠原だ。篠原は6000オールや8000オールで一気に上位を目指す一方で、ノーテンなら流局敗退となり、自身はもちろんのこと3300点差の上位2人にも影響を及ぼしかねない。4人で作り上げるこの敗者復活戦を素晴らしい作品に仕上げるためにも、責任は重大だった。

最後は危なかったものの、ともすれば梶田への放銃牌になりかねなかった58sを吸収し、聴牌を取り切った。篠原は対局後、南3局の3100/6100について、山本トップに向けての足を引っ張ったのではないかと暗にほのめかしたが、この局の聴牌はそれを補って余りあるほどの輝きを放っていた。

こうして迎えた南4局1本場は、トップ目の山本と2着目の梶田の点差が1300で、供託が1本あるので、山本・梶田の2者は和了りトップ。21800点持ちの高島は依然として役満条件、22500点持ちの篠原には連荘の重圧が引き続きのしかかっている。

南4局0本場では筆者が絶望するほどの配牌だった山本だが、今回は割とまとまっている。9mの対子に1sもあるので、本線は平和だけど、鳴きを駆使するなら3つ払ってタンヤオに行ってもいいだろう。

一方の梶田は苦しかった。対局後「この配牌はウッてなった」と語るほど悪い配牌を、果敢に鳴いて進め、


優秀な孤立牌として残していた5mに4mをくっつけると、

36pの優勝聴牌。ずっと山本目線で書いてきたが、梶田だって勝ちたい気持ちは同じだし、何なら16000点のリードをもらって対局に臨んだことが、目には見えないプレッシャーになっていたことも十分考えられる。

タンヤオ仕掛けで89mを払う場合、危険度を考えて8mから先に払う選手も少なくないと思う。しかし今局の梶田は、残る牌がものの見事にバラバラだったことと、8m自体の重なりも逃すまいと考え、9mを切ってから実に7巡もの間8mを手に残していた。いや、残さざるをえなかった。梶田は梶田で必死のやりくりだったのだ。もちろん役満条件の高島から早い攻撃がないことも頭には入っていただろう。

山本も必死に食らいつくが、聴牌打牌が梶田の当たり牌で万事休す。

梶田は8枚目の招待状をしっかりとその手に握りしめ、山本には巡ってこなかった。いや、目前で手からすり抜けていったと言った方が的確かもしれない。

最後まで視聴してなお「最初16000点差だったのが最後は4300点差にまで縮まったんだから、実質ラブたんの勝ちだよなぁ…。」ってボヤいてた筆者に


「もしアドバンテージがなかったとしたら、お互い戦い方が違ったはず」という、山本から梶田宛のツイートがクリティカルヒット。このシンダーエラは本当にたくましい。確かに、山本の18000が出る前の梶田は、大振りせず局消化を目指した手組みをしていた。

あと、筆者はここまで2819字を使って観戦記を書いてきたのだが、わずか140文字にも満たないツイートの中に全ての要素を詰め込んだ、表現界の達人がいるので、そのツイートを紹介してこの稿を締めようと思う。

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山本さん、お疲れ様でした。ワクワクする麻雀をありがとうございました。梶田さん、おめでとうございます。敗者復活戦の3人はもとより、敗者復活戦に出場できなかったみんなの気持ちも背負って、セミファイナル頑張ってください。

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