2016年42冊目『シャープ崩壊』
シャープがフォックスコンからの支援を決める直前までの話が載っています。日本経済新聞社の本なのですが、同社のすさまじい取材力に脱帽しました。
シャープは早川徳次さんが作った会社で、シャープペンシル、「目の付けどころがシャープでしょ」などで有名です。
技術分野の歴史的業績を讃える「IEEEマイルストーン」では14インチの液晶モニター、電卓、太陽電池と日本企業として最多の3製品を受賞しています。
創業者の早川さんは「人にまねされるものをやる」と独創的な技術で世界に挑む気概を示し、実際に次々とユニークな製品を世に送り出していました。
関西では堅実な無借金経営をしていた会社でした。
歯車がずれたのは、アクオスの大成功だったようです。
家電メーカの序列はテレビで決まるそうです。
アクオスの成功でパナやソニーとの序列が変わり、1.5流と揶揄されたポジションから1流に仲間入りでき、天狗になってしまったようなのです。
凋落の理由はいくつかあります。
亀山モデルで世界を席巻しだした際に、さらに大規模な堺工場を作ってしまったこと。
しかし、その後の液晶価格の下落を読めず、結果として原材料を高い価格で買う契約を長期でしてしまったこと。
液晶だけではなく、大規模投資をしていた太陽電池の価格も大幅下落してしまったこと。
管理会計がまずく、(最近の東芝のように)黒字決算から大幅赤字になる事が直前まで分からなかったこと。
フォックスコン(1回目)やサムソンとの交渉を優位に進められなかったこと。
さらに創業者の言葉をきちんと伝承できていなかったことも挙げられる。
創業者の早川氏は、まねされるほど独創的なものを作り、それに固執せずに、さらに別の独創的なものを作り続けるために「ひとにまねされるものをやる」と言いました。ところが、アクオスで成功した幹部は、特許などで、自社液晶技術が流出しない事を目指してしまいました。
更に開発も新しい事を見つけるのではなく、「液晶の次も液晶」と言う当時のトップの言葉も創業者の言葉からの変節を表していました。
この本の凄いのは、その取材力。
特に4代目社長の町田勝彦氏、5代目社長の片山幹雄氏、その当時の副社長で町田氏の側近の浜野稔重氏、そして町田氏による短期傀儡政権を取る6代目社長の奥田隆司氏、さらに奥田氏にクーデターを起こし7代目社長になった高橋興三氏など、実際のシャープの最高幹部の人間模様について内部の人ではないと分からない事が書かれているのです。
役員会での発言、オフレコの場でのやりとり、銀行やフォックスコンのテリー会長とのやりとり、人心が乱れるとここまで外部に話すのだと言う内容のオンパレード。日経新聞の取材力なのか、シャープの人たちの口が軽いのか。おそらく両方なんでしょうね。
しかし、会社がだめになるのはほんの一瞬なんだと思いました。
たった5年ほどで一気にだめになるので。
4代目、5代目は、今から振り返ると戦略のミスはあったが、会社を大きくはした。
6代目の奥田氏は、本人も周囲も社長になると思っていなかった人物のようで、実際にその器でもありませんでした。
結果、何もしない1年間となってしまいました。緊急かつ重要な時に貴重な1年を無駄にしてしまった不作為の罪です。
7代目の高橋氏は、京セラの稲盛さんを信奉する方で、表面的な施策は稲盛さんが日本航空を立て直した方法と類似していました。
しかし、人の気持ちが分かっておらず、やればやるほど人心が離れて行ったのです。
平時であれば、奥田さん、高橋さんも無難に指揮をとれたかもしれない。
しかし、乱時は違います。そのタイミングでシャープに、必要な人材が登用されなかった不幸を感じました。
たった5年ほどの話。おそらく社内では、もっと前からその兆しがあったのだと思うのです。
自分のまわりにそのような兆しが無いか?チェックしようと思った本でした。
現代のホラーです。
お勧めです。
ちなみに本の構成・・・・人間模様だらけです
序:人事抗争による悲劇
1:追い込まれたプリンス
2:実力y等の誤算
3:復讐のクーデター劇
4:内なる敵を排除せよ
5:受け継げない創業精神
6:危機再燃で内紛勃発
7:とん挫した再建計画
▼前回のブックレビューです。
▼新著『業績を最大化させる 現場が動くマネジメント』です。
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