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2021年 55冊目『現代優生学の脅威』


優秀な人間の血統のみを次世代に継承し、劣った者たちの血筋は断絶させるか、もしくは有益なにんげんになるよう改良する。

そうすれば優れた者たちによる高度な社会が実現できるだろう。
こうした優生学の研究が、ナチスの優生政策に強い影響を与えたことは広く知られています。

障碍者の断種とユダヤ人の大量殺戮という人類史上最悪の厄災が契機となり、優生学は第二次世界大戦後の先進諸国においては、研究対象としてはもちろん、そうした主張を口にすることさえタブーとなりました。

しかし、それとは裏腹に優生思想は、先進国の思想に影響を及ぼしてきました。

日本でのハンセン病患者隔離施策はその典型です。
1907年から40年代には治療法が開発されていたのに、1996年まで継続しました。

そして現代の優生学に大きく寄与しているのが遺伝子の存在です。
出生前診断などもそうです。

極端な例が、相模原知的障碍者施設殺傷事件です。
人間を有益と無益に分け、無益なものを殺害、あるいは生まれてこないようにするという思想です。

その延長戦にあるのが無邪気な安楽死です。
一歩間違えれば、これも無益なものを殺すことになるのです。
関連するのがコロナの感染者です。

感染症は誰でも罹患する可能性があるのですが、
それでも「感染者の行動に問題があった」と糾弾します。

我々の想像力の劣化と病気が不安を呼び、不安が差別を生み出しています。
現在の優生学は邪悪な精神が生み出したものではありません。

病気や障害を恐れるナイーブな精神が、この必要を叫ぶので、広がる可能性を秘めているのです。

著者は、優生学は今後も形を変えて何度も蘇ると言っています。
我々がきちんとした知識を持つ必要があります。
そんな知識を教えてくれる本です。

別件ですが、著者の池田清彦さんは、下書きも推敲もせずに本を一気に書ききると聞いたことがあります。
この本もそうならば、凄すぎますね。

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