絶対に忘れられない食の記憶

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私が中学1年の頃に、家族でシンガポールに旅行に行った時の強烈な食の記憶。物心ついて始めての海外旅行だったため、外国って街も家も車も人も、とにかく全てがすごくクールでカッコよくて、映画の中の世界ってホントにあるんだなって思った。いつか自分もこんな世界に住んでみたいから、とりあえず英語の勉強はがんばろうって決めた。

雪国生まれの私には見たこともないような亜熱帯の植物が街中に溢れていて、『まんま自然』とは全然違うんだけれど、でも、人工的な道路や建物と、草花や木々がそれぞれダイナミックでありながらしっかり調和していて。街を行き交う人種も様々で、全てが混沌としているなって思った。アジアの真ん中に来た!これが世界なんだ!って中学生ながらに肌で感じたのを覚えている。

旅の楽しみの1つであり、後々、良くも悪くも記憶に刻まれて長く思い出話となる重要な要素として『食』があると思う。

食に関する記憶として、味、におい、見た目、店の雰囲気や店員の対応など、食がその人の心に長くしっかりと記憶として残り続けるには様々な要素がある。

シンガポールでは、夕食を何にするか決めかねて、父が現地で生まれ育ったガイドさんにオススメのレストランを聞いた。そのガイドさんが教えてくれたのは、フードコートのラーメンだった。猿橋頭(さるはしあたま)っていう店名のお店のラーメンがおすすめだという。本当の読み方があるんだろうけれど、日本人である私たちが覚えやすいように、『さるはしあたま』と言ってくれたんだと思う。本当はどんな意味なんだろう・・・

オススメの猿橋頭はローカルの人々で賑わうフードコートの中の1店舗で、すぐに見つけることが出来た。食べたことのないものをいろいろとシェアして食べるのも旅行の楽しみの1つなので、とりあえず猿橋頭のラーメンは1杯にして、他にいろいろな店で美味しそうな料理を注文した。

猿橋頭は「今までこんなに美味しいラーメンを食べたことがない!」と断言出来るくらい美味しかった!!澄んだスープはなにから取ったか分からないがとても出汁が効いていて、シンプルなお味ながらとてもとても奥深い。なんらかの魚介類からとった出汁だと思われる。麺は黄色のストレートな細麺で、具は魚のすり身の白いお団子がいくつか入っていたのは覚えている。他にも緑の野菜かなんかが入っていた様な気もするけれど、お団子があまりにも美味しかったので他はうろ覚えだ。

当時の私は、中学生で、まだ食に関しての強いこだわりや愛情というものがなかった。けれど、このラーメンは間違いなく人生で1番美味しい食べ物だと思った。食べ物でこんなにも感動し、幸せを感じたのは初めてだった。

家族全員その美味しさに驚き、2杯目を注文しに行ったのはもちろん、短い滞在中、帰国前に再び食べに行く程だった。

その後、大学生になった私は、友達を訪ねて再びシンガポールへ行った。家族と行ったあの頃は親の後をついて回っていたので、猿橋頭のあるフードコードの場所はぼんやりとしか覚えていなかった。確か、富の噴水の近くだったような気がして、でも、しばらく周辺を探してみても、結局見つけることはできなかった。

初めて行ったシンガポールで食べた料理はどれも美味しかった。だけど、猿橋頭は格別で、群を抜いて美味しくて、約25年経った今でもときおり家族の話題となったりする。

もしも今、猿橋頭のラーメンを食べられたとしたら・・・中学生だった自分が感じた、あの感動と幸せをもう一度感じられるのだろうか。逆に、記憶の中で美化されすぎて、「こんなもんだったのか・・・」とがっかりするのかもしれない。

もう一度食べたいもの。異国の、場所もハッキリしないフードコートのラーメン。エキゾチックな外国の街の景色やにおいの中にある刺激的な記憶は一生の思い出。

恐らくもう食べられない。でも、猿橋頭はこれからも私の不動の1番であり続けるだろう。



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