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一口コンロでも料理をしたい。

一人暮らしを始めたころレシピ本を二冊買ってきて料理を作った。
レシピさえ分かれば自分が食べる晩めしくらい簡単に作れると思っていたが上手く作れなかった。回鍋肉だったと思う。
結局、その買ってきたレシピ本二冊は一冊もまともに目を通さぬまま埃にまみれた。

一人暮らしを始めて一年ほどが過ぎたころ、学生だった僕はイタリアンレストランでアルバイトをしていた。
はじめはホールで接客をしていたが、いつの日からか厨房に立ってパスタを煽っていた。
あの頃の、料理はレシピがあっても作れないのだと諦めた日が嘘のように簡単にレシピを見れば作れるようになっていた。

それから家でもパスタを作ってみたり、ほかの料理に挑戦したりするようになった。
しかし一人暮らし用のアパートに設置されている狭いコンロでは料理を作る上で不便なことが多く、それがどうしても大きな障壁になった。

そんな時、バイト先でシェフがある料理を作ってくれた。
それは一枚の地鶏を余ったからとソテーしてくれたものだが、本当にただ鶏をソテーしたものだった。
そのこんがり焼き目のついた鶏肉にグリルした野菜を添えて白い器に盛られた一品は、当時の僕にとって拍子抜けするほど簡単な調理技法で作られたものだった。

それは熱したフライパンにオイルを敷き、塩と胡椒をした鶏肉を皮目から入れ、そこから九割火が入るのを待ち、あとはひっくり返して二、三分待ったら終わりだ。
気を付けるところは火加減だけで、それも鶏肉を投入した時点で中火と弱火の間ぐらいの火加減にし、それをキープすればいいだけだ。

僕はこれが「料理」になるんだと意表を突かれた気分だった。
料理とは混ぜたり、振ったり、返したり、そんなややこしい工程を踏まなければ「料理」と呼ばないのだとなぜか決めつけていた。

それならば狭いコンロでも十分料理は作れるじゃん!

豚でも鶏でも、魚でも、コンロ一つあれば、おかず一品作れてしまう。
フライパンの脇に野菜を並べれば、野菜のソテーも同時にできてしまう。
あとはポン酢でも柚子胡椒でもわさびでも醤油でもなんでもつけてしまえば白米に合うおかずになってしまう。

あの頃より多少料理がうまくなった今でもただ焼くだけのおかずは定番のおかずになっている。

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