サウナレビュー らかんの湯(佐賀)
いわずと知れたサウナシュラン殿堂入りのサウナ。佐賀は武雄温泉の御船山楽園ホテルの大浴場である。これまでに何度も訪問しているが、殿堂入り後も進化を続ける恐ろしいモンスターサウナである。宿泊の場合は男女入れ替えで全ての施設を楽しめるのも良い。
なお、佐賀ではあるが車 or 電車で博多から1時間程度で訪れることができるため、意外とアクセスは悪くない。
評価:★★★★★
男湯
サウナ
このサウナは本当にある意味で究極のサウナではないだろうか。特殊なストーブを使っているとか、映えを意識しているとか、そういった尖ったことは何もしていない。
強いて言うならばお茶ロウリュが当初は斬新であったぐらいか。かといって、こちらも今となっては全国各地の施設で真似をしているところが数多くあるのでそこまで物珍しさは感じないかもしれない。
ではいったい何が素晴らしいのかというと空間設計そのものである。サウナ空間の光源は非常に限定されており、室内はかなり暗く、サウナ体験そのものに集中できる。
暗めの室内はサウナ内が一種独立した空間としての厳かさを強調しており、雰囲気も素晴らしい。一方で、ただ暗いだけではなく、その中で壁に一筋設けられたスリットから自然光を採り入れられる構造となっており、昼間は僅かに輝きを感じ、日没後以降は自然界の光源の変化に伴い室内は更に暗さを増す。
このように、サウナ空間としての特別性を担保しながらも外界から完全に隔絶されているわけではなく、サ室内にいながら自然界の変化の様子すらも感じ取ることができる。
更に、温度と湿度のバランスも最高である。奇を衒ったセッティングではなく王道のセッティングを究極まで極めた結果ではないかと思われる。しっかりとした熱さを感じるのだが、ロウリュによる熱の伝わり方は何故かふんわりと柔らかさを覚える不思議な感覚である。
恐らく熱の対流まで完全に考慮された設計となっているからだとは思うが、どんな緻密な計算をすればここまでの心地の良い“熱さ”を実現できるのか想像も付かず、そのこだわりには脱帽するしかない。
The王道のサウナを極限まで突き詰めると、それはもはや優等生の枠に収まらず唯一無二の圧倒的なサウナとなり得ることを知った。
水風呂
完璧なサウナから動線も完璧な水風呂だが、こちらは王道というには明らかにぶっ飛んでいる。なんと温泉をチラーで冷やして水風呂にしているのだ。
何を言っているのかわからないかも知れないので繰り返すが、井戸水や湧き水などの天然水を水風呂として利用している施設はいくつかあるが、こちらは天然水といっても“温泉”である。
まさかの温泉に浸かっている間だけでなく、水風呂に浸かっている間でも温泉の有効成分による効能を感じられるとは夢にも思わなかった。
もちろん天然水ならではの水の柔らかさはしっかりと感じることができ、しっかりとキンキンに冷えていながらも、苦しさを感じない不思議な体験である。よくかき氷も天然氷だと頭が痛くならないといった話があったりするが、同様の理屈なのだろうか。
水風呂についても非の打ち所がないどころか素晴らしいポイントがいくつもあることが伝われば幸いだ。
外気浴
そして何といってもこの施設の真骨頂は外気浴体験にある。まるで眼前まで迫ってくるような山々の大自然を身近に感じながら、ととのいに向けた外気浴ができる。
ととのい用の椅子や椅子というかソファーというか悩ましい不思議なマテリアルもあって、こちらもクッション性があって最高にととのい向きなのだが、混雑時は椅子に座らずとも床全体がウッドデッキになっているので、どこでも寝転がることができる。
ととのい難民などという概念はこの施設には存在しないのだ。どこでも少し体制を緩めれば、サウナによるととのい体験とまるで森林浴をしているかのような大自然と一体になる体験が混然一体となって自分の身体を駆け抜けていくような圧倒的なととのい体験を感じられるだろう。
施設としての安心感や安定感もありながら、手に触れられる位置で大自然の中に放り込まれたような錯覚を覚えるレベルで自然を感じることができる。
この点もまた、唯一無二といえるだろう。
女湯
サウナ
清潔感に溢れた真っ白な空間で、こちらは女性向けということもあり、完全に映えるサウナである。だがそこはもちろん、映える“だけ”のサウナではない。
こちらもロウリュについては一工夫あり、キューゲルというアロマ水を凍らせたキューブによるロウリュが可能。キューゲルのみであれば非常にゆっくりと氷が解けながら蒸気に変わっていくので、時間をかけて非常にゆったりと柔らかな蒸気が降り注ぐことになり、ロウリュの熱が苦手な方でも楽しめるようになっている。
ただ、さすがにらかんの湯に訪れるようなサウナーは男女問わずそれなりの経験を積んだ人も多いからか、物足りない人向けに通常のセルフロウリュ用の桶も設置された。
セルフロウリュを行う場合は、キューゲルを置いた後にその周囲にかけるように行うと、勢いよくキューゲルが溶けることで熱と共に一気にアロマの香りが広がる仕組みとなっている。
男性用の非常に暗いサウナとの対比が面白く、こちらは完全に光のサウナといったデザインで質感もとても面白く、完全に異質な二種類のサウナを一つの施設で味わえるのはとても貴重だろう。
水風呂
男湯よりもコンパクトな分、動線は更に優れており、本当にサウナの目の前に設置されている。
水風呂の水質については前述のとおりなので割愛するが、こちらもとても心地良い水風呂体験ができる。
外気浴
こちらの浴場は男湯に比べてコンパクトな作りなので、さすがにどこでも寝転がるわけにはいかないが、ととのい椅子以外にベンチスペースのようなところがいくつもあり、特に困ることはない。
外気浴というよりは室内だが、水風呂の目の前にもこれまた完璧な動線でベンチがあり、サウナ→水風呂→休憩まで真っ白な空間のなかで完結することもでき、これはこれで面白い体験ではないだろうか。
また、今は男湯にもあるが当初はスイーツやお茶などがフリーで楽しめる休憩室は女湯にしかなく、これもまた非常に嬉しいスペースとなっている。
男女兼用
薪サウナ(焼失し、再建中)
超巨大な薪サウナ。こちらは、火事により焼失してしまったということで現在は入ることができないが、クラウドファンディングなどにより再建を目指しており、新サウナ完成後に再建を予定しているそうだ。
健在だったころに体験したが、サウナ内で男女が分かれている面白い構造になっており、姿は見えないが話し声などは丸聞こえである。空間としては同じなので、男女両サイドからロウリュをする形になっている。
あまりやりすぎると壁の向こう側から「あつーい!」などの声が聞こえてくるので顔も見えない人同士でも塩梅を探り合いながらセッティングを整えていくことができるのが奇妙な体験でなかなか楽しい。
ちなみにストーブとの間にはかなり距離があるのでロウリュの難易度は高め。特に女性サイドからのロウリュはストーンに水が届かずよく失敗しているのを見かけたほどだ。
他のサウナに比べるとエンタメ要素が強めに感じられて、施設全体のバランスも考慮されているのだろうと想像できる。そもそも室内全体が階段状になっているので室内での温度差もかなり大きい。
サウナストーブ自体があまりにも巨大で空間が男女共有ということもあり更にロウリュの難易度も相まって室内のセッティングはブレやすい。一方で、全体が階段状ということもあり、座るスペース自体は広々としているわけでもないので落ち着いたサウナ体験というよりも、斬新な面白サウナ体験ができる点がメリットだろう。
総評
サウナシュラン殿堂入りは伊達じゃないといったところか。現状は一種類のサウナしかなくとも、全く色褪せない最高のサウナ体験ができる(正確には女湯にはミストサウナもあるが、こちらはサウナー向けではないため割愛)。
そのうえ、今後更に新サウナが誕生するとあれば、どこまでの高みを目指せば気が済むのか逆に聞いてみたくなるほどである。総合力では余りにも圧倒的すぎるサウナ施設と言えよう。
宿泊施設としてもチームラボとのコラボレーションをしており、宿泊者はチームラボの展示も無料で見られるチケットがついているので、幅広い客層にリーチできる施設となっている。食事も自然の恵みを活かしたものが多く、ボリューム的にも満足できる内容だろう。
一泊旅行で温泉旅館に泊まりたい、というニーズとお洒落で映える施設に行ってみたい、というニーズと最高のサウナ体験をしたい、というニーズを一挙に満たせる夢のような施設だといえよう。
ただし、全国的な人気急上昇もあるのか宿泊価格は常に右肩上がりとなっており、今後も値上がりは避けられないだろう。先日訪れた際には初回宿泊時からは倍程度の価格になっていたので、あまり高級施設にはなって欲しくない気持ちもあり、複雑な心境でもある。
だが、新サウナができた暁にはまた必ず訪れてしまうだろう。そんな恐ろしい魅力の詰まったサウナがらかんの湯である。
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