安藤くんの変化。
…ラーメンがセットだよな。
ああ、あいつと帰るとそうなるよ。
でも最近、安藤の感覚が少し庶民的になってきた感じがする。
最近着替えたらすぐ帰ってるわ。飯誘われない。
マジ?まっすぐ帰る想像つかないわ。
華金に30kmのジョグを終え、家の近くのコンビニでレモン風味の炭酸水と缶ビールを買った。
なるべく炭酸が抜けないように、手元を水平な状態に保ちながら走っていた私の耳に、安藤くんの情報が入ってきた。
知らない人の、知らない友達。
夏の夜との気温差で汗をかいた手元の飲み物の感触を確かめながら、安藤くんに想いを馳せる。
きっと、さっきの2人はバイト仲間なのだろう。
深夜1時過ぎの地元。
駅前にある居酒屋の締め作業後だろうか。
大学生か専門学生。
安藤くんもそのバイト仲間の一員なのだろう。
短めのパーマヘアで小太り。
好きなブランドはTHE NORTH FACE。
着る服は基本黒。
視力がいいけどたまに丸いフレームの伊達眼鏡をかける。
ちょっと声高め。
連れションしがち。
人望の厚さが誇り。
私の頭の中で安藤くんは勝手にそんな仕上がりになった。
つくづく勝手なイメージある。
安藤くんの気持ちはなんだかわかる。
バイト後の疲労感と高揚感が合わさったなんとも言えない気分は、人をご飯に誘いたくなる。
私自身、直帰が苦手なタイプだった。
大学生時代はよく同じ時間に上がるメンバーでラーメンを食べに行った。
誰からともなく誘いあっていた。
仕方なく付き合う人がいなかったであろうという意味では、恵まれていたのかもしれない。
安藤くんの中で、何が変わったのだろうか。
感覚が少し庶民的になってきた感じがするという変化の気づきは、根本の変化ではなく表面的に現れた変化だろう。
安藤くんは何かしらの理由があり、バイト終わりのラーメンを誘う頻度が減ってきている。
モテるために痩せたい。
デート代を捻出するため倹約したい。
バイト後に別の予定があるから早く帰りたい。
翌朝に予定があるから早起きしたい。
行きつけのラーメン屋で少し気まずい思いをしている。
親にどやされた。
今まで惰性でラーメン屋に誘っていたことに気づいた。
漠然とした寂しさを解消できた。
1~2は対外的な理由。
3~4は時間創出的な理由。
5~6は一時的かつ対外的な理由。
7は悟り的な理由。
8はかつての自分と同じ理由。
安藤くん、君はどうだい。
この8つが全て外れていたら、正解を知りたい。
インターネットに接続しなくても、イヤホンを外して道を歩いているだけで情報がたくさん入ってくる。
安藤くんの情報は、インターネットではきっとヒットしない。
Googleの検索窓に 「安藤くん 直帰 なぜ」と入力しても、得たい結果は出ないだろう。
知らない誰か送る知らない生活に思いを巡らせる時間があってもいい。
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