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「坊っちゃん文学賞 よみ芝居2024」を観劇して感激したお話


はじめに

2024年8月3日・4日の二日間、松山市総合福祉センター1階、大会議室にて、
「坊っちゃん文学賞よみ芝居2024」が開催されました。

愛媛県松山市の主催している歴史ある文学賞である「坊っちゃん文学賞」が
第16回からショートショートの募集にリニューアルされたことで、
その受賞作を「よみ芝居」という形で作品の原文を一字一句そのままに舞台化するという試みが毎年行われています。

昨年に引き続き、今年も大賞と佳作を含めた3作品が舞台芸術倶楽部「ごそく楼」の皆様によって舞台化されることとなりました。

その3作品のうちの1作として、拙作「父の化石頭」をよみ芝居化して頂けるということで、この度、会場に伺って観覧して参りました。

最初に8月4日の11時の上演回を観劇(後に感激のあまり千秋楽である15時の回も観劇)したのですが、会場に入った途端に客席が既にほぼ満員状態だったことに感動しました。

この日も朝から日差しが強く、外に一歩出れば全身からどっと汗が噴き出すような猛暑。にもかかわらず、これだけたくさんのお客様が足を運んでくださっているというそれだけで胸が一杯になりました。

お客様の年齢層も実に幅広く、私が今訪れているのは「ことばと文学の街」なのだと改めて実感しました。

開演のブザーが鳴り、会場が暗転すると幕が開きます。
心地よい静寂と期待の満ちる中、舞台の始まりです。

以下で上演された3作品について、個々の俳優さん達の演技や舞台演出について詳しく書きたいのはやまやまなのですが、今回の舞台は録画され、後にYouTubeなどで配信される予定とのことなので、ネタバレ防止のために全体的な感想を述べるに留めることをご了承ください。


第1幕「空色ネイル」

さて、最初に上演された作品は、坊っちゃん文学賞第19回にて佳作を受賞された内池陽奈さんの作品「空色ネイル」でした。

主人公である少女「葵」の心の揺れとまっすぐな友情が空模様を映す不思議なネイルを通して描かれる原作のエッセンスを少しも損なうことなく舞台化されていることにとても驚きました。

舞台を観ているうちに自分自身のかつての高校時代を思い出し、個性の強い教師との遅刻をした時の気まずいやり取りや親しい友との何気ない会話が脳裏をよぎり、くすりとした笑いと切なさが去来します。その不器用であるがゆえに輝かしい青春の日々を俳優の皆さんが実にリアルに演じているために、気がつくと物語の世界にスルリと入り込んでいました。

物語の佳境に舞台ならではの客席を使った斬新な演出が入るのですが、まさに「これぞ青春」と思うのと同時に「頑張れ!」と葵を応援して胸が熱くなります。

「空色ネイル」のタイトルの意味がわかる空模様を表現する照明の演出も見事で、ラストを彩る伴奏も葵と親友のマリに寄り添うように優しく美しく響きました。

劇が終わった後の葵とマリの仲睦まじい退場の仕方も含めて、爽やかな感動が会場全体を包み込んでいました。


第2幕「父の化石頭」

続いて上演されたのは「父の化石頭」でした。
率直に申し上げて、原作を遥かに超えて面白い舞台に仕上がっていました。

「父の化石頭」を舞台化するというお話を頂いた際に私が最初に抱いたのは「制約のある舞台という空間で父親の頭から小人の発掘隊が化石を掘り出すという場面を表現するのは難しそうだなあ」という気持ちと「でも、どのように表現してくださるのだろう?」というウキウキするような期待でした。

映画やアニメなどの映像作品ならば、上記のシーンはVFXやCG技術を使用することでそれなりに見映えのするリアルな表現が可能となるでしょう。

ですから、この「父の化石頭」というお話はどちらかというと映像作品向きなのではないかと私自身が勝手に思い込んでいました。

しかし、実際の舞台を目にした途端、私の浅薄な思い込みは霧消しました。さらに驚くことに、私の期待を遥かに上回る創意と工夫に溢れた素晴らしい舞台となっていて、俳優の皆さんが生き生きと役を演じて客席から大きな笑い声が起きる度に目頭が熱くなりました。

自分の書いた拙いお話をこれほど多くの劇団の皆さんがお客様に届けるべく懸命に稽古に励まれて、その結果として、客席に大きく温かな笑いが起きている。
大袈裟ではなく、私は今、奇跡を目の当たりにしているのだと思い、自分の人生にもこのような素晴らしいことが起きるものなのだなあと感動しきりでした。


第3幕「ドリームダイバー」

最後の上演作品は、坊っちゃん文学賞第17回の大賞受賞作「ドリームダイバー」でした。

私達が心に抱く夢や理想を救い出すために、人が眠っている間に見る夢の海が広がる布団の中へとダイブするドリームダイバー。素人目線で恐縮ですが、このお話を舞台化する上で難しい点は「布団の中にダイブする」というアクションをどう表現するかだと考えていました。

さらに「布団の中に広がる深海」を表現する難しさと、その「夢の海で起きる現象」をどう見せるのか……この困難と思われる課題を「なるほど!」と思う仕掛けによって解決している舞台は必見です。後日に公開される映像にて是非お確かめください。

この公演では原作の静かでいて情熱に満ちた雰囲気をそのまま舞台化することに成功していて、深海をイメージした青い照明の美しさと海の持つ神秘と雄大さを見事に表現している音楽が胸を打ちます。

若手の俳優さん達の気迫のこもった凛とした演技とベテラン俳優さんの落ち着きのある演技のバランスも絶妙で、ドリームダイバーという仕事を通してだけではなく、人生における師弟関係ともいえるカフェのマスター「榊」と主人公「私」の二人のやり取りをいつまでも観ていたいと思う舞台でした。

夢をかなえる辛さや苦しさに胸が締め付けられる一方、たとえ夢など抱かなくても人は毎日を充実感を持って生きていけるという原作者の山猫軒従業員・黒猫さんの慈しみに満ちたエールが物語のラストでズシンと心に響いてきました。


終幕の後で…

全ての上演が終了した後で、劇団の皆さんとお話しする機会を設けて頂きました。

感動と興奮のあまり言葉がうまく出てこず、皆さんの前で「素晴らしかったです」と繰り返すばかりで、どう素晴らしかったのかを具体的に伝えられない自分が情けなく、もどかしく、もっと伝えるべき言葉が他にあったはずではないか……と反省しきりです。

こういうとき、スッと的確な言葉が出てこない「ボキャ貧」な私は、まだまだ様々な言葉や表現を学ぶ必要があると改めて痛感しました。

劇団の皆さんへのご挨拶は色々と失敗してしまったわけですが、
今回、独りで黙々と文章を書いているだけでは決して体験できない、お話を楽しんでくださるお客様の生の反応を目の当たりにできたことはとても貴重な機会となりました。

それと、帰りの飛行機の中でふと思ったのは、
「人の明るい笑い声って、なんて素敵なのだろう」ということです。

もちろん、ごそく楼の皆さんの真摯な想いのこもった舞台公演があって初めてお客様に喜んで頂けたわけですが、その「素敵な笑い」に繋がることに原作者としてほんの一部でも関わることができたことをとても嬉しく光栄に思いました。
そして、私自身、これからも皆様に楽しんで読んで頂けるお話を一つでも多く書いていけたらと密かに決意を新たにした次第です。


届く宛てのない恋文

自分の中にある何かを表現して相手に伝えるということは、届く宛てのないラブレターを書き続けるようなものなのだと常々思っています。

たいていの手紙は相手へと届かず、努力は徒労に終わるわけですが、今回のように奇跡的に誰かの胸に届く一通があったりするのですね。だから、どんなにうまく書けなくとも、相手に十分に伝わらなくとも、私はもがき苦しみつつ「どうか届きますように」と願いを込めて恋文を綴ることをやめられないのかもしれません。

今回頂いた拙作の舞台化という光栄なお話が、演劇と小説でジャンルは違っても、ともに表現することを通して何かを伝えたいと切に願う皆さんの気持ちとシンクロできる機会となったら素敵だなと勝手に夢想しつつ筆を置きたいと思います。

このような貴重な機会をくださった松山市文化・ことば課および舞台芸術倶楽部「ごそく楼」の皆様には心より感謝申し上げます。

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