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「いつか君の名を呼びたかった」

深まりゆく秋の1日、長い夜の半ばでそんなことを思う。

閉ざした心には陰すらなく、ただただ深い闇のみが広がっていたことに一分の隙間をこじ開けやっと気がついた。そんな今の心模様を例えるならば、朝陽がのぼり始める少し前といったところか。


名前と云うのは不思議なもので、唯一無二のものではなくとも『その人』を認識できる、同時に『私』を認識してもらえる境界線だ。もし私が君の前で君の名を呼べば、私は君を認識していると云うことになるし、それと同時に君は私を認識するのだ。


私は君の名を呼ばなかった。君は私の名を呼んだのに。何故だろう。心が君を認識できていなかったからなのかもしれないな。でも確かに、いつか君の名を呼びたいと思っていたんだ。


夜は、私が君の名を呼ぶ前に半ばすら過ぎいよいよ明けようとしている。白み始めた私の心に映るのは、通り過ぎる風に流されていく落ち葉のような私の残像と、何となくただそこにあるような気がするだけの闇の残骸だ。


残された宝物を拾い集めて、箱にしまおう。そうして鍵をかけ、その箱に名前をつけよう。

箱の名前には、二度と呼ぶことのない君の名を。


※フィクション


きょうの曲⑤

・記憶の破片 feat.原田郁子/NONA REEVES

原田郁子さんの声や詩はどうしてこんなに温かいんだろう。一言で表すなら『愛』と呼んでも過言ではないのでは。

緩やかに流れる時の中で、沢山の思い出を重ねて。散りばめて。遠くにいる君を想う。



箱を開けて空に破片をばら撒く、そんないつかまで。

おやすみなさい


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