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ヤマサ醤油 コロナワクチンで大貢献‼

(1) はじめに

私がまだ大学院を修了し、製薬会社の研究所に入りたての頃でした。

医薬品開発へ意欲満々で、どのような研究テーマに取り組むことになるのか胸をワクワクさせていました。

先ず与えられた最初の開発候補化合物はヤマサ醤油からの物質でした。

その頃分子生物学が盛んになり始め、医薬品開発の世界でも核酸の誘導体などに関心が広がって来ていました。

与えられた研究テーマについて文献検索、周辺情報の収集を行い、色んな角度から医薬品開発が出来ないか検討したのですが、どうにもこれはという決め手になる発想が浮かんで来ませんでした。

自分の能力不足のためと自らを叱りつけながら、やむを得ず上司に相談し、開発を断念することにしました。

その後、入社2年目の私に抗酸化化合物の開発をまかせるということで、プロジェクトリーダーにさせられ、「思わず私でいいんですか」と言ってしまいました。

でも、縁とは不思議なものでこの化合物との出逢いが私のその後の人生を決定づけてしまったのです。

たった一人で始めた研究でしたが、この化合物には免疫機能に影響を与える作用があるのではないかという「ひらめき」が頭を駆け巡りました。

勿論、それなりの裏付けはありました。

アルコールを飲ませるなどストレスをかけた動物では副腎皮質からステロイドが分泌され、免疫組織である胸腺が萎縮することが推定されます。

事実アルコールを飲ませたラットでは胸腺が見事に委縮して小さくなっていましたが、この化合物を投与すると、この胸腺の萎縮が防止され、正常に近い状態に保たれていたのです。

研究を開始した時は分子生物学的な手法も取り入れながらスタートし、この化合物が免疫機能に作用する可能性を示唆するデータを得ました。

その後は生化学的アプローチでは無理なので、免疫学的な手法を用いて研究開発に取り組むことにしました。

分厚い免疫学の本のうちこれはと思われる3冊を選択し、それぞれ2回ずつしっかり勉強しました。

そこからこの化合物の免疫機能への薬理作用を検討開始 ❗

先ず、ラット、マウスを用い抗体産生増強作用があることを確認しました。

さらに自己免疫疾患であるSLE (全身性紅斑性狼瘡) に酷似した自己免疫性病態を呈するモデルマウス (NZB/NZW F1マウス) を用い、この化合物の薬理作用を検討しました。

このマウスでは自己抗体産生後、腎糸球体基底膜に沈着した免疫複合体が自分の白血球の攻撃を受けることにより基底膜が破壊され、大量の蛋白尿の排出がもたらされ、早期に死に至る経過をたどります。

驚くべきことに、この化合物はこのマウスで、尿蛋白の排出を顕著に抑制し、生存期間を画期的に延長したのです。

この試験結果が出た時、私はじめ研究に携わったメンバーは本当に驚嘆し、何としても医薬品として世に送り出そうと決意を固めました。

抗DNA抗体など自己抗体も抑制したことから、この化合物が自己免疫現象を呈する本マウスで免疫異常を是正して腎機能障害を抑制し、生存期間を延長する効果があることが判明しました。

SLEは今では治療法も進歩して来ていますが、その当時は不治の病とされ、歌手の岸洋子さんもこの病気で命を失っています。

さらに他の様々な実験系での検討を重ね、この化合物に自己免疫異常を是正する効果があることを確認したため、自己免疫病での臨床試験を行うことにいたしました。

本来はSLEでチャレンジすべきだったのですが、超難病だったため、同様にリウマチ因子などの自己抗体が産生される多くの患者さんがいる関節リウマチを対象疾患に選択し臨床試験を実施しました。

臨床試験に成功し、国産初の抗リウマチ薬として発売することになりました。

ラッキーな面も多々ありましたが、研究を始めた時は一人で黙々と実験を重ね、データに一喜一憂しながら、早朝から夜遅くまで研究漬けの日々を過ごしました。

「ひらめき」と一つずつ前に進めて新たな知見を積み上げていく努力こそ成功の秘訣と考えています。

研究生活最初に出会ったヤマサ醤油からの化合物は開発断念になりましたが、ヤマサ醤油について最近嬉しいニュースを目にしましたので、以下述べていきたいと思います。

それはヤマサ醤油がこれまで海外に輸出していた物質がファイザー社やモデルナ社の新型コロナワクチンで使われるmRNAに欠かせないものであるとの情報です。

(2) ヤマサ醤油 醤油つくりから医薬品開発へ ❗❗

以下は読売新聞2021年10/13 (水) 配信記事から抜粋いたしました。

醤油づくり400年の歴史を持つヤマサ醤油、うまみ成分を作る研究を発展させ、1970年代に医薬品分野に参入しました。

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これは私が製薬会社の研究所で入社後最初に取り組んだ研究テーマのヤマサの物質の時期と重なり、感慨深いものがあります。

そしてヤマサが1980年代から海外に輸出してきたシュードウリジンが今話題を集めているナウイ物質なんです。

このシュードウリジンこそコロナ禍で世界中が苦悩する中、救世主として登場した新型コロナワクチンのスピード開発につながるKeyとなった物質です。

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ハンガリー出身の研究者「カタリン・カリコ博士」らは、mRNAそのものを体内に入れると免疫反応にともなう炎症反応が強く起こり過ぎてワクチンへの活用が難しかったのですが、mRNAを構成するウリジンをシュードウリジンに置き換えると免疫反応が弱くなり、体内にとどまりやすくなることを発見し、コロナワクチン作製に向け大きく前進しました。

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この発見に基づきファイザー社やモデルナ社の新型コロナワクチン製造が可能となりましたが、ワクチンとして使用されるmRNAに欠かせない「シュードウリジン」を原料として供給しているのがヤマサ醤油です。

(3) カタリン・カリコさんと山中伸弥さんの接点は iPS細胞

次いで、NHKのクローズアップ現代でのカタリン・カリコさんとiPS細胞作製でノーベル賞受賞者山中伸弥さんの対談内容を紹介します。

この画期的な新型コロナワクチンの開発の最大の功労者の「カタリン・カリコ」さんとiPS細胞の作製でノーベル賞を受賞した山中伸弥さんとの対談では本当にレベルの高い世界を驚かせた「常識にとらわれない発想」がカリコさんの故郷ハンガリーと山中さんのいる大阪を結んで語り合われました。

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新型コロナワクチンの接種が日本でも医療従事者、高齢者を皮切りに若者に至るまで順調に進んできていますが、新規感染者数、重症者数、死亡者数の減少に大きく寄与していることは昨今のコロナ感染状況を見ても明らかです。

カリコさんが開発の立役者となった今回のコロナワクチンの凄さは何と言っても90%以上という高い有効性です。

カリコさんはウイルス全体の中から、表面にある突起の情報だけを取り出して、人工的な遺伝物質mRNAを作製しました。

それを特殊な脂の膜で包んだものがmRNAワクチンです。

ワクチンを接種すると体内で細胞に取り込まれ、mRNAの情報が読み込まれウイルスの表面にあったものと同じ突起だけが作られます。

この突起を血液中の免疫細胞が異物と認識し、次々と抗体を作り出します。

そして、ウイルスが体内に入って来た時に抗体がウイルスの突起に取りつき感染を防いでくれるのです。

さらにワクチンは強い免疫機能を持つキラーT細胞も活性化し、ウイルスが感染したとしても、細胞ごと破壊し、ウイルスの増殖を阻止します。

カリコさんはワクチンを接種した時意外なところにも抗体が出来ることを見出しました。

それは唾液で、唾液にも抗体が出来るため、ワクチンを接種した人達がウイルスを広めることはないし、自分も感染から守られると述べています。

ワクチン効果の持続期間は最低6ヵ月は大丈夫なことは確認していて、米国のFDAなどの情報では接種後8ヵ月くらいを効果持続期間と考えていて、第3回目接種はそのタイミングで考えています。

変異ウイルス出現でワクチンが無効化した場合でも、新たな変異ウイルスに対するワクチンは 4~6週間で作ることが出来るようです。

世界を驚かせる発見をしたカリコさんと山中さんが共鳴したのは「常識にとらわれない研究姿勢」についてでした。

山中さんも動物では不可能とされていた万能細胞「iPS細胞」の作製に成功し今ではパーキンソン病などの難病の治療の可能性を開きました。

iPS細胞の作製には幾多の困難があったと思いますが、常識にあえて挑戦した強い意思を感じます。

カリコさんもmRNAワクチンは実用化は困難というのが常識で、カリコさんも多くの壁に直面しました。

人工的に作ったmRNAを細胞に加えると炎症反応が起き、細胞そのものが死んでしまうことがあったのです。

カリコさんはそれでも実験を繰り返し、mRNAの一部を別の物質に置き換えると炎症反応が抑えられることを発見し、これまでの常識に打ち勝つことが出来ました。

DNA研究が主流の中でRNA研究は日陰に隠れる研究で、研究費確保も含め相当困難な状況が続いていたのですが、あることをきっかけにカリコさんの研究が日の目を見ることになりました。

山中さんのiPS細胞に世界の研究者の目が注がれる中で、米国の研究グループがカリコさんのmRNAの技術を使うとiPS細胞を効率的に作れることを突き止めたことで、カリコさんの研究が一躍脚光を浴びることになりました。

山中さんとカリコさんの接点はiPS細胞にあったんですね。

常識を乗り超える発想と何度もチャレンジを繰り返す不屈の精神こそ2人を成功に導いた要諦ではないでしょうか。




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