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黄金の定食

『黄金の定食』という番組をご存知だろうか?

今年の1月から日曜深夜1時35分からテレビ東京で放送しているグルメバラエティ番組である。

出演者はシソンヌの長谷川さんと、なにわ男子の大橋くん、そして企画は佐久間宣行さん。

内容はとてもシンプルで町の定食屋を巡り、メニューの中から自分の食べたい定食と小鉢を一つ選んで食べる。
以上だ。

シンプルだが面白い。

まずは“メニュー・・・で悩む”
写真などはなく、メニューの文字だけで定食を選ぶ。

自分だったらコレにするかなぁ、、
出演者のお二人もテレビテレビした話し方でもないため、あたかも自分もその空間にいるように錯覚させられる。

続いて、番組スタッフが1週間通い詰めた末に、ぜひ食べてもらいたい品を紹介する“オススメ・・・で悩む”

映像の尺も絶妙で、あと盛り付けだけ。というところで映像が止まる。

先ほどまでコレしかない!と思っていた考えがグラっと揺らぐ。

そして、長年お店に通っている常連さんがよく食べている品、もう通えないとなったら時に頼む品を紹介する“常連・・・で悩む”

やはり、常連さんというだけある。
文字面のインパクトだけで選んでいた自分が恥ずかしい。
そこ行くかーという自分の思考では辿り着かないような定食、小鉢を紹介してくれる。

自分の最初の選択がガタガタっと崩れ始めた。

結局、出演者のお二人と同じく、最初とは全く異なる定食と小鉢を心の中で選んでいた。

また、注目してほしいのが、大橋くんのご飯の食べっぷりだ。
漫画に出てくるようなご飯の食べ方をする。
全国のお母さんが子供たちに求めているのはこんな食べ方なんじゃないか?

帰省するたびに、そんなに食べられるはずがないのに炊飯器パンパンにお米を炊いてくれた母親の気持ちが理解できた。

すごい番組だ。30分弱でこんなにも心が揺さぶられるなんて、、

自分も町の定食屋に行きたくなった。

休日、近くの定食屋へ。

着いたのは13時30分前だった。
中を覗いてみると、少々薄暗い。
自動ドアのボタンを押しても、開く様子はなかった。

営業時間はスマホの画面上では、14時までとなっている。
しかし、蔓延防止のために、営業時間が短くなっているお店も少なくない。

もう少し早く起きればよかった。。

家路に着こうとしたところ、店の中に影が見えた。
中を再度覗いてみると、おばさんがテレビを見ていた。
まだ営業しているのか?

自動ドアは変わらず作動していなかったが、
おばさんがボタン部分を取っ手にして、横開きにドアを開けてくれた。

「まだやっていますか?」
「はい??」

「んんっ、まだやっていますか?」
「ああ、やっていますよ。」

おばさんは快く迎え入れてくれた。

時間も時間なので、番組のように熟考することなく、700円のしらす丼定食と300円でつけられる、お刺身を選択した。

店内を眺めると、棚には、常連さんらしき名前が入った札がかかっている一升瓶がズラーッと並んでいた。
昼は定食屋で、夜は居酒屋といった感じか。

食品営業許可証の年号を見ても、かなり老舗の定食屋であることが窺える。

注文を待っている間にも、人が入ってきて
「これ、〇〇さんに渡しておいて」
と大きな大根を残していった。

このお店は周りの住民が集まるの憩いの場なのであろう。

しばらくして、しらす丼定食がやってきた。
700円とは思えない量であった。
しらす丼に味噌汁、小鉢が二つと漬物。
おまけにバナナまでくれた。

配膳がされるや否や
「いただきます!」
「はいよー」

きっとお刺身はすぐくるであろう。
しらす丼定食を食べ進めた。

・・・10分ほど経ったが、お刺身定食は来ない。
お刺身のためにご飯を残しているのに、、

食べるペースをかなり落としてから、5分が経った。
「すみません!!」
「・・・・」

そうだった、聞こえていないかもしれない
「すみません!」
厨房に近づきながら言った。
「・・・・」

「すみません。」
「はい?」
厨房にほぼ入りかけたところでやっと気づいてくれた。

「お刺身ってまだでしょうか?」
「あぁーちょっと待ってね。」

すぐにお刺身は運ばれてきた。
こちらも定食同様、いい意味で値段に見合わぬボリュームであった。

かなり残していた白米も、お刺身と一緒にお腹の中へ消えた。
「ごちそうさまでした!」
「はいよー」

席を立ったところで、違和感に気づいた。
おばさんは厨房にいたのに「ごちそうさま」にはすぐに反応していた。

このおばさんはこれまで何回の「いただきます」と「ごちそうさま」を聞いてきたのだろうか。

何度も聞いているこれらの言葉に対しては、耳が鋭敏になっているかもしれない。

黄金の定食、それは今、己が一番食べたいものを間違いなく選び、そして出会えた定食のこと。

定食との出会いは一期一会。
いろんな定食屋を巡ってみよう。

なかじま

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