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夏のような

今回の部員日記は、経済学部三年の中牟田篤が担当します。


「一目惚れって言葉、嫌いなんだよね」




切り抜きチャンネルや左から右に流れるだけのランキング動画が隆盛を極めるご時世が示すように、このごろ長いストーリーを掻い摘んで広く浅く楽しむ風潮が、熱を帯びているような気がします。

これが忙しい現代人のニーズを反映しているのか、効率よく再生数を稼ごうとする配信者の陰謀なのか、深くは知りません。しかし、どうにも表面的にあれこれ物事を楽しむ様子が、熱しにくくて冷めにくい僕の肌に合わないような思いをしていました。


大谷翔平のホームラン集よりも、ゲッツー崩れの1点を守り抜く投手戦こそが野球の醍醐味ではないか。

流行りの曲のサビのメドレーを聴くよりも、好きなバンドの曲を丸々1曲聴く方が音楽を楽しめるのではないか。

薄っぺらく楽しんでは忘れるを繰り返したところで、物事の本当の良さなど分かるはずがないのではないか。


冒頭の一目惚れなんて、もってのほかと考えるタイプでした。人を見かけで判断するなとあれだけ教育する割に、一目惚れって言葉は良いように扱われてる世の中おかしいだろ、そう思っていましたし、よく引き合いに出していた記憶があります。要約系のものとはまた違いますが、表面的に誰かを好きになる姿勢が、気に入らなかったのです。

早い話、僕は逆張りオタクでした。いや今もだろ!と僕の周りの人は思っていることでしょうが、少し前と比べると大分マシになったと解釈していただけると助かります。以前はもう少し尖っていたはずです。


何がきっかけで性格が少し丸くなったのか、正確な因果関係は判りかねます。単なる加齢によるものかもしれませんし、特定の人との関わりを通じてかもしれません。しかし高校生までの僕と比較して、大学生の僕にとって明確に新たに好きになったものがありました。海外サッカー観戦、特にレアルマドリード(以下、マドリー)というチームの応援です。

何が印象的なことかといいますと、このマドリーというチームが、いわゆるプロ野球における巨人のような立ち位置にいることです。王道を好きになる、という経験は僕の人生を振り返ってみると珍しいことだったのです。

ちなみに贔屓にし始めた理由としては、仲の良い友達が別チームを応援していたから、ということもありますが、愛する中日ドラゴンズが弱すぎるため心のバランスを取ろうとした、ということもありました。頑張るんじゃぞ、ドラゴンズ。

さてこのマドリーというチームの特徴は、個人の力でなんやかんや勝つこと、です。戦術全盛の現代サッカーに意趣返しをするように、できるだけ個人の力が十全に発揮されるように戦い、綱渡りの戦いを繰り広げつつも、個人のタレントで帳尻を合わせようとします。そのせいで格下相手に取りこぼすこともままありますが、本番に強いマドリーの選手達は大舞台で無類の強さを発揮するのです。

最後のホイッスルが鳴るまでヒロイックに戦う彼らの姿勢は、言語の壁を飛び越えて世界中の人の心を掴みます。そしていつの間にか、斜に構えがちな僕の性根を正してくれたのかもしれません。


思えば、今まで僕は何を好きになるにしても、理屈を必要にしていたように感じます。好きなもののどこがどのように好きなのか、説明できないといけないように思い込んでいたのです。それは、重箱の隅をつつくような、出題されるはずのないテスト問題を対策するような気分だったのでしょうか。気にかけるに値しないことに拘泥していたのです。好きな理由は、好きだから、で構わないのですし、そもそも誰も訊いてきやしないのです。


ただ僕の中の性格の角が取れるのは、反駁するエネルギーが失われていくようで寂しさを感じてもいました。世の中に迎合していって埋没してしまうのではないかという感覚。それは「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」という言葉の含みに近いでしょうか。かつて薄っぺらいと思っていた、世の中の典型的な人になってしまわないか、本質的な良さを楽しめない人間になってしまわないか、と。



これに対する回答のカギも、またマドリーに眠っていたかもしれません。マドリーのレジェンドであり、前監督、ジヌディーヌ・ジダンはいつの日かこのような言葉を残しています。


いつか皆さんもジダンを忘れる日が来るでしょう。
その時こそ、また素晴らしいサッカーの歴史が始まる時だと思います。




なるほど、薄っぺらい、という言葉には語弊があったのかもしれません。
正確には、僕よりも世の中の方が懐が広くて、僕よりもアツい、らしい。



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https://www.dazn.com/ja-JP/news/other/%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%82%B8%E3%83%80%E3%83%B3%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E3%81%AE%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%8A%E3%83%80%E6%88%A6%E5%89%8D%E6%97%A5%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88/lhx86cri8ztb12t4qnb654yg1

長い文章になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。