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【辞めたくなった回数は100回以上】元お笑い芸人の映画監督が語るエンターテイメントの苦悩と光

映画監督8年目の深山将也(みやままさや)さんにインタビューした内容を記事にしました。

深山監督の代表作は「ぞくり。」シリーズ。

販売元:有限会社十影堂エンターテイメント

映画好きな人が映画監督になるにはどのような苦悩があるのか体験談を語っていただきました。

また映画監督を目指す人々に、深山監督から鋭いアドバイスもいただきました。

「映画監督になる前は芸人でした」

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エンターテインメントの世界の入り口は芸人だったという深山監督
芸人から映画監督に転身するまでの道筋とは

中村さいり(インタビュアー):本日はよろしくお願いします。

深山監督:どうも。よろしくお願いします。緊張しますね(笑)

中村さいり:まずは深山監督の代表作「ぞくり。」についてお聞かせください。

深山監督:知り合いの制作会社に頼まれて監督した、全部で10本以上ある作品です。コロナ前まで3年間くらいやらせてもらってましたね。B級ホラーなんですけど、自主制作とかよりも人目に触れてる代表的な作品だと思います。

中村さいり:なるほど・・・。映画監督のお仕事はおいくつの時からやられているんですか?

深山監督:24歳からやってます。もう8年目になりますね。

中村さいり:24歳からなんですね。映画監督になるまではどのような道筋だったんですか?

深山監督:実は、映画監督を目指すまでの2年間、お笑い芸人をしてたんですよ(笑)よしもとの養成所に1年通って卒業後は幼馴染とコンビを組んで芸人をしていました。

中村さいり:ええ、そうだったんですね!まさかの経歴ですね。ちなみに個人的に気になるのですが、コンビ名はなんでしたか?

深山監督:これは黒歴史なんで恥ずかしいんですけど。ふたりとも野球をやっててそのポジションが一塁と二塁だったので「イチニルイ」って名前でやってました。

中村さいり:いい名前ですね!芸人さんからなぜ映画監督を目指そうと思ったんですか?

深山監督:芸人はなかなかうまく行かなくってお笑いどうしようかなって思ってた頃に、たまたま楽屋に新喜劇の脚本が置いてあって。暇な時に何気なく手に取ったんですよね。読んでみたら脚本って、実際のステージが成立する前に完成形を頭の中に書いたものだって分かったんです。それってすごいことだなって思って、自分も脚本が書きたくなりました。

中村さいり:何気ないきっかけだったんですね。

深山監督:はい。もともと映画がすごい好きだったので、映画の専門学校探して入学しました。最初は脚本がやりたかったんですけど、授業で習う中でディレクションがしたくなって、監督志望に転身しました。

専門学校で痛感した映画を作ることの難しさ

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専門学校に行けば映画監督になれる訳ではない
専門学校卒業後は苦悩の日々を過ごしていた深山監督

中村さいり:映画の専門学校はどうでしたか。

深山監督:専門学校って、初歩の初歩しか教えてくれないんですよ。専門学校行ったら映画監督になれるって思ったら大間違いです!

深山監督:松竹映画の現場にインターンに行ったりもしたんですけど、下積みで助監督を10〜15年位やるんです。その後に監督としてデビューできるっていう流れなんですけど、俺には助監督がほぼ雑用みたいな仕事に見えちゃって。勉強にはなるかもしれないけど、これじゃ監督力磨ける気がしないなって思ったんですよ。自分的には小さくても監督ってことにこだわってやっていこうって思って、卒業後はフリーで活動しました。

深山監督:でもどうやって映画を作ったら良いかがマジで分からなくて、卒業してすぐは映画も見たくないような精神状態でしたね。

中村さいり:相当追い詰められてたんですね。

深山監督:大好きな映画も怖くて見れない状況で、卒業してからは仕事なんて全然無いから、知り合いのバンドのミュージックビデオをタダで作らせてもらったりしてました。でもその高校生の女の子のバンドが大会で結構いいとこまで行って、動画がYouTubeで3万回再生されて。そこからミュージックビデオを撮ってくれって仕事も来るようになりました。

映画監督を続けられる理由は「気付き」があったから

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突然の「気付き」で映画監督への道筋が花開いた深山監督は、フリーの映画監督に

中村さいり:そんな中、8年以上映画監督を続けられてるわけってなんですか?

深山監督:卒業して1年半位経った頃にミュージックビデオ撮っていて、初めていい画が撮れたんですよね。2、3秒位の自信を持って納得できるワンカットがたまたま撮れた瞬間があって、それで大切なものに気づけましたね。

中村さいり:初めていい画が撮れたのはどんなシーンだったんですか?

深山監督:なんてことないシーンなんですよ。立ち上がる動きを撮ったんですけど、座ってた女の子が立ち上がるぞっていうニュアンスを表現できたんですよね。見る人に対する思いやりを見せられたシーンだと思ってます。

深山監督:ただ映像を撮るだけじゃなくって、状況が伝わるような。例えば告白のシーンなら緊張感まで伝わるような撮り方、そんな感覚が初めてあったんですよね。そこから映画を見ると作ってる人の優しさとかメッセージが感じれるようになって、なんてことないシーンから作り手の意図を感じるようになりました。やっぱり映画が撮りたいと強く思ったんですよね。

深山監督:2年間の専門学校じゃ教えてもらえなかったことですね。今は映画を撮ってて、納得できる良いシーンがすごく増えてきました。

中村さいり:なるほど、そんな気付きがあったんですね。どうして深山監督は気付きがあったんだと思いますか?

深山監督:なんで気付けたんだろう。たまたまだったんですよね。面白い映画を何回も見てたし、いいものに触れていたのに分からないまま生きていましたね。例えば、高級料理は食べれるけど作れないですよね。でも修行してたくさん教えてもらって何回も作ったら、美味しい理由に気付けるし、作れるようになるかもしれない。料理も映画も作り続けるしか無いんです。

中村さいり:良い例えですね、すごい納得しました。では映画監督8年目の今の仕事内容を教えて下さい。

深山監督:今はインディーズバンドのミュージックビデオの撮影をやったりしてます。これは知り合いのバンドから相談が来ることがほとんどなんですけど、面白いバンドがいたらTwitterでフォローしてみたり、いいねしたりして仕事集めてますね。あとはレコーディングスタジオにフライヤーを置かせてもらったりしてます。あとは制作会社から頼まれて映画とったり、自主制作映画ですね。

中村さいり:なるほど。そういった映画監督のお仕事ってどうやって収入になるんですか?

深山監督:インディーズのMV撮影は1本10万とか20万です。完成まで急げば1ヶ月くらいでできるんで主な収入になりますね。自主制作映画はお金にならないです。俺のときはたまたま出てくれた海外の女の子が有名なゲームのモーションキャプチャーのモデルで。SNSのフォロワーも10万人くらいいたので、ブルーレイ化した映画がそこそこ売れて奇跡的にお金になりましたけど。これは珍しいケースですね。

映画監督は稼げない仕事だが、撮るなら良いものを追求してほしい

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映画業界8年目でも映画監督で生計を立てることは難しい
ただ、映画を撮る機会があるなら機材にこだわって良い作品にしてほしいと深山監督は話す

中村さいり:ちょっと失礼かもしれないんですが・・・気になってしまって。映画監督としての年収はおいくらなんですか。

深山監督:1年目はゼロで、2年目は2桁でしたね。3年目はやっと3桁いったかなってくらいで、4年目で200万ですね。5、6年目で300万、7年目はコロナの影響で初めて下がりました。今年はまだどうなるかわかんないですね。大卒初任給の平均くらいしか無いんじゃないかな。映画監督は稼げないですよ。専門の同期も140人いたけど、100人は卒業後映画業界に進まなかったですからね。今監督やってるのって俺入れて2、3人くらいだと思います。

中村さいり:かなり厳しい世界ですね。でも映画業界って未知の世界で憧れです。これから映画を撮り始める人もいると思うので、映画撮影に必要な機材に関してお伺いします。まずはなにが必要ですか?

深山監督:マストはカメラですけど、今ってiPhone1台で映画撮りましたっていうのもありますからね。映画って、その人が映画ですって言ったら映画なんで。そういうのは編集技術さえあればできますけど、本質が分かってなかったら無理ですよね。

深山監督:今っていいカメラが安い値段で手に入るので、もし今自主制作映画撮り始めようって思ってる人がいて、撮れる環境があるなら、ぜひいいカメラ・いい音が撮れる機材でやったほうが良いですね。

中村さいり:そうですよね、せっかく撮るならかっこよく撮りたいです。カメラ以外にはなにを用意する必要がありますか?また大体の予算を教えて下さい。

深山監督:俺は初めてのカメラは10万くらいのでPCは15万くらい、三脚はまあ使えるかなってレベルで10万、録音機材で5万。手ブレを抑えるジンバルで15万くらいですね。ざっとこのくらいは用意しないと「お、いいね」っていう画は撮れないですね。

中村さいり:高い・・・。結構初期費用が必要なんですね。自主制作映画の予算はどのくらいなんですか?

深山監督:自主制作の予算はピンきりですね。ほんとに1円もお金かけない人も居るし、300万くらいかける人もいますね。俺が前に作ったのは10〜20万くらいかな。その時は出演料はお互いの勉強のためにってことで0円で、美術、小道具、ロケ地、機材を借りるのにお金かけましたね。

中村さいり:では、自主制作映画を撮る際の問題点はなんですか?

深山監督:低予算で映画を作るってなるとメジャーな曲は使えないから、フリーの曲とかフリーのサウンドエフェクトっていう効果音を使うんです。でもネットに転がってるフリーのサウンドエフェクトは使えないようなのばっかりで。

深山監督:この数年で質がだいぶ良くなってきましたけど、探すのはやっぱ大変ですね。今は知り合いでサウンドエフェクトを作ってくれる人がいます。技術を持った仲間がいるっていうのは大切ですね。そういう人がいなかった頃はかなり苦労しました。

映画監督を辞めたくなったことは100回以上

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ほとんどの時間は映画監督を辞めたいと考えているが、映画を見ると創作欲求に突き動かされる

中村さいり:苦労して映画を作り続けている深山監督ですが、辞めたくなったことってありますか?

深山監督:めちゃある!100回はある!辞めたいと思ってるときのほうが多いよ。「誰々が結婚しました」「マイホーム建てました」って聞いたら辞めたくなるね(笑)みんな順調な人生歩んでるんだなあって。夜寝る前に必ず1本映画見るんですが、24時間の中でその時だけは映画良いなって思うんですよね。でもそれ以外はずっと辞めたい。

中村さいり:いつも辞めたいんですね(笑)直近で辞めたくなったエピソードはありますか?

深山監督:撮影してると一般の人に煙たがられちゃって。警察呼ばれたりします。それが結構キツイですね。いい映画作りたいだけなのに嫌われなきゃいけないのかって思います。

深山監督:あとちょっと違いますけど、コンビニの駐車場に車停めて中で休んでたら、お母さんが、ママチャリの後ろに子どもを乗せたまま買い物に行っちゃって。そしたら、子どもが乗ってる自転車が風で倒れちゃって、頭をぶつけちゃってたんですよ。それを見て「大丈夫か!」って心配する前に、「まずこの位置からこんな角度で撮って、頭をぶつける瞬間に切り替えしたらいい画になるな」って考えたんです。人としてひどいなって思います。

中村さいり:それは、ちょっとひどいですね(笑)では最後にお伺いします。映画監督になるのに必要なことはなんですか?

深山監督:覚悟は一番大切ですね。続ける覚悟だけじゃなくて辞める覚悟も必要です。続けてる人って意外と苦じゃないんですよ。やりたくてやってるから。辞めるのは本当に覚悟がいりますよね。

深山監督:俺は10年間は絶対続けようって思って映画監督を始めました。今8年目になっても10年目までやれるような確証なんてないけど、今はいい映画見てると居ても立ってもいられなくなるんですよ。どんな映画が良いかな、こんな映画はどうかなって毎日考えるんです。それが絶えず考えられるうちは大丈夫だと思ってます。

中村さいり:映画撮りたくて居ても立ってもいられないってすごい感覚だなあ。10年続けるって相当な覚悟ですね。

深山監督:続ける覚悟がないなら作り手に向いてないんだと思いますね。自分がやりたくてやってるうちは頑張って欲しいです。

深山監督:あとは、やりたいことじゃなくても練習ができる機会とかステップアップになることはやったほうが良いってことですね。俺も代表作はホラー映画なんですが、ホラーなんて好きじゃないんです。でも、演出の練習をさせてもらえたり、脚本を書いたり、演技指導ができたり、収入以外の得るものが大きい仕事なんですよね。自分がやりたいことを上手になるための仕事は、好きじゃなくてもしたほうが良いなって思います。

中村さいり:リアルな内情をたくさん知れて勉強になりました。誰もが憧れる映画監督は、強い覚悟が必要なお仕事だということが改めて分かりました。本日はたくさんのお話を聞かせていただき本当にありがとうございました。

深山監督:いろいろ話しましたけどまあ、映画好きな人で監督になりたいけどどう思いますかって聞かれたら、辞めたほうが良いよって言いますね(笑)

中村さいり:ありがとうございました。

まとめ

インタビューを通して、映画監督という職業を身近に感じるようになっていった。映画製作を心から楽しんでいなければ苦悩を笑いながら話すことはできないだろう。

話しを聞いていて深山監督の映画に関する情熱と決意をひしひしと感じた。深山監督にしか作れない優しいメッセージに包まれた映画を撮り続けてほしい。

映画監督:深山将也

インタビュアー:中村さいり

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