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零細企業を買ってみての4年間を振り返る

零細企業を買って早いもので4年が経ちました。会社を買ってからというものコロナの流行、30年ぶりの円安、戦争、なかなか厳しい外部環境で散々ですが何とか会社を継続する事が出来てます。
徐々に会社を購入した時の事など記憶が薄れてきているので完全に忘れる前にアウトプットしておこうかなと思ったものの、気分がのらず4か月も放置。
やっと書く気が沸いてきたので小規模M&Aや零細企業経営について思いのままを書き上げたいと思います。
なお既に4年以上の時間が経過し当時の記憶はほぼない為、本内容は完全なるフィクションになりました。
繰り返します。
この話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

中小企業幻想は本当に幻想でした

私が零細企業を買う少し前はドラマで下町ロケットが流行ったりしており、下町の小さい工場が世界でも有数の技術を持っている、そんな企業が日本には溢れており、それが日本を支えているんだ・・・みたいな妄想が流行ってました。
未だに年齢高めの人たちは「日本の技術はせかいいちぃぃー」みたいな感じで信じているんじゃないかな?
私も当時この幻想を盲信し会社を高値で買いましたが1ヵ月ほどで目が覚めました。

そんなもの幻想です。
N=1で恐縮ですが継ぎ手がいない零細会社なんて、ろくな会社ではありません。
会社のシステムは老朽化
顧客離れが起きて年々売上は減少
売上比率が1社に集中しすぎていて下請けのような状態
などなど問題は山積み

よく継ぎ手がおらず廃業する会社の6割は黒字、優良な会社が~
なんて話がされてますが、私が買ったような従業員1名の会社だったら社員と自分の給与目いっぱい抑えれば黒字化できます。
実際私もここ4年間ずっと黒字です。
ボソッ(経営者初年度の私の年収は300万円、従業員の給与も零細企業標準でした)

名著「サラリーマンはXX△▽なさい」に書いてあったようなサラリーマンをしながら週に1回、経営状況を見ながら的確な助言をすれば自走して、安定した収益を上げてくれる。。。なんて都合のいい会社は存在しませんでした。

悪夢の始まり

私が会社を買ったのは事業引継ぎ支援センターからの紹介でした。本当に感謝をしていて現在、零細企業経営者をできているのはこのセンターがあったからに他ありません。
しかし1個だけ文句があります。それは担当者が中小企業幻想信者だった事です。

担当者から紹介された弊社は下記のような謳い文句でした
「社長はインターネット黎明期からネットワークの研究をしているネットワークのスペシャリスト。その技術力を活かしネットワークと電子機器を融合した製品を開発し、小さいけど大企業にも負けない技術を保有、こんな有望な会社なかなか出会えませんよ。」
当時、名著「サラリーマンは300万円でXX△▽なさい」の内容を愚直に信じ、頭お花畑だった私はこの営業トークを鵜吞みにし、前経営者から提示された都合のいい決算数字(この部分は後述参照)だけをみて特に深いデューデリジェンスも指値もせず都内マンションが買えるような価格で会社を買ったのでした。

「あれれ〜?おかしいぞ〜?」

会社を購入して中にはいると聞いていた話や想像と大きく異なってました。
まず業種に関してですが
製造業といっていたものの実際にはほぼ卸売業の業態。
前社長いわく、穴あけ加工やねじの取付など最終組み立てはしているんだから製造業との事です。
私は才能の塊かもしれません、キラリと光る中小・零細企業の製造技術を1日で体得出来てしまいましたから。

他にもインターネット黎明期にインターネット委員会なるものに招集されインターネットの規格制定に携わった事もありネットワークのスペシャリストを自称する前社長。
そんな前社長の技術をしっかり引き継ぐ為、会社購入前にコツコツ勉強しネットワークスペシャリストの資格を取得。

ある時、顧客から製品の状態をSNMPを使って監視したいと問い合わせがありました。
SNMPなんてネットワークの基礎みたいなものだし、定義ファイル探して送れば解決するだろうと、前社長に「顧客からSNMPについて問い合わせがあったのですが定義ファイルは・・・」と聞くと

「何でも顧客に出来るなんてこと言うんじゃねー」と突然怒鳴り、顔を真っ赤にして怒る前社長

え・・・

・・・どうやらSNMPについて知らなかったようです。
その後は仕入先からMIB定義ファイルを入手し顧客へ送付し事なきを得ました。

またある時、顧客から「本製品はTLS 1.0が使われてるけど脆弱性があるからTLS 1.2以上にして」と問い合わせがありました。
この時も「こんな細かい事ばかりいう会社とは取引停止だー」と何故か怒り出す前社長。

え・・・

「おい、やめろ、もうお前の会社じゃないんだぞ」と思いながら前社長をなだめ、TLS1.2にファームウェアを更新する事で解決。

プライドが高くこういった自分の知識が不足して解決できない事象が発生すると逆切れして誤魔化す人となりという事が1ヵ月一緒に働いて分かりました。

自称ネットワークのスペシャリストとは・・・

辞めて欲しいけど契約書の縛りが~

3か月ほどが経過し社内システムや顧客情報の引継ぎもあらかた終わりました。
会社に来ても半日くらい何度も聞いた過去の武勇伝を語り続ける壊れたテープレコーダーのような状態
そして、それに付き合わされる事で社内改革が遅々として進まない日々。

維持費も高いし、そろそろこのテープレコーダー廃品回収に出したいなーと常常考えていたのですが会社購入時の契約に1年間の雇用が契約に含まれており、本人が言い出さないと廃品回収できない状況。
考え無しに契約書を結ぶんじゃなかった、雇用期間は3か月、その後は応相談みたいな契約にしておけば
と後悔の毎日です。

コロナという神風

そんなこんなしているうちにコロナが流行し始めました。
高齢かつタバコ喫煙者の前社長はそれはそれは危機感を覚え、勝手に週1出社のみに業態が変わっておりました。
オーナー兼社長の私に相談無しの越権行為でしたが事情が事情なので仕方なし。

ただそのおかげで午前の武勇伝タイムがなくなり、終日事業の改善にフルコミット出来るようになった事で社内システムの浄化がぐんぐん進みました。
具体的な社内システムの浄化に関してはこちらの記事で紹介しているので良かったら参考下さい。

PC、サーバー、ネットワーク機器に至るまで老朽化した全てのIT機器の更新
これらを購入する為の資金の用意
ERP,CRMの導入
サーバー内のデータ整理、HPの一新
などなど
やらなければいけない事がてんこ盛りで、前社長の事はすっかり忘れ日々の業務にまい進しました。

そんなある日、既存従業員から苦言が
「今日、前社長から電話があって話をしましたが、かなり弱っている感じでしたよ。高齢でほっておくとどんどん弱ってしまうんだから、もっと仕事の相談したりして構ってあげてください。」

え・・・

零細企業M&Aは会社を買っても主導権を握れないどころか、老人介護もセットで付いてくることを知りました。とほほ。

幻想を抱くのをやめましょう

ドラマやマスメディアの影響で零細企業に幻想を抱くのをやめましょう。
IT機器は20年ものだったり、売上の依存度が高くほぼ下請けだったり、ビジネスモデルも時代遅れで右肩下がりだったり。特筆する技術なんてなかったり。
経営の教科書みたら駄目事例として載っていることばっかりだと思う。

でも、買ってしまったら諦めるしかないんで、判子おしたら後戻り出来ないんで、収益企業に磨き上げる事だけを考えていきましょう。さあ、行こう!

零細企業を買った際の反省点

ほぼ愚痴の内容になってしまい、最後くらいは役立つ情報がないとまずいかなーと思うので、もう2度と買う事はないと思いますが万が一零細企業を再購入する際は気を付けたいなと考えている反省点を4つほど紹介します。

その1:決算書は10年分くらいは確認する

私が購入する際は決算書を3年分しか確認しませんでした。しようとしたのですが「忙しいのに10年分も用意できるかー」とキレられ、あまりしつこく依頼して案件が流れたら嫌だと思い、仕方なく3年分のみの確認しかしませんでした。(税理士がファイリングした決算書を渡すだけなんだから別に忙しくても対応できますよね)

しかしこれが落とし穴で、直近3年間は従業員が1名退職し固定費が削減された事でのそこそこ利益が出ており優良企業と勘違いさせられました。
10年間分を見ると売上はずっと横這い、従業員がもう1名いた頃の平均利益は40万円ほど。

相手は腐っても経営者、古だぬきです。
高く売る為に狡い手を使ってくるのでしっかり確認が必要です。

決算書以外にも社内システムの確認、使っているIT機器の年式、顧客(エンドユーザー同じでも部署ごとに商社が違い、見た目上は売上分散ができているように見える事があるのでしっかりエンドユーザーが異なるかも要確認)などなど。
デューデリジェンスしっかりやらないと駄目でした。

その2:事業引継ぎの契約期間はなるべく短く

事業引継ぎ支援センターから「技術を継承するには2~3年は期間が必要ですよ。1年なんて最低期間で全然短い!!」とゴリ押しされ1年、前社長を雇う契約を盛り込みましたが間違いでした。

私が買ったような社員1名の零細企業は3ヵ月で十分、いや3か月でも長いくらいです。
どぶに金を捨てない為にも引継ぎ期間は3か月、その後は都度対応で対応時に1日5,000円みたいな契約にしておきましょう。
会社と既存従業員に思い入れがあって継続していく事を真に望んでいる方ならこの条件でも十分対応してくれると思います。

その3:社内ガバナンスはしっかり守る

当時思う所はありましたが、
「あと1年したら引退だし、嫌な思いせず引退して貰いたい」
などと甘い考えで明らかな越権行為や、社内に盗聴器を仕込むなどの明らかな犯罪行為まで温情で見逃してきました。
思えばそれが相手を増長させ1年間契約期間ギリギリまで社内に居残り続けさせた原因だったと思います。
ビジネスで甘い顔は禁物です。統制すべき所はしっかり統制して犯罪行為もしっかり断罪すべきだったと後悔してます。

その4:そもそも買わない

会社を買ってから4年で売上は2.5倍、利益も10倍以上に伸びました。
でも

  • 扱っている製品の80%は購入後に扱い始めた新製品

  • 顧客の70%は購入後に新規開拓した顧客

  • 売上も50%以上は購入後に立ち上げた新規事業

と正直、ゼロから会社立ち上げた方が安上がりだし上手くいっていたんじゃないかなと思います。

息子、娘からも見放されている、誰も引き継ぎたがらない、引き継ぎ手のいない会社なんてビジネスモデルが古かったり、収益構造に問題があったりと難ありの会社ばかりで、購入後に磨き上げてもそれはダイヤの原石ではなくゾンビの腐った肝です。騙されちゃいけない。

これから会社を買おうとしている人はごめんなさい。
でも振り返るとこんな感想しか思い浮かびません。

最後に

前社長からしたら頭お花畑のカモネギがやってきて、法人相手よりも高く売りつけてゴールデン・パラシュートをゲットし豊かな老後が送れ

こちらも問題だらけでしたが前社長がいなくなった後はゴリゴリ改革してそれなりに利益あげられるようになったのでwin-winだったと思います。

たまに第3者の事業承継の成功事例として弊社がインタビューされることがあるのですが、
・小さいながら大企業にもないキラリと光る技術をもった零細企業の危機
・想いを継いだ第三者承継
・前社長と二人三脚で会社を立て直し
みたいなテーマで既に書く事が決まっており、テーマに添うように回答を誘導される事に最近は嫌気がさしてます。先日インタビューされた帰りにそんなことを考えながら帰っていたらこんな三文小説が頭に浮かびました。

完全フィクションの駄文を読んで頂いてありがとうございます。