短編SF小説「幸福のカタチ」

十作目。名古屋猫町倶楽部課外活動「ライティング倶楽部」で12年1月に書いた短編SF。また愛がテーマw。童貞は愛に拘るものなんでしょうかw。
「あんたにどう見えているかは知らないし」うんぬんは当時オラが思ってたことでもあります。猫町を揺るがし未だ語り継がれる恋愛沙汰「三本の矢事件」のちょうど渦中の時期ですw。
「金八先生」の具体的に誰を指しているのかはご想像におまかせしますw。

−−−−−
幸福のカタチ


「だから、いらないもんはいらないんでずってば」と、半開きのドアから顔を覗かせ薫は言った。
「でも、こんなお得なチャンスは二度とありませんよ?」と男は食い下がる。「何しろ人生をやり直すことができるんですよ?いや、お客様の使い方によっては、富や権力、名声どころかこの世界、いやいや、宇宙さえも手に入れることだって夢ではありませんのに……」
「いや、だからうちは間に合ってますから。今の人生に満足していますから」
「平凡なパートナーとボロ屋で慎ましく暮らすことに満足する人がいるとは思えないけどなぁ」
「失礼なことを馴れ馴れしく言わないでくださいよ。うちのことなんて何も知りもしないくせに」
「いえいえ、一応我々としましても、少々調べさせて頂いてからこうしてお訪ねしているわけでして」
「宇宙人か未来人か異世界人か超能力者か知らないけど謎の技術使って全力で他人の個人情報を漁らないでもらえますか。パソコンの画像フォルダーとか携帯メールとかまで覗いていませんよね?」
「まぁその辺りは我々にも色々職業倫理がありますので、ご安心ください」
「いやいや、いきなり他人の家に押しかけてきて、パートナーの命と引き換えに人生やり直しませんか?とか言い出す謎の生き物に安心してくれだなんて言われてもねぇ」
「まだ誤解なさっておられますが、パートナー様のお命を頂くわけではありません。お客様のご希望を叶えさせて頂く替わりに、お客様とパートナー様が出会うことのない、新たな時間軸を提供させて頂くだけなわけでして。お客様のご希望以外では基本的にどなたのお命も頂くことはございません」
「つまり、お互い最初から全然関わりのない赤の他人としての人生を送るってことでしょ?私にとってはそんなの、連れ合いが死んだのと一緒ですよ」
「いえいえお客様、家でぐーたらしているだけのお客様のような方に一生縛られて過ごすことになるパートナー様にとっては、最初からお客様などとは赤の他人だった方がむしろ幸せかと」
「ホント失礼なことをサラっと言いますね。ちょっとガラにもなく、あの人の幸せのためにもここは身を退いた方が、とか思っちゃったじゃないですか。ちょっとは気にしているんだからやめてください」
「いやいや、実際お互いのためなのです。お客様は新しいパートナー様とともに、この世の富と栄誉とを欲しいままにし、現パートナー様は世界のどこかで今より幸せにお暮らしになられる……」
「今の家族構成のまま、この世の富と栄誉とやらを欲しいままにするわけにはいかないんですか?」
「そこは私どもとしましても色々と都合があるわけでして……。それにどうせパートナー様に関する記憶も消去させて頂きますから、お客様が寂しい思いをなさる心配もございませんので」
「なんでそうまでして私達を別れさせたいのか全くわかりませんが、いくらバラ色の人生を約束されても、大切な人の記憶が消されたり、無かったことにされてしまうのはちょっとなぁ」
「正直私としても、お客様がなぜ、あのように平凡でぱっとしないパートナー様にそれほど拘りになられるのかわかりかねますねぇ。先月もまた、カードの支払いが嵩んで食費にも事欠いて大喧嘩をなさったばかりじゃあないですか。イタイッ!鼻はやめてくださいよ、鼻は……」
「あんたにどう見えているかは知らないし、世間様にどう思われているかも知ったこっちゃないですけど、うちの連れ合いは、こんな自分のことしか考えて来なかったわがままな私でも、人を愛したり他人のために考えることができる能力を持っている普通の人間なんだって教えてくれたかけがえのない人なんですからね!」
「そんなの、願い事を叶えて富と栄誉を手に入れて、その上でもっと素晴らしい新しいパートナーにまた新しい人生を教えてもらえばいいだけじゃないですかぁ。ほら、あなたが昔寝ても覚めても夢中になっていた、「金八先生」に出ていたあの方に手取り足取り教えてもらうなんてどうです?」
「え、そういうのもアリなんですか………………いやいやいやいやいや、やめてくださいよホント。ちょっと考えちゃったじゃないですか。とにかくうちは間に合ってますんで!」バタン!



「誰だったの?」
「んー、ただの押し売り」
「油売ってないで、さっさとお薬飲んで、少しは手伝って」
「いつもいつもいつもいつもごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃとウッサイなぁ!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?