短編SF「Ways of Heaven」


猫町退会機会に色々整理してたら、14年10月に東京猫町倶楽部課外活動文芸部遠征のために書いたSF短編が発掘されたんであっぷ。猫町は読書会だけど、プライベート活動の「課外活動」には色々物書き系の部活もあって、オラも色々書いたんで(主にSF)発掘したらまたアップします。

題はオラの大好きな、猫町倶楽部名古屋月曜会初参加課題作の英語タイトル「The Way to Paradise」を文字っています。


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あと主人公は歴史上の実在の人物ですし実話をもとにしています。しかし読む前には絶対にwikiったりググったりしないようにw。

※なお、元の原稿では「○☓の薄汚い豚」と表記していたのですが、ブサヨポリコレ棒テロの言葉狩りで「差別ニダ!ヘイトニダ!」とまた密告されてアカウントごと削除される弾圧を防ぐため、改変してただ「薄汚い豚」と修正しています。こうやってフィクションにおける表現の自由は損なわれて行きます。

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Ways of Heaven           

 クビツェクは激怒した。必ず、かの純真可憐な娘を友のために取り戻さなければならぬと決意した。
 クビツェクには恋愛がわからぬ。クビツェクは、街の貧乏学生である。オペラを見、音楽を聞いてのらりくらりと暮らして来た。けれども友情に対しては、人一倍に敏感であった。
 きょう未明クビツェクはおんぼろアパートを出発し、ラントハウスを通り過ぎプロムナードをぶらぶらしつつこのリンツの州立歌劇場前までやって来た。クビツェクには兄も弟も無い。父と母から時折、物心付く前にこの世を去った三人の姉妹の話を聞かされるだけだ。クビツェクには竹馬の友があった。ヴォルフである。今はこのリンツの街で、芸術家を夢見ながら定職にも就かず自堕落に生活している。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
 竹馬の友、ヴォルフは、恋をしたのだ。嗚呼純真可憐なシュテファニー。スラリとして背の高い、物静かな妖精。その高貴な天使の姿を思い出すと、クビツェクの心臓は高鳴った。彼女と二人きりでブルックナーハウスのワーグナーを観劇できたなら。いや、それでは私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。シュテファニーを最初に見出したのは、竹馬の友ヴォルフだ。ヴィルトベルク通りのカフェで空っぽのコーヒーカップを激しく振り回しクビツェクと熱くローエングリン論を戦わせていたヴォルフは、クビツェクより五秒早く、通りを優雅に横切ってやってくるシュテファニーに夢中になった。権利は友にある。
 それからと言うもの、クビツェクは竹馬の友のために献身した。愛する女性に声さえもかけられぬ意気地なしのヴォルフに一日中ついてまわり、物陰からシュテファニーを眺めつつ、その神が与えし奇跡の造形物を二人で競って褒め称えた。
 そのシュテファニーが、薄汚い豚の手篭めにされる。あの名も知らぬ奇妙な男が言うには、我が女神は近頃の不況で家産を傾けた両親に泣きつかれ、ブルジョワと言うにはケチな小金持ちの中年ユダヤ商人との縁談が進められていると言う。金!この世は金だ!金がなければ我々高貴なアーリア民族の正義も愛も成就せぬ!
 若さと希望のみを日々の糧とするヴォルフにもクビツェクにも、正義と愛の両方を成し遂げるための金はない。ヴォルフは最近、父親の遺産として七百クローネという、貧乏学生やルンペンにしては目玉が飛び出るほどの大金を手にしたものの、ゴットフリートの姉を救い出すローエングリンがフリードリヒを打ち倒すための剣の費えにもほど足りぬ。しかしあの名も知らぬ外国人風の奇妙な男が言ったのだ。「ご友人がシュテファニー様とご一緒になられるおつもりなら、お金の方は私が何とかして差し上げましょう。いえいえ、未来ある若者への物好きな……こちらの言葉でなんと言いましたかな、そうエトランゼの投資とお考えください」と。正義は成される。友の愛も成就する。このクビツェクが、この世の正義と愛を執行するのだ。早くヴォルフに伝えねば。あの高貴な方を悪魔の手から救い出すよう声をかける勇気を与えねば!
「ヴォルフ」。クビツェクは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ」
 ヴォルフことアドルフ・ヒトラーは、すべてを察した様子でうなずき、みすぼらしいアパートメント一ぱいに鳴り響くほど音高くクビツェクの右頬を殴った。殴ってから優しくほほえみ、「ありがとう、友よ」と言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。

「やれやれ、歴史改変作戦は上手くいったな」
「ああ。これでヒトラー氏はナチス入党せず、第二次世界大戦は起こらず、原子力兵器もコンピューターもロケットも出現が大幅に遅れて、俺達の宇宙艦隊が訪れる頃の地球は、未だ重力の軛に囚われた無防備な未開惑星ってわけさ」
「二本足どものくそったれ艦隊の返り討ちで降伏寸前の俺達の歴史も書き換えられたってわけだ!」
「そうさ!ところで、母星との通信回線が開けないんだが、そっちはどうだい?」

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