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いつかのあなたへの手紙(その① 産まれた日のこと)

ひろくんへ

いつの日か、ひろくんに産まれたときのことを伝えることがあるでしょう。その時にちゃんと伝えられるように手紙を書いておきますね。

2022年2月14日、19時30分。
3,852gでひろくんは産まれました。

お医者さんや助産師さん、看護師さんの力を借りて出てきたひろくんを、お母さんはぼんやりと眺めながらポロリと一粒だけ涙を流しました。
本当に出てきた、出てきてくれた…
そんな気持ちだったと思います。

思えば、ひろくんに会うまでのトツキトオカは予想外のことの連続でした。

妊娠してしばらくは、多くの妊婦さんが経験する“つわり”は全くなく、本当にお腹に赤ちゃんがいるのかな、と思うほど元気にのびのびと過ごしました。

かと思えば、多くの妊婦さんが“安定期”にはいりのびのび過ごせる時期から、もともとお母さんのお腹にあった子宮筋腫が痛くなり立ったり座ったりすることもベッドから起き上がることもできない時期がありました。

痛みが収まってからは、予定より早く産まれてしまうかもしれない“切迫早産”になり、おうちで寝て過ごす毎日でした。

こうした日々の中でも、たくさんお腹を蹴ったり、たまにしゃっくりをしながら、大きくなりましたね。
ひろくんが男の子と知った日のこと、髪の毛がもうふさふさだと教えてもらった日のこと、大きい赤ちゃんなこと。
一つ一つひろくんのことを病院で教えてもらいながら、早く会いたいような、一緒にいられる時間をずっと楽しみたいような不思議な気持ちで、産まれてくるのを待っていました。


ひろくんが産まれた日がどんな日だったのか…
晴れていたのか雨だったのか、暖かかったか寒かったか、お母さんは知りません。
ひろくんが出てくるためにお腹が痛くなる“陣痛”が始まって、前の日の夜からずっと病院にいたからです。

13日の夜、じいじの運転する車で病院に行き、なんとなく朝にはひろくんに会えるかなと思っていたのですが…
そんなに簡単に出てきてくれませんでしたね。

13日の夜はお腹が痛くなったり収まったりするのを、病院のベッドでうとうとしながら過ごしました。
14日の朝になってもあまりひろくんが出てくる準備が整わなかったので、ひろくんが出てこれるように点滴をすることになりました。
点滴をしたら、すぐに会えるかなと思っていたのですが…
やっぱり、そんなに簡単にでてきてくれませんでしたね。

お腹が痛いよう、ひろくんに会いたいよう、一人で心細いよう、
そんなことを思いながら、病院のベッドの手すりにしがみついて、看護師さんや助産師さんが様子を見に来てくれるのを、一日中じーっと待っていました。

いよいよ夕方、ひろくんが出てくる準備が整ったので、ひろくんを産むお部屋に移動しました。
そこは、それまで過ごした暗くてひとりぼっちの”陣痛室”とは違って、
明るくてたくさんの人がいる”分娩室”です。

お医者さんがいて、助産師さんがいて、看護師さんも集まってきて、てきぱきと準備をすすめてくれました。
実はその様子を見ていたら陣痛が遠のいてしまって、手術になるかもしれないと先生たちがお話しているのを聞きました。
ここまで頑張ったのに、手術になるなんて!!!
とひろくんも思ったのか、ぐんぐん出てきてくれて、、

ようやく会えましたね。

せっかく会えたのに、ひろくんは簡単には安心させてくれませんでした。
なかなか泣いてくれず、助産師さんにさすってもらってようやく泣いたり、
呼吸をするのがすぐにうまくできなかったのか、小児科の先生に診てもらったり。
いろんな人に助けてもらって、守ってもらって、あなたは産まれてきました。

ベッドに運ばれてむにゃむにゃと手足を動かしているひろくんをぼんやり眺めながら、
本当に出てきた、出てきてくれた…生きてる、、
そう思ったら、ようやく安心できて涙がひとつぽろりとこぼれました。
この手足でお母さんのお腹を蹴っていたんですね。
そして、もうお腹を蹴られることはないんですね。

そうそう、出てきたひろくんを見た助産師さんや看護師さんが
”あれ、思ってたより大きい”
と呟いていましたよ。
お母さんとひろくんを繋いで栄養を届けていた胎盤や臍の緒は、他の人よりも大きくて太いと聞きました。
しっかり栄養をとって、本当にとてもとても立派に育ってくれてました。

それでも初めて抱っこしたひろくんは、
小さくてふにゃふにゃで壊れちゃいそうで、あったかい”いのち”でした。

お母さんは、まだお母さんになった実感はなかったけれど、
このあったかい”いのち”を守るんだ、と自然と思えて
はじめまして、これからよろしくね、
産まれてきてくれて、ありがとう。
そんな風にお話をしました。


お手紙の1通目は、お父さんとお母さんとひろくんの3人家族が始まった日のお話でした。

また、手紙を書きますね。

お母さんより

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