焼き肉と下ネタ
しょうもない会話に助けられることはよくある。
先輩はトングを片手に職場にいる女で誰が一番"アリ"かの話をし始めた。
やれあの人は夜が淡白そうだの、やれこの人は体のラインがあまり好きじゃないだの、そういう華金には付き物の下卑た話。
こういう話は決まって「ま、結局社内の人間は"ナシ"だよな」で終わる。
「でも、もうこの歳になると出会い無いですよね」と僕は言った。
深くうなずく後輩。僕より2年多く猶予があるのに深くうなずくな。
一方の先輩はあっさりと、「出会い系でもやればいいじゃん。俺はやってるよ」と言った。
今でこそマッチングアプリなんてライトな名前で呼ばれて市民権を得ているが、結局のところ出会い系。大学生の時の謎の一大ブームに乗っかって僕も一時期すがったことがあった。
そのときにあまり良い経験がなかった僕は、
「防御力が高すぎる城は攻めても結局崩せないけど、防御力が低すぎる城もこんな簡単に入れちゃったら崩した後そこに住んでていいか不安になりますよね」なんてしょうもない例え話を、焦げた肉をつまみながら先輩に話した。
先輩は「すげーわかる」って笑ってたけど、その後に一言付け加えた。
「でもチクジョーすればいいよね」
チクジョー?
それは「築城」だった。
「城に入った後にちゃんと自分の手で強固な城作れば安心じゃない?」
先輩はなんか自信満々だ。そこが少し好きだ。
他人は簡単に変えられないって言ってしまえばすぐ諦められる。
でも、自分ならその人を善くできると思ってたいし、何ならそういう力を持っている人間になりたい。
その日の焼肉代は奢りを断って自分で出した。
今、自分は強がってるに違いない。
でも、この強がりがもしかするとちゃんと強さになるかもしれない。
帰りに買ったガムをいつまでも噛んでいたかった。
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