見出し画像

アスクレピオスを知るための文献メモ①~『ギリシア・ローマ神話辞典』編~【 #FGO 関係、読み出し無料】

1.はじめに

はてなの研究室ブログの読者には繰り返しになりますが、私はスマホ向けRPG『Fate/Grand Order』(以下、FGO)をプレイする中で、2019年6月に実装されたキャラクターの医神アスクレピオスにハマりました。その後、彼を最推しとしてパーティに編成し、クエストに連れ回すことを(ほぼ)日課にしております。

アスクレピオスはギリシャ(人文系分野では「ギリシア」表記あり)の神話に登場する医術を司る神です。FGOではスキル「医神」を所持し、これはゲームのプロフィールを見ると、

現代にまで伝わる、『医療』という概念の祖、医学の神
としての存在を示すスキル。

という説明が付されています。新規実装時にお恥ずかしながら、まったく私は彼のことを知りませんでした。ゲームを進めるうち、2部4章の終盤でこのキャラクターを好きになってしまい、私は彼のことを学ぶことにいたしました。

さて、この「アスクレピオスを知るための文献メモ」シリーズは、以上のような経緯でFGOの医神に入れ込んだ仲見満月が、現実世界のアスクレピオスについて調べ、知った情報を整理して覚えるための備忘録的なものです。本記事はその第1回に当たり、まずは基礎知識を得るべく辞書を引き、分かったことを中心にまとめた内容になります。今回、参照した文献は次のものです。

 ●高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店、1960年(オンデマンド版は2018年に復刊↓)

この『ギリシア・ローマ神話辞典』は、古代ギリシャ・ギリシャ神話研究科の藤村シシン先生がご著書『古代ギリシャのリアル』(実業之日本社、2015年)の参考文献一覧に挙げているうちの1冊です。藤村先生曰く、

日本のギリシャ神話の人名、神名、地名を調べるためには最も信頼のおける辞書のひとつ(同書p.269)

とのこと。本辞典は、1960年に出版されて一度絶版になった後、2014年にオンデマンド版の形で復刊され、入手しやすくなったようです。今回は、私が勉強用に買った1960年のものを使うことにしました。

最初に、本シリーズとこの記事のことで、いくつか、おことわりがございます。まず、基本的に「医神」といえば、基本的にアスクレピオスのことを指すと考えて下さい。一応、彼の父アポロンも医術を司る神ではあります。FGOの息子の持つスキル「アポロンの子」では、

アポロンは弓矢、芸能、予言、太陽等様々なものを司る
神であるが、疫病の神でもあり、その二面性の発露とし
て医術も司っていた。

と記載がありますが、本シリーズの主役はアスクレピオスのほう。ゲーム内でもスキル「医神」を所持するのは息子ですので、原則的に「医神=アスクレピオス」と理解してOKです。また、この記事は主な読者層として、Fateシリーズとその関連作品の読者を想定しており、神名や人物名の表記はFate作品群での呼称を優先して使うことにしました。ただし、引用部分の内容に関しては、引用元の表記のままといたします。


なお、筆者の仲見満月は、中国前近代の生活文化史に入る分野で博士論文を書いた人間であり、古代ギリシャ史を専門とする研究者ではありません。私は、歴史学をかじって卒業論文を書きましたが、ギリシャがフィールドの神話学者でもございません。もし、記事の内容について何かありましたら、匿名メッセージを送れるフォームへのリンクを下に貼っていますので、ご指摘をお願い申し上げます。

長い前置きとなりましたが、それでは本題の話にまいりましょう。



2.『ギリシア・ローマ神話辞典』のアスクレピオス

 2-1.各言語での表記

医神の情報全体のこととして、この辞典のp.17におさまっていることがあります。解説に11ページが割かれているヘラクレスに比べて、だいぶコンパクトな印象を受けました。

さて、アスクレピオスの各言語での表記は、辞典には

 ・古代ギリシャ語:Ἀσκληπιός 
 ・ラテン語:Aesculapius
 ・英語:Asklepios
 ・フランス語:Esculape

とありました。現代中国語と韓国語についても調べると、それぞれ、”药神阿斯克勒庇俄斯”(Weblioの「EDR日中対訳辞書」)、ハングルでは”아스클레피오스”と表記するようです。


 2-2.誕生から死まで

続いて、生涯をみていきましょう。彼の項目の冒頭にある概要部分を読むと、ホメロスでは、アスクレピオスは

まだ人間で、その子マカーオーンとポダレイリオスはギリシア軍の医としてトロイアに遠征し、テッサリアのトリッケーTrikeeがその国とされている。

と記されています。突然に登場した地名に、私は「 テッサリアのトリッケーって、どこなの?」と調べたところ、彼に関する神話学者による宗教史的考察の本『医神アスクレピオス』の古代ギリシャ地図(同書p.8~9)に場所が出ていました。地図中央のアテナイ(現在のアテネ、辞典では「アテーナイ」の表記)から見ると、テッサリアは北西に当たり、トリッケー(地図では「トリッカ」表記)はレタイオス河の北に位置しています↓

画像2

(画像:カール・ケレーニイ『医神アスクレピオス 生と死をめぐる神話の旅』白水社の古代ギリシャ地図。一部、医神と縁のある地名は仲見満月が四角で囲んで目立たせている)

さて、アスクレピオスの項目の続きには、彼の誕生にまつわる話が色々と載っています。列挙していくと、こんな感じ

 (1)ヘシオドスとピンダロスの話
 アポロンとコロニス(テッサリア王プレギュアースの娘)の子が、アスクレピオス。コロニスが「エラトスの子イスキュス」と通じたことに、アポロンは怒って不義をした彼女を殺す。コロニスの火葬中、彼女の胎内にいた子を救い出した。この時、不義を伝えた烏はアポロンの憤りによって、白から黒へ姿を替えられたという。

ここから先は

3,295字 / 1画像
この記事のみ ¥ 200

仲見満月の「分室」では、「研究をもっと生活の身近に」をモットーに、学術業界のニュースや研究者の習慣や文化の情報発信をしております。ご支援いただくことで、紙の同人誌を出すことができますので、よろしくお願い致します!