夜に照る目白駅のステンドグラス

風景というものは、変わらぬ場所でもあるにも関わらず、全く異なる情景を寄こしてくることがある。

例えば昼と夜なんかは分かりやすいもので、木漏れ日差す静かな森が、日が暮れれば魑魅魍魎の巣窟として語られることはよくある。もしも、銀河鉄道999が真昼間に地球を出発していたら、第一話のタイトルも「出発のバラード」とは、どだい成らなかっただろう。今日はそんな時間の特権たる一枚を紹介しよう。

目白駅は、東京都にあるJR東日本の環状線、山手線のおよそ北西部にある駅で、東京には珍しい、出口は単一である。A3やらC7のように、無数の出口に迷うことはさらにない。周辺には我らが学習院大学をはじめ、手塚治虫らの集合住宅であったトキワ壮(南長崎)、安産祈願の鬼子母神(雑司ヶ谷)、駅前はもともと近衛文麿が住んでいたとか、観光名所としては日の当たらない風で、駅前にいると言えばたいがい学習院の学生か、近隣にお住まいになっている方、もしくは近隣で働かれている方かその辺という、「東京」らしからぬオアシス、その出入口がまさしく、ここにある。

日中ここを通る時、周りは日照環境に恵まれているため周囲はさんさんと日差しが降り注ぎ、たまにザンギ屋のトラックが止まり、景色はセンティメンタリズムを忘れさせる。ぼくはこれを、ただ駅としての記号としてのみ消費する。ステンドグラスの特権はなく、ただ側面を違和感なく埋めるだけの意味をもっている。このときの駅は、大学から外へ出るための手段として解釈されていて、無機質にSuicaをかざしてぼくは外界へ出るのだ。

ところが、夜になると周囲が暗くなり、暗闇に包まれる中で煌々とかがやいて、お星さまのような存在感を照らし出してくるのが、このステンドグラス、駅前の静寂である。

楽しそうな大学生の姿はどこへやら。彼らの姿はすっかりなくなって、閑静な住宅街の色、太陽の不在が帰ってくる。外へ出て左にみえる交番なんかはいよいよそのランプが赤く街を見張るし、人相も、一日を生き抜いた、満身創痍の社会人で埋まっていく。賑やかな学生の街に、夜はお化粧をする。

こうして夜にメイクされたステンドグラスは、月光の下にその姿をようやく現して、ぼくたちを平等に出迎える。

目白というのはとかく観光名所としては分かりにくくて、別に来るも来ない自由、というような場所ではあるけれども、観光場所を「見出す」、そして行ってみる。この記事が、のちに記す記事群が、あなたにとって行くに値する場所になればうれしいです。

(追記)
この記事はのちの写真シリーズの第0回として無料公開します。もし、いいなと思ってくれましたら、第1回以降も閲覧いただけると幸いです。

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