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【書評】Logic - Supermarket - 2/2(感想)*ネタバレ注意

おすすめ度:★★★★★
読んでほしい層:全てのヒップホップ・Logicファンの皆様

小説の解釈はもちろん受け手に委ねられるモノだと思うので、Logicが何を考えてこの小説を書いたのかを自分の感想を考えて書いてみました。

ラッパーが書いた小説として、史上初ニューヨークタイムズで1位を取るという快挙を成し遂げた本作。ミステリー仕立ててハラハラドキドキしながらも、どこかLogic本人の私小説のようなニュアンスも入っていて。ちょっと切なくなったり、共感しながら読めると思います。ラッパーならではのユーモアもあり非常に読み易い作品ではないでしょうか。

この小説で非常に興味深かったのは、主人公Flynnの作家としての成功が小説のゴールに結びついていない点です。PART2の早々でFlynnの小説がベストセラーになったことは明かされ、Flynnは結果的にベストセラー作家になり大金を手に入れます。しかしそこに費やされた描写は数ページ程度で本編の大筋の文脈ではあまりフィーチャーされません。

「田舎者の実家暮らしで仕事が上手くいかずに彼女に振られた男がベストセラー作家になって人生を変えた」という筋書きも成り立ったはずです。なぜそうしなかったのか。きっとLogicにとって、人生の喜びや幸せは社会的/経済的な成功という結果からもたらされたものではないのでしょう。いや、彼は度々曲の中でも自らの成功を誇っているので、意味がないわけではありません。それでも、深いところで本当に彼を突き動かしているのは富や名声ではないのだと思います。最初はそうだったとしても、きっと今の彼はそのステージにいない。あとがきでLogicはこんな風に語っています。

”(人生には)良い時も悪い時もある。幸せな時期も、上手くいかない時期も。でも読者のみんな、小説や映画、音楽を愛するみんな、或いは昔からの俺のファン。これが一番幸せな俺自身なんだ。そして心の一番ピュアな部分から作品を作り続けようって思ってる。いつだってそう、小説という形をとった、今回の作品のようにね。俺は言葉やクリエイティブの自由を自分自身をより良くするために使ってるんだ。”

Flynnが小説を書くことを通して得たもの、Logicがヒップホップの楽曲製作やパフォーマンスから本当に得たものは「創造(クリエイト)」すること、それを表現することによって得られる痛みからの心の浄化なのかもしれません。いや、もしかすると痛みや落ち込みという感情すらも受け入れて愛せること、なのかも。創造を通じてこそ、人は苦しみから解放され、心が洗われる。そして尊いものになると。

人生には苦しいこと、苦しい時期が何度も訪れます。多分、苦しくて辛いことの方が多いんだろうと思います。良い出来事があってもすぐにまた新たな現実が襲い掛かる。良いことを信じて頑張っても、その先には辛いことが待ってるだけかもしれない。そうしているうちに、人は自分自身の中に閉じこもってしまう。実はFlynnのループは私たちの人生で正しく起こっていることなのでしょう。

「Part1は自分の人生で最も暗い深みの中で書いた」

とLogicはあとがきで語っています。そして、そこからPart2を書くまでに主人公のFlynnが小説を書き上げるのに費やした時間と同様、2年間かかったと語っています。暗闇の中での2年という歳月は決して短いものではありません。その長いトンネルから抜けるために、ロジックは作品を作り続ける必要があった、そしてFlynnがしたように作品を完成させる必要があった。(もっとも、Flynnの場合は作品を完成させてからが本当の闘いなわけですが。)

SUPERMARKETとは結局なんだったのだろう。自分が所属していて、心を縛られている社会そのものなのか。SNSのようなバーチャルな世界への警報なのか。自分自身の心の中に作り出した無限ループの世界なのか。きっとその解釈はLogicから読者一人一人に委ねられているのでしょう。ただ一つ言えるのは、誰もが本当の自由を手に入れるために、そこを抜けださなければいけない。そのためには、自分の心の中にいるもう一人の自分と戦うしかありません。LogicとFlynnがそうしたように。

この小説は長編と呼ぶには短すぎるし、ストーリーの進め方・組み立て方も王道でわかり易く、小説を読みなれている人からするとオチ自体もそこまでスリリングなものではないかもしれません。それでも、Logicのこれまでの道のりを知っている人なら、そしてそのLogicを追いかけて勇気をもらってきた人ならきっと何か心に残るものがあるはずです。

実は一歩踏み出す勇気を得るためには、何よりも最初に自分自身の内面と向き合うことが必要だと。今に悩んで、一歩踏み出すのを恐れている。そんな人にこそぜひ読んでほしい作品です。暗く、陰鬱な話なのですが、読み終わった後はどこか清々しい気分にさせてくれる、そんな一冊です。

最後にもう一つ、主人公Flynnは絶望を感じながらも小説の中で1度たりとも周囲から見放されることはありません。最初は母親、そして元恋人のLola。後半では恋人のMiaとRedが寄り添い、手を差し伸べます。Flynnは医者のいうことではなく、唯一ループから抜け出した男、Redの言葉に耳を傾け、Frankとの戦いに向かいます。自らのループを断ち切り、克服するには自ら行動を起こして打ち克つ必要がある、というメッセージの裏に、支えてくれる近しい人の存在も忘れない。そんなLogicの人柄も感じることができる作品です。

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