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The wallflowers /bringing down the horse


オルタナ・カントリーってあったの

時代は1996年。英国では言わずもがなのブリット・ポップ・エラ。アメリカではグランジ・オルタナが猛威を振るっていた時期。
それと並行して、アメリカのロックには派手さはないが

「オルタナ・カントリー」

なる流行があった。uncle tupeloというバンドを始祖とし、そこから分離したwilcoとson voltを中心に起こったと言われるこのムーヴメント。
wilcoはあの「yankee hotel foxtrot」のwilco。

ざっくり言うと

パンクやグランジを通過した世代が、アメリカの白人が幼いころから馴染みのあるフォークやカントリーを荒々しく演奏する。

ポーグスのアイリッシュ・パンクみたいなものだ。

2020年代現在、このオルタナ・カントリーはほぼ話題に上がることなく、90年代ロック=米国はグランジ・オルタナ、英国はブリット・ポップと言う振り返りしかされないで、完全に忘れ去られている。

whiskeytownとかfreewheelersjayhawks

とか結構いいバンドがいたんだよ。前者はライアン・アダムスのバンド。

やかましくて絶望感漂うグランジ・オルタナ。その後のradioheadまで続く、と言うかUK自体の特徴かもしれないモヤシっ子泣き虫自己憐憫のブリット・ポップ。どちらも自分の好みにはあまり合わず、地に足の着いた音ですさんだ心情をストレートではなく少し陰りのある感じで表現するオルタナ・カントリーが好きだった。

ディランの息子、世に現る


そんなオルタナ・カントリーのバンドの中に一人の男がいた。
ティム・バックリーの息子が世に出たと同時期に、ボブ・ディランの息子もまた世に出ていた。

ジェイコブ・ディラン
彼のバンドがwallflowers

因みに「ウォールフラワー」
とはパーティーで踊るパートナーがいないで一人佇んでいる女の子の事だとか。

1992年にセルフ・タイトルのアルバムでデビューするもパッとせず、メンバーもほぼ抜けてしまう。
ジェフ同様、最初期は父親のことは隠して活動をしていたようだ。鍵盤奏者以外のメンバーを入れ替え、

T-ボーン・バーネット

をプロデューサーに迎えて制作された本作でブレイクを果たす。バーネットは親父の「ローリング・サンダー・レヴュー」にも参加していた人物。

あの親父をしてこの息子ありと言う
アメリカン・ルーツ・サウンドが心地よい。

グラミーまで獲ったシングル①からミドル・テンポで聴かせる。ドラムの音の取り方が実にクール。

父親譲り

と絶対言われまくってであろうジェイコブのしわがれた声が染みる。ドブロが戦慄く②も同系統の素晴らしい曲。

⑤⑦⑨⑩は勢いのあるアメリカン・ロック。⑦⑧はじっくりスロー。

①②の歌詞のせいもあるのか、全体通してすごく「夜」のイメージ。暗い部屋で一人佇み、煙草の火が僅かな灯り。こうやって書くとイエローモンキーのJAMとかB'zのsnowみたいな世界だけど、そんな湿っぽさはない。

そこはアメリカ、そこはオルタナ

ボブ・ディランの息子ながら、音楽的な語彙はあまり豊富ではなく、ソングライティングもアレンジも2,3パターンぐらいの決まった方法を使いまわす感じ。本アルバム内でも似たような曲もある。それでも曲そのものの良さが、それを補って余りある魅力的な作品にしている。

クロージングの⑪は正に90年代。

X世代の苦悩を歌詞と音で表現した見事なカントリー・ロック・バラッド。

ナッシュヴィルのレオ・レブランク(レオ・ルブランが正式な発音か)のペダル・スティールが、表情は平坦で無気力に見えるが、心の中は激しい感情を抱えているアンビバレントなX世代の心情を美しいまでに描写する。

コロンバインでの高校銃乱射事件など、地味で目立たない普通の若者が、突然キレてとんでもないことをやらかす。そんな風に言われていたのだ、X世代は。ルブランにとって本作参加が結果的に遺作となった。


次作の来日公演を見に行ったが、ラップ・スティールも流暢に操るギターのマイケル・ワードがこのバンドのサウンドの鍵を握っているようであった。

オルタナ・カントリーは何処へ



その次作「(breach)」も大好きな作品ではあったが、マイケル・ワード脱退後はややトーン・ダウン。

よりヘヴィなものを求める時代、ロックの衰退、ヒップホップの台頭などでオルタナ・カントリーはあっという間にフェイド・アウト。もっとも
フェイド・アウトするほどの流行も生み出していない

と言われればそれまでだが。

結局ジェイコブはその後ソロ活動をしたりもしたが、好きものにしか好かれない時代外れの音楽。親父ともどもこの現世からさっさとオサラバして伝説になったバックリー親子にはなれず。でもいい音楽だよ。

オルタナ・カントリー

90年代の音楽の話をする機会があれば(そんなものないか)ぜひ使って欲しいキーワード。おそらく、そうとうのロック好きでもなかなか聞いたことのないキーワード、ジャンル=オルタナ・カントリー。

90年代ロックをブリット・ポップとグランジ・オルタナばかりで語るロック・ファンは信用ならんと思う次第である。


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