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喧嘩したことがない夫婦

結婚するまで、私と夫は喧嘩したことがなかった。
夫婦になってからも、子どもが生まれるまでは、喧嘩らしい喧嘩はしたことがなかった。
子どもが生まれると、それまでの生活は一変する。
お互い言いたいことも、不平不満もたまっていく。
そして私は夫と喧嘩するようになった。
解決も仲直りもできずに眠り、次の日の朝もモヤモヤとした気持ちでいた。

けれど夫は何事もなかったかのように私に話しかけてくる。
まだモヤモヤしている私はその夫の態度に驚いて
「喧嘩してるんだけど?」
と言うと夫は
「喧嘩なんかしてないよ?」
とニコニコしながら言う。

自分だけがイライラしているのがみっともなくて、恥ずかしくて、とっくに昨日の喧嘩のことなんて許して大人な態度で接してくる夫に、なんて優しい人なんだろう、なんて思ってしまった。
でもそれと同時に、私は喧嘩したと思っているのに、モヤモヤした気持ちはそのままなのに、なんで夫はすっきりした顔をしているんだろうって、またさらにモヤモヤした。
でも夫がいつも通りに接してくるので、私もいつも通りになり、たしかに仲直りすることができた。

そんなことが何度もあった。

でも、喧嘩がなかったことになっただけで。
私がつらくて吐き出して、夫と話し合って解決したかったことは、つまり何も変わらず、全部なかったことになる。

そうか、夫は昔から話し合いなんてしなかった。
自分の意見は絶対曲げないし、けれど私が間違っていることは指摘され、私はどんどん夫の言いなりになっていった。
夫の思想に染まっていく愚かな自分にまったく気づかなかった。
長い期間をかけて、夫にとっての「都合のいい妻」が完成した。

次男のことで、このままじゃだめだと、怖かったけど勇気を振り絞って夫と話し合おうとしたら、話し合う前に私に対するダメ出しをされ、私も夫に言われて、されて辛かったことを話そうとしたけれど、話す前にこれ以上ストレスを押し付けるなと言われ、その場から去られてしまい、何も言えず、何も解決しないまま拒絶された。

正確には、そのあとディスコードで話し合いたいことを書いて伝えた。
けれど夫からは冷たい言葉がひとつ、ふたつと返ってくるだけで話し合いを拒否される。
結局何も話し合えないまま、最後に喧嘩で終わりたくないから、夫がしてくれて嬉しかったことの感謝の言葉も伝えたけれど、それには返事もリアクションも返ってこなかった。
私はここでやっと気づいた。もっと早くに気づくべきだった。
洗脳が解けた瞬間、夫への愛も、信頼も、すべてが一瞬で冷めて消えた。

夫は昔から話し合いなんてしなかった。
あの頃に、気づくべきだった。
これも後悔のひとつ。


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