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人生初サウナでおっさんに泣かされた話

なぜ人は社会人になった途端、サウナにハマるのだろうか。

「来週の土曜、サウナ行かね?」

社会人2年目の友達からこんなメッセージが届いたとき、「お前もか...」と僕はため息をついた。最近インスタを見ていると、本当にたくさんの友達がサウナにハマっているのが分かる。あいつもサウナ、こいつもサウナ。一体サウナの何が魅力なのだろうか。すでに筋トレという趣味を持っている僕からすれば、サウナなんて体を動かさずに汗だけかいて頑張った気になれる、手抜きの娯楽にしか思えなかった。しかし物は試しだ。僕はサウナの人気の謎に迫るべく、アマゾンの奥地...ではなく横浜にあるスカイスパに向かったのであった。

友達によると、このスカイスパはサウナ好きの中でもかなり人気のサウナらしい。期待と不安を胸にビルの14階まで上り受付に向かう。

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この日は雨がパラつく土曜日。混んではいないだろうとたかを括っていたが大外れ。なんと大人気につき入場制限中とのこと。「入場制限」なんて言葉はディズニーランドでしか聞いたことがない。一体このサウナにはどんな夢が詰まっているのだろうか。仕方なく名前と電話番号を書いて順番が来るのを待ち、友達と横浜を1時間くらい散歩していたところ空きができたと連絡があり、待ちに待ったスカイスパに入ることができた。

僕はサウナ好きが行くようなガチサウナには今まで一度も行ったことがない。そして僕にとってのサウナとは「ラーメン二郎」でアブラだのカラメだの訳のわからない呪文を唱えるように、ガチ勢には常識の暗黙の了解が存在する場所だと思っていた。何も知らない僕がサウナに入ってしまったら、ガチサウナ勢に目を付けられやしないだろうか。脱衣所で着替えているうちに僕は不安になり、思わず友達に「何か気をつけた方がいいマナーとかある?」と聞いた。すると彼は一言、こう言った。

「無理はするなよ」

と。このとき、すでにパンツを脱いでお互いに素っ裸。俺たちは裸で何をしているんだ。しかし「無理はするなよ」と言った友達の目は真剣そのもの。一体サウナに何が待ち構えているのか。これから足を踏み入れる人生初サウナに、さらに身が引き締まる思いがした。

そしていざ、扉を開け中へ。目の前にまず広がるのは大浴場。

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<スカイスパホームページより引用>

全裸の男が30名ほど、シャワーを浴びたりお風呂に浸かっているのが見える。そしてその先に見える木の扉.......あれか!あの扉の向こうにサウナがあるのか!

シャワーで体を洗った僕は、友達に連れられるまま、いよいよ初サウナへ。重厚な取手を掴むも、すでに熱い。そのまま扉を開けると...なんだこの熱気は!息が...!息が苦しい...!

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<スカイスパホームページより引用>

そして目の前に座る......全裸の男たち!熱気立ち込めるサウナの中に15人ほどの男たちが苦悶の表情を浮かべながら鎮座しているではないか。

その光景は......まるで雛人形!一体これはなんなんだ。まるで3月3日の節句の日に、雛壇に規則正しく並べられた雛人形のように、おっさんが規則正しく等間隔で座っているではないか。

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「こっちだ」

呆気にとられる僕をひっぱり、友達は下の段に腰を下ろした。

「いいか、サウナは頭が真っ先にやられるんだ。これを頭に巻け。」

そう言って彼は持っていたタオルをグルグルと頭に巻きつけたではないか。おいおいお前は何をしているんだ。その友達とは高校時代からの付き合いだ。数学が趣味で高一の時点で大学の数学を独学するような生粋の変人だった。その上、勉強も部活も真面目に取り組み、なかなか自分では冗談を言わないようなクールな男だった。そんな彼が今、タオルを頭に巻いて、なんともダサい姿を公衆の面前で晒している訳である。5Gで頭がやれるとアルミホイルをグルグル巻きにする自然派ママのように、彼は熱波から頭を守っているのだ。

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しかしどんなにバカらしくとも、相手はサウナの玄人だ。大人しくアドバイスに従い、僕はタオルを頭に巻いた。そして...耐えた。1分、2分、3分。灼熱のサウナの中で黙々と、自分もこの兵馬俑のように規則正しく並び微動だにしないおっさんの一部になったと思い込み、ひたすら耐えた。

そして5分が経った頃、「よし行くぞ」と友達に連れられ外へ。熱さで意識が朦朧とする中、水を浴び、そのまま水風呂へドボン。

......!!!こ、これは一体何度なんだ?!

経験したことのないような冷たい水に体が悲鳴を上げる。しかしヒヤッとしたのも一瞬、次第に冷たさに体が慣れ、目を閉じればドクッドクッと脈打つ音が聞こえるのみ。未知の感覚がじんわりと広がっていく。

そして何度も耳にしたあの言葉を友達が口にした。

「よし、整うぞ」

と、整う...?!ついに整うのか!?サウナーたちを虜にするあの整うが、ついに来るのか!?

そして僕らは水風呂から上り、並べられた椅子に深々と腰掛けた。

目を閉じると、高温から一気に冷やされ、さらに陸で熱を奪われた体が、ドクドクと脈打つ音が聞こえる。そして意識がふんわりと軽くなり、自分が今何をしているのか、どこにいるのか一瞬忘れてしまうくらいの感覚が押し寄せてくる。そうか。これが整うなのか......

右を見ると、友達はまさにイッた顔をしながら天を仰いでいた。その右には別のオッサンが口をあんぐり開けたままイッており、その隣にはまた別のおっさんが明後日の方向を見ながら同じくイッていた。10個ほど並べられた椅子の上で、みんな一様に果てている。あそこをモロに出した、文字通り全裸の格好で。

整うという人生初の快感に感動を覚えながら、僕は目の前の異様な光景に目を奪われた。

「どうだ...これが"整う"だ...」

あっちの世界からようやく意識が戻ってきた友達が、まだ焦点を結ばない視線をこちらに投げかけながら語りかける。

「もう一個別の、行ってみようぜ」

そして今度は先ほどとは別の、ドーム型の天井をした湿気の高いサウナに入った。彼の説明によるとこれは古代ローマ式のサウナで、輻射熱により温められているらしい。

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<スカイスパホームページより引用>

一口にサウナと言ってもいろんな種類があるものだなと感心していると、突然友達が白い粉を体に塗り出した。

「な......何をしているんだ!?」

塩だよ塩。これ塗るとたくさん汗が出てくるんだ。」

よく見るとサウナの中心にある台に山盛りの塩が置いてあった。

「浸透圧の関係で、汗が出てきやすくなるんだ。」

一体何を言ってるんだこいつは。お前は自分がしていることを理解しているのか!?自分の体に塩を塗るなんて、注文の多い料理店で読んだあのシーンそのまんまじゃないか。お前はこれから誰かに食われるのか!?

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貴重な土曜日に、素っ裸で自分の体に塩を塗る。そんな未来を、一体誰が想像できただろうか。

ええい、こうなったらやるしかない。両手にたっぷりの塩を取り、僕は生まれて初めて自分の体に塩を揉み込んだ。僕が毎日調理する鶏胸肉たちも、こんな気持ちだったのかもしれない。ジャリジャリした塩が肌に染み込み、次第に馴染んでいく。そして輻射熱を全身に浴びながら座っていると、驚くほどに汗が出てくる。いや、出るなんてレベルじゃない。まるで汗腺が決壊したかのように、穴という穴から滝のように汗が吹き出てくるのだ。

僕が低温調理してきた胸肉たちも、こんな気持ちだったのだろう。塩を揉み込まれ、暗い鍋の中で加熱され、余分な油が落とされていく。今まで食してきた胸肉たちへの感謝を捧げながら、僕の意識は再び天に召されて行った。

そして5分後、再び水風呂へ。キューッと血管が一気に狭まる音が聞こえてきそうなほど、冷めたさに体が引き締まる。そして再び椅子へ。彼曰く、ここを「整い場」と呼ぶらしい。

整い場......なんてぴったりな言葉なのだろう。整然と並べられた椅子の上で、おっさんたちが果てた顔をして目を閉じている。最初は異様に思えたこの光景も、2回目ともなると自分も身を任せて果てることができた。

次第に落ち着いていく脈、遠のく意識、心地よく聞こえるお風呂の水の音。日常のあらゆるノイズが頭から取り除かれ、そこにあるのは己の精神のみ。

これが”整う”か......悪くない。

そしていざ3回目のサウナへ。1回目と同じく本場のフィンランド式サウナだ。今回は下段ではなく、上段にポジションを取った。

「サウナは上と下では10度くらい温度が違うんだ。温かい空気は上に行くだろう。つまり、ここが一番熱いんだ。」

確かにさっきまでより激しく肌が熱を感じていた。そして僕は何も言われずともタオルを頭にグルグル巻きにした。これは5Gを恐れてアルミホイルをグルグル巻きにする自然派ママでもなんでもない。ボクサーがヘッドキャップを被るように、古代スパルタの戦士が鋼鉄の兜を被っていたように、このグルグル巻きのタオルもまた、勇者の証なのだ。

じっと座って熱に耐えていると、何やら大きなタオルを持ったスタッフと思しき男性がサウナに入ってきた。すると

「よろしくお願いします」

と野太い声でおっさんたちが挨拶をする。なんだ、なにが始まるんだ。するとスタッフの男性がいい香りのする液体をストーブにかけ、そこで蒸発した熱気をタオルで我々の方に仰ぎ出したのだ。

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いい香りのする灼熱の風が全身に襲いかかる。しかし爽やかな香りが心地よい。

「これはアウフグースって言うんだ」

ア、アウ......!?なんだって!?呪文のような単語に耳を疑ったが、どうやらこれはドイツのサウナで人気の「アウフグース」という楽しみ方らしい。熱風もいつの間にか気持ちよく感じ、流れ出る汗も快感だ。にしてもサウナ、言葉が難しい。

そしてアウフグースが終わると、スタッフの男性は全身汗だくで着ている服がぐっしょり濡れていた。サウナを後にする彼に

「あざっした!」

と声をかけるおっさんたち。もはや完全に部活だった。

そして3度目の水風呂へ。もう整い方が分かってきた。どんなに冷たくとも、肩までしっかり10秒浸かる。そして10秒経ったらサッと立ち上がり、我らの聖地・整い場へ向かう。

椅子に腰掛け、3度目の”整う”へ。目を閉じながら、僕は人生初サウナに思いを馳せた。

今この空間には、30人近い裸のおっさんたちがいる。真剣な表情でサウナの熱に耐えるおっさん、水風呂の冷たさを全身で感じるおっさん、椅子の上で整ってるおっさん、お風呂で疲れを癒すおっさん。彼らの多くは、いつもはくたびれた顔で電車に揺られるサラリーマンなのかもしれない。生気のない顔で、猫背でスマホのYahooニュースを見ながら職場の最寄り駅まで電車で運ばれ、やりたくもない仕事をこなし、ヘトヘトになって家に帰り、コンビニ弁当を食べながらテレビでも見て眠る、そんな灰色の毎日を繰り返しているのかもしれない。

しかしそんなおっさんたちは、今このサウナで、血の通った人間として、ピンッピンにサウナを楽しんでいる。彼らは多くは語らない。サウナの中では皆同じく無言で熱さに耐え、整い場では無言で空を仰ぎながら全神経を集中して整っている。しかしその姿はいつもの退屈なサラリーマンのしなびた姿ではない。1人の男としてハツラツとサウナを楽しむ、エネルギー溢れる男の姿がそこにはある。

サウナには、こんな素晴らしい力があるのか。椅子の上で整いながら、僕の顔を水が滴り落ちる。これは汗なのか、それとも涙なのか。そんなことはどうでもいい。このサウナは、僕たちの日々の疲れを汗とともに流してくれる。おっさんも、若者も、男も女も、サウナの中では等しく平等に汗をかく。その極めてシンプルで、美しいサウナの本質に心を打たれ、僕は今泣いているのだ。それが汗であろうが涙であろうが、感動して泣いていると言う意味では、根本的に同じものなのだ。

サウナは、僕の想像以上に魅力的な、現世の喧騒を忘れ心身ともにリフレッシュできる場所だった。さあ、君もサウナに行こう。日々の鬱憤をぶっ飛ばしてくれる整い体験が、君を待っている。


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最強になるために生きています。大学4年生です。年間400万PVのブログからnoteに移行しました。InstagramもTwitterも毎日更新中!