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池袋最強サウナ「かるまる」で"整う"の真髄に迫ってきた

大学生になってサークルの友達と初めて渋谷で待ち合わせをしたとき、自分も大人になったものだと感動したのを覚えている。関東郊外の高校に通っていた僕はめったに東京に来たことがなかった。人でごった返すハチ公前で必死になって友達を探しながら、これが東京かと新しい世界に足を踏み入れたことを実感して胸が高鳴ったのを覚えている。

しかし本当の大人というものは全裸で現地集合するということを学んだ。とある寒い秋の日の20時過ぎ。おっさんたちと一緒に湯船に浸かりながら、僕は共にサウナに挑む仲間を待っていた。

ここは池袋のかるまる。サウナ愛好家の間では聖地と崇められる場所だ。すっかりサウナの魅力に取り憑かれてしまった僕は友達に誘われ二つ返事で行くことが決定。ちょっと遅れるから大浴場で待っててと言われかれこれ20分は風呂に浸かっていたのだが、なかなか友人はこなかった。

ここ池袋かるまるは立体的な構造をしている。ビル全体がかるまるの施設になっており、3階から5階が宿泊処、6階が受付、7階8階が休憩所、そして9階と10階がサウナと大浴場になっているのだ。

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<かるまるの外観 サウナイキタイより引用>

一足早くついた僕はシャワーで体を綺麗にし、天国へ登る梯子のような階段を上り、10階の大浴場で友達を待っていた。しばらくすると友人がやってきた。

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<左の階段を登って10階へ行く 楽天トラベルより引用>

「すまんすまん、お待たせ。」

ここは大浴場。当然二人とも全裸である。ちょっと遠出した先で現地集合くらいはよくあることだが、全裸で現地集合は人生初だった。人間、ありのままの姿になると心も穏やかになるのだろうか。お風呂で疲れを癒しながらサウナに備えて士気を高めた。

ここ池袋かるまるは2019年12月にオープンしたばかりの新しい施設で、お風呂もサウナも充実度が半端ない。サウナが4種類、水風呂も4種類、お風呂も5種類ある欲張りセットだ。全部入ってたら体がふやけてしまうほどコンテンツ豊富なのだ。まさに湯の楽園。

そんなかるまるで我が友人と最初に入ったのは岩サウナだった。温度は80度。ウォーミングアップには持ってこいだ。

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<岩サウナ スーパー銭湯全国検索より引用>

ここは定員25名とかなり広い。毎度のことながら雛人形のように綺麗に並んで苦悶の表情を浮かべたおっさんたちがいたがこの光景にも目が慣れた。7分ほど耐えて外に出る。この日は寒い秋の日だった。ここカルマルは9階10階共に外気浴をすることができる。そこで閃いた。せっかく外がいい感じに冷えてるなら水風呂をスルーしていきなり外気浴をしてみたらいいんじゃないだろうか。

思い立ったが吉日。サウナを出た足でそのまま外気浴に向かった。9階には外の空気に触れながら椅子に座って外気浴できる場所がある。決して眺めは良くないが、それでも全裸で外の世界と繋がれるのは気持ちがいい体験だ。まだ1回目のサウナでそこまで体温が上がってなかったので、水風呂に入らずそのまま外気浴したのは正解だった。整うとまでは行かないもののいい気分だ。

さあ、続いて2回目のサウナへ。ここからが本番である。入ったのはケロサウナと呼ばれる90度を超える高温のサウナ。「ケロ」とは樹齢200年以上の欧州赤松が立ち枯れた希少な木材のことで、美しい光沢を持つことから木の宝石と呼ばれている。そんな木の宝石を贅沢に使ったサウナこそがケロサウナなのだ。定員9名の小さなサウナには、熱気がギュッと凝縮されていた。座るや否や、全身から汗が噴き出す。これだ。この熱さを求めて僕はここにやってきたんだ。

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<ケロサウナ SPOTより引用>

すると一人のおっさんがおもむろに立ち上がり、置いてあった柄杓に桶から水を汲み出した。まさか......

「......よろしいでしょうか。」

誰の目を見るわけでもなく、おっさんはポツリと言った。

「......お願いします。」

誰ともなしに答える声が聞こえた。するとおっさんは柄杓を慎重に持ち上げ、熱々と燃えている石に水をかけ始めた。熱したサウナ石にアロマ水をかけて蒸発させることをロウリュと呼ぶ。そう、このケロサウナではお客さんが自由にロウリュをすることができるのだ。

水がかかった瞬間、ジュッという音と共にサウナの温度がグワっと上がる。湿度も一気に上がり、さっきまでとは比べ物にならないくらい暑い。サウナで温度と同じくらい大切なのは湿度だ。湿度が高ければ高いほど体感温度も高くなる。湿度が高いということは水の中にいるのと同じだ。ロウリュで一気に湿度が上がり、まるで90度の熱湯の中にいるような、そんな熱波が僕らを襲った。

「ブウォン、ブウォン、ブウォン」

じっと目を閉じて座っていると、風を切り裂く音が聞こえてきた。一体なんだ?熱にやられて幻聴が聞こえたのか?と目を開けると、なんとそこには鬼の形相でタオルを振り回すおっさんがいた。

「ブウォン、ブウォン、ブウォン」

カウボーイが投げ縄を回すように雄々しく、ライブ会場で盛り上がったファンがタオルを回すように嬉々として、それでいてナウシカが暴れる蟲を鎮めるため蟲笛を回したように優しく、おっさんはタオルを回した。

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<蟲笛を奏でるナウシカ 金曜ロードSHOW!より引用>

おっさんのタオルはサウナの上部に溜まった一番暑い空気を部屋中に循環させる。一度、また一度と体感温度が上がっていくのが分かる。すでに鼻から呼吸をすると鼻腔が熱で刺激されて痛い。これ以上は厳しい......そう思った瞬間、おっさんは回すのをやめ、タオルを頭に巻く......のではなく顔にグルグル巻きにしだしたのだ。

僕はこの光景をみたことがあった。そうだ。ルネ・マグリットの名画「恋人たち」だ。1928年に制作されたこの油絵には、顔を布で覆った男女が口づけをする不思議な光景が描かれている。

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<ルネ・マグリット作「恋人たち」 Artpediaより引用>

「恋人たち」という題名は西洋美術では伝統的に用いられるものだ。そんなありきたりな表題の絵に布を顔で隠した男女を登場されることで、マグリットは見る者を幸せにするのではなく不安にさせ、動揺させようとしたのだった。

マグリットが描いた顔の見えない恋人と同様に、タオルで顔をグルグル巻きにしたおっさんは僕を不安にさせた。サウナ石を挟んで向かい合う形で反対側に座っていたおっさんはちょうど僕の目の前に位置していた。さっきまで鬼の形相でタオルを回していたおっさんは、今では嘘のように静かだ。タオルで顔を覆っているので表情を伺うことはできない。もしかしたらタオルの向こう側から僕をじっと見ているのかもしれない。何やら不安な気持ちに襲われながら、タオルの向こう側にあるはずの彼の目をグッと睨みつけた。

数分後、タオルのおっさんは再び顔を出した。すくっと立ち上がり、柄杓で水をすくいサウナ石にかけた。2度目のロウリュだ。しかしおっさんは水をかけたままその場を動かなかった。ロウリュの熱を誰よりも近くで受け止めたいかのようにじっと動かず、ただおっさんは立っていた。

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<マグリットの絵のおっさんのように奇妙に立っていた>

しばらくして軽く一礼をしたのち、おっさんはケロサウナを後にした。あれは一体なんだったのだろうか。マグリットの絵よろしく、奇妙な余韻を残したおっさんだった。サウナにはいろんなおっさんがいる。

そして彼に続き僕らは外に出た。おっさんのタオルぶん回し熱波によって体はガンガンに熱い。サウナの真横にはシングルと呼ばれる水風呂が。今行くしかない。僕は意を決して脚を踏み入れる。

水風呂の名前がなぜ「シングル」なのかと疑問に思うかもしれない。答えは簡単。この水風呂の水温が一桁台だからシングルなのだ。一般的な水風呂は15-20度と言われている中でこの日のシングルは7度。正気の沙汰ではない。普通の人間ならまともな精神状態では入れないだろう。しかし今はケロサウナで万全のコンディションが出来上がっていた。えいや!と、僕はシングルに右足を突っ込んだ。

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<最強の水風呂"シングル" SHIORIより引用>

冷たすぎて反射的に脚を引っ込めたのはこれが人生で初めてだったかもしれない。熱々のお風呂に爪先だけ入れて熱すぎて引っ込めた経験は誰しもあるだろう。それと同じだ。しかしこれでやめてしまってはかるまるに来た意味が無い。命の危険を顧みず、逃げたいという本能を理性で封じ込め、僕はシングルに飛び込んだ。


ヒッッッッッッッッ

あまりの冷たさに呼吸が止まった。30秒は耐えてやろうと思ったが、とてもじゃないが無理だ。5秒と立たないうちに罰ゲームで熱湯風呂に突き落とされたお笑い芸人のようにシングルから飛び出た。さっきまで熱々に蒸された体はわずか5秒のうちにキンキンに冷えていた。

そしてそのまま外気浴へ向かう。今いるのは9階。10階の屋上に行けば、池袋の夜空を見上げながら外気浴ができる。10階へと続く階段はまさに文字通り天国へと登る階段だ。はやる気持ちを押さえながら上りきり、ドーンと寝っ転がれる椅子に身を預けた。

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<寝っ転がれる外気浴 SHIORIより引用>


なんという快感。

なんという絶頂。

なんという開放感。

90度のサウナから7度の水風呂へ。その差、83度。温度差にバグった体は外気に触れることで正常な状態へ戻ろうとする。この戻る過程、血の流れを沈め、昂った精神を落ち着かせる過程こそが「整う」なのかもしれない。

外気浴をしていると、異様な光景を見ても些細なことのように思えてくる。僕が寝ているすぐそばには水深1mの深い水風呂がある。実はこの屋上には「薪サウナ」と呼ばれる薪ストーブのサウナがあり、そこに入った人がそのまま水風呂に入れるのだ。一人、また一人と薪サウナから出てきては頭から水風呂に潜る。その光景はまるで培養槽につけられ実験台となった人間のようだった。SF漫画でよく見る光景だ。


中に入ってるのが美少女ではなくおっさんなことが唯一違う点だが。そんな非日常感溢れる光景もサウナの一部として楽しめるくらい、僕の心は穏やかになっていた。

サウナの熱気と水風呂の冷気が池袋の空へと吸い込まれていく。僕は椅子に仰向けに寝っ転がり、空を見上げた。池袋の空に星は見えない。そこにあるはずの星は都会の光によってかき消されてしまった。しかし完全に整った僕の目には、雲の向こうにある星たちの輝きが見えた気がした。

「かんじんなことは目に見えないんだよ」

僕の大好きなサン=テグジュペリ「星の王子さま」の一節だ。目ではなく、心で見なくては肝心なことは見えてこない。サウナも同じ。今では「整う」という言葉だけが一人歩きしている。しかし実際にサウナを体験してみなければ「整う」の正体は分からない。そしてとてもじゃないがこの心地よい感覚は「整う」という短い単語だけでは到底形容できるものではない。僕は作家だ。この「整う」の正体を自分の言葉で表現すべく、今日もサウナに足を運んでいる。僕にとってサウナとは、自分の言語化力が試される戦いの場でもあるのだ。


その後、薪サウナと深い水風呂も堪能し満足し切った僕はかるまるを後にした。新しい場所に行くたびに、サウナは僕に不思議な出会いをもたらしてくれる。この世には一つとして同じサウナはない。それと同様に、二度と同じメンバーでサウナに入ることもない。誰とも会話せず、黙々と熱さに耐える。文字通り裸の付き合いがサウナにはある。この不思議な出会いを求めて、僕はまた新たなサウナに行くのだろう。

さあ、次はどんなサウナが待っているのだろうか。

それでは素敵な1日を。


<かるまるのホームページはこちらから>
https://karumaru.jp/ikebukuro/





最強になるために生きています。大学4年生です。年間400万PVのブログからnoteに移行しました。InstagramもTwitterも毎日更新中!