見出し画像

暇という最強の武器

僕は森博嗣という作家が好きで、彼の本を中学2年生頃から定期的に読んでいる。森博嗣はとても変わった作家で、名古屋大学の助教授を勤めながら、生活の足しにするためにある日突然小説を書き始めた。ろくに小説も読んだことがない生粋の理系である森博嗣の作品は一作目からヒット。そして驚いたことに彼は自身の著作「作家の収支」で今までの収入を全て公開している。この本が書かれた2015年時点で総発行部数1400万部、総収入15億円というとんでもない額を稼いでいることが記されている。ちなみに森は今も昔も変わらず「お金のために作家をやっている」とはっきり公言している。

僕が初めて出会った森博嗣の小説は「スカイ・クロラ」で、そのひたすらに寂しく孤独な世界観に惹かれてファンになった。実は森の代表ジャンルは推理小説なのだが、スカイ・クロラのように純粋な小説もある。

他にもエッセイを多数執筆しており、何とデビューしてから2015年までの19年間で280冊もの本を出している。1ヶ月あたり1冊以上という意味が分からないハイペースにも関わらず、森は一度も締め切りに遅れたことがない。遅れるどころかほぼ全ての仕事を締め切りの数ヶ月前には終わらせているのだ。

一体なぜそんなに早く仕事が終わるのか。森は著書「悲観する力」でその秘訣を語っている。

まず「急ぐ」というような事態になるな、ということが重要だろう。プロの作業を見ていると分かるが、絶対に急がない。プロほど、時間の計算ができるから、慌てるような事態にならない。アマチュアは、なんらかの〆切があれば、直前になって大騒動になる。プロはコンスタントに仕事を進め、徹夜などしない。そういったペースの仕事が最も安全で、最も効率が良く、出来上がりの品質も高くなるからである。
"「悲観する力」より引用"

何のことはない、ごく当たり前のことである。「直前になって焦っても良いものは作れないので、トラブルが起きても大丈夫なように早めに取り掛かる。」そんなの誰でも分かっている。でも、これが多くの人にとっては難しい。

ここで少し僕の話をしよう。僕は昔から、「何でそんなにいろんなことをする時間があるんだ」と周りから驚かれてきた。特に大学に入ってからはそれが顕著だった。大学2年までサークルに2つ入っていて、バイトも2つやっていた。理系なので週1で実験がありレポートを書くのに何時間もかかっていた。しかしそれでも友達と遊んだり、週3でジムで筋トレしたり、本を読んだり、海外旅行に行く時間が有り余っていて、時間がないと焦ることはほとんどなかった。

その理由は簡単で、自分が興味のない予定を一切入れなかったからだ。サークルには行ってもその後の飲み会にはほとんど行かなかった。やることがあるのにお酒を飲んで帰宅が遅くなれば明日のコンディションに支障をきたすからだ。ジムの筋トレも1人で黙々と取り組み1時間程度で切り上げた。おじさんの会話に巻き込まれたら時間を奪われるのでイヤホンをつけて話しかけられないようにしていた。当時は片道2時間かけて通学していたが、その時間は本を読むか寝るかのどっちかだった。興味のない予定が一切ないので、浮いた時間を課題に当てることができた。おかげで実験レポートやテスト勉強を直前になって焦ったことはなく、今までの人生で一度も徹夜をしたことがない。

ブログのおかげでバイトをする必要がなくなり、自力で一人暮らしをする資金が貯まってからはもっと暇になった。休学を経て今年から復学したが、卒業に必要な単位を3年の時点で取り終えていたため授業はない。週末に彼女や友達と遊ぶ以外、本当に何も予定がない。本当に何も。そしてこの「暇」は僕にとって大きな武器になった。

暇だと、誰かの誘いにすぐに飛んでいくことができる。もちろんどうでも良い誘いは秒で断る。僕が飛んでいくのは、どうでもよくない、大切な誘いだ。例えばお世話になってる目上の人から何かの会に呼ばれたら、即座に「行きます!」と返事ができる。「意識高いこと言っといて目上の人間の言いなりかよ」と思うかも知れない。でもこの即レス&フッ軽は人間関係において本当に大切で、このおかげで今の僕があるといっても過言ではない。

尊敬する人からの誘いにいつでも飛んでいくと、「こいつは返信早いし、いつも来るな」という好印象を与えることができる。これが予定がパンパンで返信も遅く、「すいません、バイトで返信遅れました。その日はインターンで行けないです...○日なら空いてます!」とか返されてしまうと、じゃあいいやとなってしまう。この点においても暇な状態はとても得をする武器になる。

勉強や仕事をする上でも暇は強い。僕は本当に暇なので、何かアイデアが思い浮かべばその場でパソコンを開いて文字に起こすことができる。執筆のアイデアはボーッとしてるときに浮かぶことが多い。そのボーッとした時間も暇なときにしか訪れない。昔バイトをしていたときはせっかくアイデアが思い浮かんでもシフトが終わるまで何もできなかったので辛かった。読書も今なら好きな時間に好きなだけできる。卒論のために研究もしているが、とにかく暇なので全く時間に追われていない。院には進まず就職するので正直研究に対するモチベーションは低いのだが、それでも時間的余裕があるおかげで順調に進めることができている。

冒頭で紹介した森博嗣に至っては、何と今では1日に1時間しか仕事をしていないと語っている。執筆で稼いだ莫大な資金で今は海外のどこか涼しい国でのんびり暮らしているらしく、1日1時間の執筆以外は趣味の鉄道模型を組み立てたりと、とにかく暇だと語っている。森にとって執筆とは既に頭の中で組み立てたイメージを文字に起こすだけの「作業」で、1番大切なのは何もしない時間にストーリーを頭の中で完成させることなのだ。暇がないと、いつまで経ってもストーリーは出来上がらない。

一方で暇を嫌ってパンパンにスケジュールを詰め込む人がいる。それもいいとは思うが、僕は嫌いだ。1日に予定が3つ以上あると心に余裕が持てない。世間一般には暇なのは悪いこととされているが、それは「暇」=「何もしない時間」だと思っているからだろう。僕にとっての暇とは「好きなことを好きにできる時間」のことで、決して何もしないわけじゃない。バイトなどあらかじめ決まっている予定をこなすのは作業であって、言ってしまえば誰でも機械的にこなせてしまう。

差がつくのは誰からも指示されない自由な暇な時間に何をするかだ。いつも予定がパンパンに詰まっている人は、いざ暇ができると何をしたらいいか分からない人が多い。社会人になった僕の友人にも一定数このタイプがいる。彼らは仕事以外の時間、一人でいるときに何をしたらいいのか分からないらしい。本を読んだり、勉強したりという選択肢が存在しないのだ。それはもったいないなと思う。日頃から暇に慣れていないと、一人の何もすることがない時間に耐えられないのだ。

僕はここ半年、週末遊ぶ以外は平日ずっと一人で暇だ。暇だけど、やることは無限にある。書きたいブログも100個以上あるし、買ったままの本も30冊以上ある。でもそれは締め切りがある仕事ではない。自分の裁量で、好きなタイミングで取り掛かることができる。そして他にどうしてもやらなくちゃいけないことができたら、いつでも中断してすぐに取り掛かることができる。とにかく急な誘いやトラブルに対する柔軟性があって、焦ることがない。

暇の力はすごい。暇だと、好きなことが何でもできる。でも、暇じゃないと、好きなことが何もできない。何年続くか分からないが僕は来年から就職する予定だ。確実に僕の自由な時間は大幅に減ってしまう。それでも極力家を会社から近いところに借りたりして自由な時間を確保したい。暇な一人の時間がないと、たぶん僕はつまらない人間になってしまう。

最後に森博嗣の本のおすすめを一冊。「喜嶋先生の静かな世界」は読むと勉強がしたくなる本だ。大学受験のときに読んで、あれだけ勉強が嫌だったのに今すぐ机に向かいたくなった。「勉強の意義」とかそんな暑苦しいことは書いていない。名古屋大学の助教授だった森博嗣は生粋の研究者である。まだ人類が誰も発見していないことを自分の頭で見つけるのが研究であり、孤独だが崇高な戦いである、という学問の尊さをこの本は教えてくれた。

特定の作家を推すことはしたくないが、森博嗣は僕の人生観を大きく変えた作家なのは間違いない。彼に中学生で出会っていなければ、今の僕はいなかっただろう。もし興味があればぜひ読んでみてください。

それでは素敵な1日を。



最強になるために生きています。大学4年生です。年間400万PVのブログからnoteに移行しました。InstagramもTwitterも毎日更新中!