フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第3話 部活

『けいおん!』というアニメが人気を博した。残念ながら僕が高校生のときにはまだなかったのだが、僕も大好きな作品。何か大きな事件が起こるわけでもなく、平和に過ぎる時間を描いたその作風は「日常的」だと言われていた。

だが、本当の日常を甘く見てはいけない。あんなに素敵な日常は、非日常である。「日常的」と「日常」は全く違う。

『けいおん!』の世界は「日常的」かもしれないが、実際に存在する「日常」というのは、誰とも会話をせず、自分の席に座り、じっと時間が過ぎるのを待つことなのである。


それはさておき、実は僕も軽音楽部に入ろうと思っていた。

軽音楽部に入って、同じ一年生4~5人でバンドを組む。

そうすれば、そいつらとは永遠に友達である。

楽器なんてやったことがなかったけど。ギターでもベースでもキーボードでも、これから練習すればいい。僕は痩せ形だからドラムということはないだろう。ドラムは太っている人がやるものだ。

楽器を担いで校内を歩く自分。そこに向こうから歩いてくる、同じバンドのメンバーと「よう」「おう」なんて挨拶を交わす。教室で女の子から「ライブやるんでしょ? 見に行くね」なんて声をかけられる。

部活の時間になるとバンドの皆で集まって、ワイワイ話しながらジャラランと楽器を奏でて、練習する。メンバーの一人としての確かな存在感を感じながら、充実の汗と笑顔を浮かべる。

そんな日々の青写真を思い描いていた。

入学して数日後、部活動の説明会とか、見学会のようなものが、放課後、各所で開かれていた。

案内用のプリントを見ながら、一年生たちは入りたい部へ散っていく。

音楽系の部活は、吹奏楽部と、音楽部というのがあった。その音楽部の方で、軽音楽とアンサンブルに別れて活動しているらしかった。

じゃあ、そこだなと、部活見学に行ってみることにした。

一体、どんなやつがいるのだろう。あまりガラの悪いやつとは組みたくないところだから、あまりロックの精神がなさそうな、いい人と上手いこと組めればいいのだが。

やや、緊張しながら音楽部の説明会場の教室の戸を開け、中に入ってみる。

………………。

説明会に来ている一年生が、僕しかいなかった。

誰も一年生が入らないかもという状態だったようで、「本物の一年生?」「すごい初めて見た」みたいなノリで、男女合わせて6~7人の先輩たちが、とても歓迎してくれた。

顧問の先生がやってきて、説明してくれた。

「今年から、軽音楽の募集はなくなって、音楽部ではアンサンブルだけの募集になったんだよ。もしバンドがやりたかったら、個人的にやってもらう感じなんだけど……」

……どうりで。

「じゃあ、アンサンブルをやるってことでいいかな?」

「いえ、僕はバンドがやりたかったので」

と、言えなかった。

思い切り入部希望者として入室している。ここで「間違えました」などと言えば、先輩達の笑顔は曇り、「なんだ、冷やかしか」「けっ、知らずに来たのかよ」「よく調べもせずに……」とつばを吐かれてしまうだろう。

……それに先輩たちのこの歓迎ぶり。

別に友達や仲間を作るという意味では、バンドでも、アンサンブルでも、同じである。もちろん個人的にバンドを組む友達なんていやしない。

他に入りたい部があるわけでもない。

(先輩たちもいい人そうだし……)

流されるように、そのまま、その音楽部に入部してしまった。 

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