『さよなら僕の性格』第7話 Y先輩(3)
次の日も、朝からY先輩のことばかり考えていた。
そして、教室で頭を抱えながら、昨日、誕生日が同じだったことに興奮して、こちらからはY先輩に「おめでとう」を言えていなかったことを激しく悔やんでいた。
部活に行ってみる。Y先輩がいた。
いつものように挨拶してくれた。
楽器の練習に真剣なものもおらず、先輩たち同士が楽しそうに話している、いつもの部活の風景。僕も少し離れて、何食わぬ顔で聞き耳を立てていた。
「明日ね、デートなんだ」
Y先輩がいきなり言い出した。気が気でなくなる。デート!? 彼氏がいるというのか? 昨日の俺との下校は遊びだったというのか?
「……お父さんと」
なんだ、お父さんとか。くぅ。やきもきさせやがって。そうやって、男どもの反応を楽しんでいるのか? 魔性の女め。
いや、Y先輩の言葉にやきもきしようがどうしようが、僕に何が出来るわけでもない。
僕は少し離れたところから、Y先輩たちが話しているのを聞いているくらいしか出来ないのだ。
なぜかそうなってしまう。自分から話の輪に入っていくことが出来ない。
どうして僕はこんななのだろう。
ただそこにいるだけの存在。情けない。
いつだったか、そのくらいの時期に、僕と同じ1年生の女の子が二人、部活の見学に来た。
結局その二人は部には入らなかった。
きっと僕のせいだ。
僕がいるから、入らなかったんだ。
入ったら僕と関わらなければならない。あんなのと3年も一緒にいるなんて、考えただけで気まずいと。きっと、それが嫌で……。
僕は、部に大きな迷惑をかけている。しゃべらないせいで雰囲気を悪くしている。
たぶん口に出して言わないだけで、あのときみんな、僕さえいなければと思ったに違いない。そうしたら、女の子二人が入って楽しい部になったのにって。
先輩たち、申し訳ないです。せっかく、温かく迎え入れてくれたのに。こんな僕で……。はずれでしたね……。
やがて、Y先輩たち3年生は、夏前に部活を引退することになる。
親切に接してくれた3年生の先輩たちと関わる時間は、ごくわずかだった。
この時期から、尾崎豊の『OH MY LITTLE GIRL』を聴くと、小さなY先輩のことが思い浮かぶようになった。それまでは、「OH MY LITTLE GIRL」が「甘いイルカ」に聞こえて、どうしても、イルカが思い浮かんでしまう歌だったのだけど、イルカのテーマ曲からY先輩のテーマ曲へと変わった。