フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第9話 夏休み(1)

勉強で一番になって、普段僕のことを無視し、いないように扱い、何の価値も見いだそうとしない周囲の人間を見返してやる。

方針は決まった。

今にしてみれば、歪んだ発想である。だが、残念ながらこれは、まだ序の口である。歪み始めに過ぎない。前もって言っておくと、ここからさらにおかしくなる。この先もっと本格的にぐにゃっと曲がる。


部活は、3年生が引退して、人数が激減した。それまで部は3年生が大半を占めていた。2年生は女子が2人だけだった。

その2人と僕、合わせて3人だけの部活。

この2人とは、僕が入部したとき、はじめましての挨拶を交わしただけの関係だった。

2人はいつもふたりで話をしていて、ふたりの小さな世界を作っていた。

僕もまた一人でひとりの世界を作っていた。

それまで3年生たちが太陽として中心にいるとすると、1年生の僕という小惑星と、2年生の2人の惑星がそれぞれ反対側の軌道で回っているような感じだった。

今まで、大きな太陽に隠れてて、お互い見えなかったような関係。

それが、太陽がなくなって、急に見えるようになった。もう、お互いどう接していいのかわからない空気。

顧問の先生が間に入って、なんとか形を保っているような部になっていた。

そんな空気の中で、夏休みを迎える。

先生の指示で、夏休みに入ってからも、部活に出かける日がたまにあった。

3人で椅子を並べて、バイオリンを練習する。

先輩のうち一人が僕の腕の毛を見て、もう一人に「男性の毛って気持ち悪いよね」と言った。この人はややおどけたところがある人ではあった。

それを言われたもう一人の先輩は絶句し、(そんなこと言っちゃだめだよ)と言う気持ちなのか、焦ってフォローしようとしているのが感じ取れたが、「うう…………ま、いいか」と言葉を濁した。何もフォローは出来ていなかったが、僕としてはその優しさや戸惑いは伝わってきて、かたじけない気持ちになった。

僕は腕の毛に対して何か言われても、そんなに傷つくことはないが、僕本人の前で、その先輩がなぜそれを言ったのかは不可解だった。

そのKY発言に対して、否定も肯定もできず「ま、いいか」としか言えなかったもう一人の先輩。

そして、最初から、終始何も言えない僕。

客観的になら、観察対象として面白そうな3人だが、高校生活最初の夏休み、残念ながら、僕はその3人を客観的に観察できる立場にはいなかった。

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