フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』プロローグ

どこのクラスにも、一人くらい、友達を作らず、自分の席に座ったまま、何もしゃべらずひとりで過ごしている人物はいるものである。

そして、それが僕である。

まさか自分がそうなるとは思わなかった。

そんなことになるのは、よほど性格がひねくれ曲がっている、どこかおかしなやつだけだと思っていた。

僕のような普通の感覚を持った普通の人は、そうはならないと信じていた。

むしろ、大人しいけど、人の気持ちのよくわかる優しい子だと言われて育ってきた分、周りのみんなを安心させるような、愛される存在になるものだと思っていた。


朝、登校して教室の自分の席に座る。担任の先生が出席をとる。

名前が呼ばれ、「はい」と返事をする。

その「はい」がその日、僕が発する唯一の声である。

そして一日、自分の席から動かない。動くのは、体育の授業などで、移動が必要なときか、トイレに行くときだけである。

これが、高校生の頃の僕の3年間の主な過ごし方だった。

休み時間。他の人は、友達と話をするため、自分の席を離れたりする。僕にはその必要がない。

昼休みになると、みんなあちこちに散らばって、机をくっつけたり、ベランダに出たりしてお弁当を食べている。外でキャッチボールしている奴もいる。

僕は自分の席に座ったまま、鞄からおもむろに弁当を取り出して食べる。

母が持たせた弁当で、平たい弁当箱だから鞄に入れるとき横向きにしなければならず、ご飯が必ず偏る。それでも「こっちを下にして入れれば潰れないから」と、ある程度見た目が保てるように計算して盛りつけてくれていた。

そんな気遣いもむなしく、僕は弁当の見た目や味がどうかなんて、考える余裕さえなかった。

周りから、笑い声が聞こえてくる。

その笑い声が、僕を見て「ああはなりたくないよね」と噂をして笑っているように聞こえて、なるべく顔を上げないように、玉子焼きを飲み込む。

食べ終わると、弁当箱をしまい、それから、昼休みが終わるまで、しばらく、机の木の木目を眺めて時間をつぶす。

木目の線の間を歩く小さい人を想像したり、木目の線を見ながら、この2本の線の間にもう一本線を足すとしたら、どういう流れにしたら自然かなと考えて、シャーペンで線を書きたしたりしていた。

毎日それをやっていたから、もし、木目に線を増やす仕事があったら「すごい新人が現れた」と騒がれるんじゃないかというくらい、木目の線の流れを見る力がついた。

木目を見つめながらいつも考えていた。

「どうして、こうなってしまったんだろう」

そうなってしまった高校生にとって、当然の疑問だった。

しかし、あれこれ考えるだけでわかるはずもない。その時の僕は、あまりに無知だったのだから。 

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