フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第10話 夏休み(2)

夏休みというのは学校に行かなくてもいい期間のことである。

学校に行かなくてもいいということは、教室で、周囲の視線や笑い声、あるいは無関心に耐えながら、じっと一日が無事に終わるのを祈るという苦行からの解放を意味した。

部活がある日もたまにはあったが、休みの方が圧倒的に多い。

遊ぶ友達もいないとなると、外に出る理由もないから、大抵は家で過ごすことになる。同居人に父と母と姉がいるが、平日は3人とも働きに出ているので、僕は一人になる。

勉強で学年トップを目指す僕にとって、存分に勉強に打ち込める環境である。

しかし、意に反して、体はプレステのコントローラーに向かっていた。

喉元過ぎれば熱さを忘れるものである。

学校にいるときは、あれほど一人でいるのが辛くて、みんなが楽しそうにしているのが悔しくて、弱い自分が嫌で、唇をかみしめながら「くそ、今に見てろよ」と、気持ちをたぎらせていたのに、「勉強でトップをとって、絶対に見返してやる」と思っていたのに。家で過ごせる安心感から、そんな気持ちも、すっかり薄れてしまっていた。

子供の頃から、大のドラクエ好き。RPG好き。あらゆるロールプレイングを次から次とプレイするのが趣味だった。夏休み、存分にその趣味に打ち込める環境であった。それはもう、アホみたいな顔でゲームばかりしていた。

それから、アホみたいな顔で『RPGツクール』での制作を意識したファンタジーのシナリオを創作する趣味もあった。

当時考えていたストーリーはこんな感じである。


……とある傭兵ギルドに24人目のメンバーとして入った主人公の剣士。ギルドは、依頼をこなすことで報酬を得られるシステムになっている。主人公は名を上げるために、依頼数や獲得金額のランキング一位を目指すことにした。しかし、現在そのランキング第一位は、なんと14歳の少女であった。彼女は戦闘能力は劣るものの、並外れた勘の良さがあり、確実に当たる第六感で、人の嘘を見破ったり、どの道を通れば危険が避けられるかがわかるといった特殊な力があった。強くなれば一位になれると思っていた主人公は、彼女と出会うことで、本当の強さについて考えることになる。

一方、人類最強と言われていた心優しき魔術師が、家族を殺されたことから、復讐のために、巨大な結界を張り、その中心部で魔物を召喚し人間を滅ぼそうとしていた。彼の作った結界を破るには、結界の外周上にある6つの塔を同時に攻め落とす必要がある。ギルドの24人のメンバーたちは4人ずつ6つのチームに別れて、塔の攻略を目指す……


まあ、大体そんな内容。こんなことを考えるのが好きだった。こういうのを中二病とか言うのだろうか。でも、そんなことを考えるのは今でもわりと好きだ。

24人それぞれのキャラ設定、エピソード、武器などを細かく考えてはノートに綴った。「序盤はメンバーの個性を掴んでもらうために、ギルドの仲間たちと依頼をこなすクエストが中心で、中盤以降の6つのチームに分けるところは、ユーザーが自由にパーティー編成できるシステムにしたいものだなあ」とか考えていた。

それにしても、ランキングで一位を目指す主人公、周囲に結界を張って復讐の鬼と化す魔術師……。当時の僕自身の状況そのもので、なんともわかりやすい。

結局そのシナリオは『RPGツクール』で作るには、あまりに内容が煩雑で、ゲームとして完成することはなかった。

当時はファンタジーのライトノベルやマンガもよく読んでいたから、頭の中がファンタジー漬けだった。それはもう、現実から逃げるようにファンタジーに没頭した。

学年トップの成績を目指しながらも、主にそんなことに時間をつぎ込んでいたのである。 

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