フィルム_フェスタ

『さよなら僕の性格』第25話 2年の夏休み

どうにか大学受験で大成功を収め、僕の価値をわかろうとしない周りの人たちを見返したい。

僕のことなど完全無視で、仲間同士楽しそうに笑う人々を毎日眺めているうちに、その思いは募りに募っていた。

どうにかこの夏休み、実力を付けて圧倒的な力で一流大学合格を勝ち取ってやるんだと『ファイナルファンタジーⅧ』をやりながら考えていた。

夏休みともなると、みんな彼女や友達と遊びまくっているに違いない。うらやましいものか。僕にはリノアがいるからいいのだ。大学に行けば僕だって彼女や友達とたくさん遊べる。今は勉強だ。勉強が一番大事なのだ。

そう、みんなが遊んでいる今が差を付けるチャンスなのだ。うわっモルボルやっかいだな。くさい息対策しないと歯がたたないな。

そして大事なのは、それをいかに実現するかだ。みんながやっていることを同じようにやっても圧倒的な力はつかないだろう。普通のやり方では、ダメだ。もっと誰もまねできないようなすごいやり方があるはずだ。

レベルが80を超え、「天国に一番近い島」だかを探索中のゲームを中断し、自転車で本屋へ。

本が好きだ。本屋に行くと、隅から隅まで本を物色し、興味の赴くまま手に取る。参考書、哲学書、マンガ、ライトノベル、爆笑問題の本。そして、めぼしい本を見つけては購入して帰宅する。毎日その繰り返しだった。

ゲーム、本屋、読書、ゲーム、ラジオ。

そんな日々の中、ブックオフで三谷幸喜さんのエッセイ『オンリー・ミー』という文庫本を見つけて買ってきた。

衝撃だった。おかしなエピソード、言葉遣い……。本を読んで、こんなに笑ったことはない。

そして、面白いと同時に、三谷幸喜さんの考え方や、感じ方が、僕とよく似ているということに気付いた。面白いものが好きで、人によく気を遣う。シャイだけど目立ちたがり。人に気を遣いすぎて自らを苦しめてしまう。笑いつつも、言うことのひとつひとつに激しく共感していた。

この時から三谷幸喜という人物に強い興味を抱くようになった。頭を使って人を笑わせる人。僕が憧れるタイプの人だ。三幸製菓の文字を見ると、なんとなく三谷幸喜を思い出す程度には、僕の中で重要な人物となった。

いつか僕も、人を笑わせるような文章を書いてみたい……。

勉強? そうだった。勉強をしなくてはいけないのだ。僕は一流大学に合格して、自分の価値を証明しなければならない。

ゲームや爆笑問題や三谷幸喜ばかり追いかけてもいられない立場だ。わかってはいた。でもそうしているうちに、日はどんどん過ぎていく。

やらなきゃいけない。頑張らなきゃいけない。誰にも真似できないほどのすごい努力で、学年トップの成績を勝ち取らなきゃならない……。

――その夏。どうにか頑張ろうという気持ちを奮い立たせたい僕に、追い風が吹いた。

我が、群馬公国の代表校が、夏の甲子園で全国制覇を果たしたのだ。勉強そっちのけでテレビにかじりついて応援した甲斐があった。

全国制覇なんて、きっとすごい努力をしたに違いない。今度は僕がそれをする番だ! ありがとう球児たち。君たちのおかげで頑張れるよ。

球児たちの頑張りに触発されて、そこから鬼のように頑張る自分というストーリーを自分の中で作り上げ、実現しろと自分に言い聞かせる。

テレビで野球を見ている間に勉強した方が成績が伸びるだろうということに、薄々気付きながら、そんな地味な頑張りより、人が変わったように頑張る自分というストーリーを実現させることばかり、頭の中で描いていた。

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