『さよなら僕の性格』第5話 Y先輩(1)
その人は小さくて、かわいらしい人だった。
教室では、すでに光を反射させる気力すら失い、誰からも見えなくなっていた僕。そんな僕に対してすら、親切に接してくれた部活の先輩たち。その中でも、特に、明るい笑顔で僕によく声をかけてくれた人がいた。
よくしゃべる、人なつこい性格の女性。
自分から人に話しかけられない呪いにかかっている僕にとって、彼女から話しかけてもらえることは、日々の小さなオアシスだった。
Y先輩としておこう。
部活が休みの6月のある日、自転車に乗って帰ろうとしたら、校門を出たところで後ろから声をかけられた。
見ると、自転車に乗って帰ろうとしているY先輩だった。
自転車の前カゴには、キラキラした紙や袋の包みがたくさん入っている。
「こんなにいっぱいもらっちゃったよぉ」
私ね、誕生日だったんだ、とカゴの中の事態を説明してくれた。
驚愕した。
だって、その日は、僕の誕生日だったから。
さらに、驚愕の出来事は続く。
「そっち? じゃ、いっしょに帰ろ♪」
……『いっしょに帰ろ♪』!!?
なんと甘美な響き……生まれて初めて言われた。
「あなたが好きです」と同じ意味ですよね?
『誕生日だったんだ』と『いっしょに帰ろ♪』に気を失いかけたが、気を失う前に、これだけはどうしてもと、
「誕生日、僕もです。僕も、今日誕生日なんです……」
と告げた。
「へえ、そうなの? じゃあ一緒だね、おめでとう」
先輩は笑顔で応えてくれた。
(ほら、こんな大きな共通点が! 先輩、これはもう運命ですね!)
誕生日が同じであることを伝えられて、僕は満足だった。
帰宅ラッシュの校門前、たくさんの制服と自転車が、僕たちの脇を通り過ぎていく。
……たった今、誕生日が同じという、強い絆で結ばれたばかりの僕たちの……。
そうして僕は、自分の鞄以外何も入っていない自転車のカゴを、プレゼントの詰まったY先輩のカゴの横に並べて、帰り道を共にすることになった。
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